12-7

「なっ、盾なんてどこから?」


どうやら驚いているようだ。

それもそのはずだ。さっきまで持っていなかったものを今持っているんだから。


≪武装展開≫と呼ばれるそれは機体に素粒子レベルにまで分解、保存した武装を機体のエネルギー源である粒子を消費することにより再び取り出すことらしい。

ちなみにこれらの粒子関連のシステムは全てコアである結晶体へ覚えさせているとのこと。


ただし専用機などに用いられる純粋なコア内部にはブラックボックス部分であるデータが含まているため光牙などが用いている装甲間に圧縮した粒子を流し続けることによって装甲値を底上げする≪脈動粒子システム≫などの処理が困難なデータを覚えさせるとほとんど空きが無くなるため、保存することが出来なくなるケースもある。とかなんとか。


「ふぅ~」


間一髪。

機能に関してはよくわからないけれど、僕は何とか生きていることに安心し、大きく息を吐く。

これをやるのは初めてだったが、以外とうまく行くもんだ。


量産機にはあらかじめもしものための大型の盾や機関銃が粒子化され、保存されている。

身を守る粒子シールドを少しばかり消費するが、直撃を食らっていたらもっと減っていただろう。


量産機には専用機と違い稼働時間に限界があるが稼働可能時間は残り70時間とまだまだ全然余裕がある。

粒子を消費する兵器を使用すれば残り時間は徐々に減っていくが、何とかなるだろう。


「盾があろうとこれなら」


彼女は後ろ腰の電磁砲(レールガン)を取ってこちらへと向ける。

既にチャージは完了しているようだ。

彼女の狙いを定めるとすぐにその引き金を引く。

パシュンという音とともに弾が銃口から吐き出され、こちらへとものすごい速さで突っ込んでくる。

この距離で避けるのは間に合わない。

僕はすぐに盾に身を隠す。


「ぐぅっ!」


前回の時よりも威力が上がっているのかそれともこちらの性能が落ちているからなのか分からないが腕にものすごい重さがかかり、激しく火花を散らす。

すぐにこのままでは貫通してしまうのでないかと焦ったが、弾丸は盾の表面を滑り逸れていき、腕の装甲をかすめて後ろの方へと飛んでいった。


「ふぅ~」


一難が過ぎ、僕は安堵の息を漏らす。

あれをこれ以上は撃たせられない。

装甲は前より厚くても恐らく貫通するだろう。

僕は盾を背中に取り付け、エナジーサーベルへ再び粒子を供給し構える。

幸いチャージが完了するまでにはまだまだ時間があるはずだ。

それまでにあのレールガンを破壊しないと、また撃たれたら今度はたぶん殺られる。


「くっ」


彼女はレールガンを腰に戻し、再びマシンガンに持ち替える。

やはり彼女はレールガンのチャージ完了まで時間を稼ぐつもりのようだ。

恐らく今度は盾で防げないように出来る限りの近距離で。

そこを狙うのも悪くはないが、もし撃たれてしまったときという場合のリスクが高い。


ならやはりチャージ完了前にそれ自体を破壊する。もしくは電力を供給しているのであろうあの黒いコードを断ち切る。そのどちらかをした方が安全だ。

僕は盾をつかんで取り外し、くるりと後ろから回すように持ってきたその盾を構える。

カンカンと弾を弾く音をたてながら僕は彼女へと近づいていく。

彼女から見て僕の身体が盾に隠れるようにしながら飛んできたミサイルの直撃寸前を見計らって上へ飛び出す。

こちらを見失った僅かなスキをついて狙いたかったが背中のバックパックに隠れて狙えない。

僕は彼女の後ろへと回り込み、腰のレールガンを破壊するためにサーベルを逆手に持ちかえてそれのみを狙ってサーベルを振り上げる。


「リラ、危ない!」


そう叫んだ声が僕と彼女の耳に届くと同時に声の主が目の前の彼女を突き飛ばす。


「あ…」


馬鹿! なんで……。


そう思ってもこの手を止めるのは間に合わない。

本来ならば彼女の持つレールガンのみを破壊するつもりだった光の刃はその子へ向けて深々と突き刺さる。

一瞬の出来事。

僕は急いでサーベルへのエネルギー供給を止め、当たっている柄の先を震える手でゆっくりと放す。

血は出なかった。

恐らくサーベルの熱で焼けてしまったのだろう。

これは何かの間違いだとそう思いたいが、目の前のその子の胸元には穴が開いているし、恐らく吐血したのだろう顔を覆う装甲の隙間から赤黒い液体が滴っていた。

そしてそれは僕がし出かしたことを十二分に物語っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る