12-6

なぜ奴は現れない?


戦闘開始から20分。

リラは仲間から借りたスコープを通して戦闘の様子を眺めていた。


たった今、第二隊が戦線に加わった。こちらもやられているが、敵の方も倒している。


だが、一向にあのオレンジ色の奴が現れる気配はない。

あの時は私が敵をたくさん倒して倒しつくして近付いて来るものがあまりいなくなって、こちらの持っている弾の数も底を尽きてきた頃に突然現れた。


今回もそんな機会を狙っているのか?

奴の狙いは分からないが、私が狙うのはあいつだ。

奴が現れたらすぐにでも向かって行ってやる!


「ん?」


スコープをずらしていき、戦いの様子を眺めているとそのなかに一人だけ変わった戦いをする奴がいる。

そいつは銃器を使うことなくその手に握ったダガーのみでこちらの隊のみんなを倒している。

文字通り倒している。

他の敵はどこかに潜むスナイパーは私たちの仲間の頭部を撃ち抜き倒している。

周りで戦う他の奴等もこちらの胸部、頭部を狙って撃ってきている。


こちらの装甲はレーザー兵器に対抗すべく耐熱性の高い装甲にしたと言っていたがあまり意味はなさそうだ。

当然それは敵も分かっているはずだ。

分かったうえで狙い、こちらを殺しに来ている。

なのにあいつは違う。

こちらの懐に飛び込み、一思いに殺すことなく対装甲用の短剣で手足を切り取っている。


痛みを与え、苦しめている。

それは戦いを楽しんでいるからのかどうなのかは分からないが、あいつはいきなり殺すのではなくああやってなぶっている。弄んでいる。


リラは許せない思いに力が入り、ギリっと短く歯ぎしりをする。

オレンジ色の奴と一緒にあいつも倒さないと…。

リラは心のなかで密かに強く思い、時間まで静かにスコープを覗き続ける。



一体、これはいつまで続くんだろう?

戦闘を初めて30分はたったんじゃないだろうか?


僕と戦闘を行った5人のたちは戦闘がこれ以上は続けられないと撤退してくれた。

こうやって少しでも死ぬ人が減らせられるならばもっとやらないと…やらないと……。


「はぁ……はぁ……」


体に血はついていないというのに拭っても一向にとれない鼻をつく血の匂い。

そしてそれが強くなるにつれ比例するように荒くなる自分自身の呼吸と心音。


苦しさに堪えつつ僕は機体のセンサーによって周りの様子を確認する。

今、敵はこちらに来ていない。

僕は恐怖からなのかなんなのかもはやわからないがブルブルと痙攣をしている右腕を左手で押さえながら大きく大きく深呼吸をする。


落ち着け、焦るな。周りをよく見ろ!

そう自分で自分に言い聞かせる。

周りで聞こえてくる銃声、呻き声、叫び声。

今僕は戦場のど真ん中にいる。

そして戦っている。


敵や粒子シールドの残量、そして吐き気など様々なものと戦っている。

ふと見た短剣のグリップにはべったりと血のりが付き、手を赤黒く染め上げる。

それがまた僕の恐怖を駆り立てる。


「――!?」


まだ震えが収まり切らないっていうのに。

僕は舌打ち、こちらに近付いて来る敵へと突っ込んでいく。


「はぁ!」


僕は敵から飛んでくる弾丸の雨をよけつつ近づいていき、奴の左腕を切り飛ばす。


「う゛っぐ……うおぉ!」


一瞬だけ敵は痛みに堪えるために動きを止める。

その瞬間を狙って僕は素早くスピンして斜め下、島の上の森へ落とすために力強い蹴りを食らわせる。


頼むから帰ってくれ!

そんな思いを強めつつ、鼻をつく血の匂いを振りほどこうと首を振る。

だが匂いはそう簡単に取れるわけもなく、その匂いに僕はその匂いにかなり酔ってきていた。


『さらに増援だ!注意しろ!』


一息つく間もなくスピーカー越しからのヒロさんの叫び声。

同時にセンサーも反応し、10体もの敵が新たに近づいてきていることを知らせる。


あぁもう! 一体いつになったら終わるんだ!

くそ! 頭がくらくらする。

僕は自分の頭を振って、グッと渇を入れ短剣を握りしめ直す。

そう気合いを入れ直すと同時に近付いて来る敵を見据える。


「――!!」


来た。奴が、黒い機体に巨大なバックパックを背負った敵が。

しかも新たに現れた敵の半分をしめる5体という数以前はあれ一体にこちらは半分をやられた。

今回は以前と違いフルオートではなくヒロさんの指示のもとで動いているので10機弱程しか落とされてはいないが、こちらもなかなか攻撃を当てられず撃退した数は25機。


数だけならまだまだこちらが勝ってはいるが、敵も手練れている。

あの青い髪をした少女もあの中にいるのだろうか?

