12-3
6月23日 金曜日
太陽が昇り始めたばかりでまだまだ薄暗い朝、僕は竜華さんとともに軽いランニングを終えた後、体を鍛えていた。
「21…22…23…」
「ほら、慧くん腕が横に曲がってるよ。腕立てふせはこうやって床につける手は少し内側にして、曲げる腕も斜め後ろに向けて曲げる」
「はい。…22…23…24…」
「ほら、お尻が上がってきてるぞ。背面はまっすずして腕を曲げる。上下はゆっくりでいいから意識して。あぁ、あと手には力を入れないようにね」
「はい。……25……26…」
なぜこんなことを始めたのか。誰かが見たらそう思う人も多いかもしれない。
それは先週の土曜日のことATに呼び出されたあの日からだ。
いつATに呼び出されるかわからない僕は落ち着かなかった。
またあの戦闘をするのかと思うととても怖い。
でも頼みは断れない。だから呼び出されればいかなくてはならなかった。
夜も眠れず少し運動して少し疲れようと思い、外を走っていた。
そこでランニング中だった竜華さんとばったり出会った。
その時にいろいろ話しているうちに僕の体を鍛えてやることとなり、今に至る。
初めは辛いだけだったが、たった一週間でも意外と体力はつくもの。
彼女の出したノルマに段々と時間内にこなせるようにはなってきた。
でもやっぱり散々鍛えてきた人にはかなわないな。
僕が腹筋50回をして今腕立てをしている数十分のうちに腹筋100回、腕立て100回、懸垂(けんすい)100回終えて軽く走ってきているんだから。
「ほらほらぼーとしないで集中集中」
そして今逆立ち腕立てをしている竜華さんに注意を受ける。
「すみません……ところで質問なんですがいいですか?」
僕は頭のなかでカウントをしながら床を見つめて質問をする。
「ん、いいよ。何かな?」
「竜華さんって何でそこまで体を鍛えてるんですか?運動部ならまだしも僕らは特に激しい運動をするわけでもないですし」
「んーそうだね。単に鍛えるのが好きだっていうのもあるけどやっぱり大切な人を守りたいっていうのがあるかな」
「守りたい人、ですか…」
「うん。もちろんそのなかには慧くんたち風紀委員のみんなも含まれてるよ」
「はは、ありがとうございます」
僕はお礼を言いながら立ち上がり、棚にあるボックスから握力グリッパーを取り出し、壁に背中を当てて空気椅子を始めながらグリッパーの強さを少し強めに調節し右手から使い始める。
「それで、『も』ということは他にも誰かいるんですか?」
僕は竜華さんが他の人と歩いたり話したりしてるのを見たことがないからという理由で聞いてみた。
あらかじめ言っておくが、別に悪く言ってるつもりはさらさらない。
竜華さんも特に気にしていないようで普通に答えてくれた。
「そりゃいるよ。でも私は好きでここにいるわけではなくて無理矢理な形でこういう場所につれてこられたから確かに名前を知っていてかつ守りたいと思う人はとても少ない」
「そうなんですか?」
僕は10回終えたグリッパーを右手から左手に持ち替えて再び始める。
「…でも確か以前からここがどういうところなのか知った上で来たくて受験して来ている人がほとんどだと聞いたことがあるんですけど」
というか僕以外全員と聞いたんですが。
「うん、まぁそうなんだけどね。私は嫌だったよ。こんな場所のことなんか忘れて普通に過ごして行きたいそう思った。でも、私には大事な家族を見捨てるわけにはいかなくて……だからねここにいるのは仕方無く、でも自分なりに割り切ってこっちに来ているんだ」
「家族がいるんですか」
「そりゃもちろん家族はいるに決まっているよ。父さんと母さんがいなきゃ私は生まれてこないからね」
「あぁいえそういう意味ではなくて」
「うん、分かってるよ。慧くんの言いたいことは」
彼女はクルリと足を床につけブリッジの体勢から軽々と立ち上がる。
こういうことをさらっとやってしまうのは
「…でも彼女のことは話せられないんだ。ごめんね」
何で……はじめにそう思ったが家庭の事情なんてものは人それぞれ深く聞くものではない。そう思い、僕はいいかけた言葉をのみ込んで少し頭を下げる。
「そう、ですか。…何かすみません無理言った見たいで」
「ううん、気にしないで」
彼女はそう言って微笑んでくれた。
「っと、そろそろ時間だね。ほら、ラストスパート。握力を後左右10回で止めにしてね」
「わかりました」
壁の時計に少し目をやると確かに下校時刻になりかけている。
僕は腕に力を込めて素早く終えて目標回数に到達。
腰をあげて天井を見上げて大きく行きを吐く。
「ほらほら、休むのは後でしていいから今は急いで」
「はい。分かりました」
僕はグリッパーを元に戻し、彼女からお礼を言って受け取ったスポーツドリンクを飲みつつ、更衣室へと向かい、体操服を脱いで汗拭きシートで汗を拭き取ってシートをゴミ箱へ捨ててそして制服に着替えた後僕らは歩きながら学園を出て寮へ向かう。
このトレーニングも習慣付いてきた。
体も少し引き締まって筋肉も多少はついてきたと思う。
そして放課後も委員会後のトレーニングへ向かうおうとした。
しかしその途中、制服のポケットに入れていた生徒手帳が振動する。
僕は手帳を取り出して誰からなのかを確認、ATからであることがわかり恐る恐る受話器のマークに触れる。
「も、もしもし?……はい、はい、分かりました」
僕は通話を切り、呼び出しの連絡が来たことでトレーニングに行けなくなったことを竜華さんにメールで伝えてから以前と同じように転移装置の元へ向かった。
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