僕は短剣を鞘に納め、腰のもう一方の刃であるエナジーサーベルを外して左手に握りしめる。

エネルギーが供給され始め、光輝く刃が姿を現す。


ゲーム等ではよく使うが、今は現実、使い方は聞いていたので知っているが使い方誤ると大変なことになるらしいので使わないことにしたがあいつが来たなら出来るだけ使い慣れた形にするのが良いだろう。


とはいえ以前と状況は違うこの量産機でまともにやれるのだろうか?

でも、逃げられるわけないし、やるしかない。

まずは敵の出端を挫くところから。順番に。


僕は増援の敵の先頭を行く敵の量産機であるフリーダム・フラッグへと接近し、手に握る剣を振るう。

手に剣を振るっているという重さはなくただ手を降り下ろしただけという感覚。

しかし確かに刃はあり、目の前の兵士が構えた盾を溶かし真っ二つに引き裂いた。

剣を振るっているという感覚がない。どうも妙な感覚だ。


「くそ、熱には強ぇ金属使ってるってのに真っ二つになっちまった。皆分かってるだろうが当たらないよう気を付けろ!」


目の前の敵は殺してしまったかとも思い焦ったが、どうやら直前で盾を残し後ろへ下がったらしい。良かった。


彼はあの一瞬で危険と感じ取り、それを周囲に伝える。

この粒子の剣はどうも重さを感じられないせいか力加減がうまくいかない。

アニメとかでよく使ってるのは見た目が良いって感じだけなのかね?

カッコいいとは思うけど、実際に使うのはこの時だけにしたいな。


「はぁ!」

「くっ」


後方にいた黒い機体の一機がこちらに近付き、バチバチと大きな音をたてながらスタンロッドをこちらに振るう。

僕はそれを避けるために後ろに下がる。

がしかし背のアームで僕の右手首をがっしりと捕まれ、引き寄せられる。


「くっ!」

「逃がさない!」

「―――!!」


この声は、あの時の青い髪をした女の子の声だ。


わからない。

一体彼女が誰なのかどういう人なのか。

でもそんなことは知らなくてもいいことだ。

だけれど彼女に関しては知りたい。

彼女が何者であるのか、なぜこうも頭から離れないで思い浮かんでしまうのか。

知りたい。


「君は…一体誰なんだ?」


僕はそう独り言のように小さく声に出す。


「その声、お前は!」


聞こえないように呟いたつもりだったのだがその声は彼女の耳に届いたようだ。

その顔を隠すマスクの奥では目を見開き、とても恐ろしい形相でこちらを見ているのだろうということがひしひしと伝わってくる。


ヤバいと思った僕は握りしめた刀を降り下ろしてアームを切断し、彼女の振るうロッドを避けつつ後退する。


「逃がさない!」


彼女はロッドを腰に戻し、バックパックに取り付けられた短機関銃を構えるとすぐに引き金を引く。

僕はその射線から離れるべく彼女を中心としてその周りを飛び始める。


「はぁ!」


さらに太ももの辺りに取り付けられたミサイルポッドが放たれ、それらにはホーミング機能がついているようでこちらを追いかけてくる。


「くそ!」


僕はくるりと反転し、後ろへ下がりながら腰のマシンガンをミサイル弾頭へ向けて撃つ。


「くそ、くそ、くそ!」


悪態をつきながら何度引き金を引こうとも一向に当たらない。


「ヒロさん。援護、お願いします」

『すまん防人…援護はできそうにない。何十人か倒したが、こっちはこっちで手一杯だ。自分で何とかしてくれ』

「…了解」


ここは助けてもらおうと思ったがどうやらそれは叶わないようだ。

今、反転した影響により減速した僕はミサイルとの距離をどんどんと縮めていっている。

今すぐにでも回転し、逃げるということは間に合わないそう思ってすぐに僕は一か八かで意識を集中する。

そしてミサイルはそのまま僕の身体へ突っ込んで来、ミサイルの頭がこちらに当たると同時に爆発を起こす。


「やったか?」


喜びがわずかに混ざる声を聞き、僕は反射的に閉じた瞳をゆっくりと開けて自分自身が無事てあることを確認する。

僕は右手に握った僕の身を守ってくれた大型の盾を振り、煙を払った。

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