12-2

「はぁーつかれた」


なんとか竜華さんの見回り範囲を見終えた僕らは着替えることなく自分の席に腰掛け、机に向かって倒れる。


「お疲れ様」

「あ、ありがとうございます」


僕は竜華さんからお茶を受け取り中身を口に含む。


「ん、何ですか?顔に何か付いています?」

「あ、いや、なんだか慣れなくてね。慧くんだとわかっていても女の子に見えてしまって」

「よしてくださいよ。僕は男です。この長い髪だってウィッグですし、少し出てるように見えるこの胸だって綿入りのパットが服の内側に縫い付けてあるだけですから」

「そうだとしてもそんなにかわいいと自信をなくしてしまいそうだな」

「か、かわいい? 僕が?……いや、そんなことないですよ」

「いいえ、あなたはかわいいわ防ちゃん!」

「めだかさん?」

「そう! あなたは今、とてもとてつもなくかわいいわ。世界の誰よりも誰のお嫁さんになっても――」

「いや、さすがにお嫁さんは勘弁を…」

「そう! あなたは今、この世の中に生きるどんなものよりも…」

「めだかさん?」

「あはは、完全に自分の世界に入っちゃったね」

「失礼します」


ガラリと扉が開き、一人の男性が入ってくる。


「いらっしゃい。何か用かな?」

「はい。自分は1年のコバルト・ファルシュというものであります。実は頼みたいことがあり、不躾ながら早急に協力を要請したいのであります」

「成る程わかった。でも…困ったな。私はそろそろ生徒会に書類を届けないといけないんだ。二人はまだ見回りをしてるみたいだし、ねぇ」

「はい、何ですか?」

「彼のお願いを聞いてあげてもらってもいいかな?私はこれから用があってね」

「はい、それは構いませんけど…」


どうしよう、待たせて制服に着替えてくることぐらいはできる。

だが、だがどう説明すればいい?

二人の女性に挟まれた僕が男であると…いや、言えばいいだけそれだけなんだがその経緯はどう説明しよう?

女性に半ば無理矢理に着替えさせられたなどと言ったところで確実に距離は置かれる。

それにこれから少しの間行動を共にするのだから冷ややかな目で見られ続け、引きぎみに会話をされるのは少し耐え難い。

どうする?どうする?


「あぁ、大丈夫だと思うよ。彼女なら少しすれば落ち着くだろうから」


どうやら僕が反らした先でめだかさんを見ているように思われたらしい。


「そうですね。それじゃあ仕事、頑張ってください」


仕方ない。着替えたりして勘違いされるのも嫌だし、ここは覚悟を決め、このままで行こう。



「それで、頼みたいこととは?」


歩きながら話すと言われ、僕はコバルト・ファルシュから頼み事の内容を聞きながら学園の廊下を歩いている。


「実は、学生手帳をどこかに無くしてしまったみたいなんす」

「手帳を?……んー手帳なんて落とし物、こっちには届いてはいないから多分探せばあると思うけど探しものが生徒手帳なら風紀委員より生徒会に話をしに行った方がいいんじゃないですか?」


生徒会にはそれなりの権限があるし、あそこにはここの学生が今どこにいるのか一目瞭然になる3Dビュアーがある。


「確かにそうなんすが行った時、自分で探せとしか言われず途方にくれてたんす。それで学園の風紀を取り巻く風紀委員ならと思ったんす」

「へぇ、そうなんだ」


生徒会って意外と冷たいんだな。

しかし、知らない人に女性のふりをするなんてことは一生で今日くらいのことだろうけれど気が引けるな。


「それであなたはなんなんすか?」

「へ?何って、何?」

「いや、自分が知る限りは風紀委員にあなたのような女性は知らないのですが」

「わざわざ調べたの?」

「ぁはい、自分面と向かって話すのが苦手で話さなきゃいけないときはよく相手のことを調べて優しそうで自分が話せそうな人に頼むんす」

「へぇ、じゃあぼ…あ、あたしは予想外だったかな?」


くそぅ、なれないな。

一応ゲームとかで女性のしぐさや話し方は分かっているからバレないようにすることはできる。

もしかしたらあざとくなってるかも知れないけど、今さら変えるわけにもいかないしなぁ。


「え? いや、そんなことないっすよ。こうして探し物を探すのを手伝ってくれているじゃないですか」

「それは仕事だから仕方なくって言ったらどうする?」

「え、いや、それは…」

「あはは、ごめんごめん困らせちゃったね。大丈夫だよ。人助けは嫌いじゃないから」

「そ、そうすか。なら良かったっす」

「んふ、それでえっと生徒手帳のことだけど心当たりとかそういうのはないかな?」


なんだろう? やってて凄く恥ずかしいけれど、何か悪い気分ではないかもしれない。クセになってるってやつなのかな?


「ありますけどそういうところは大体もう調べましたよ」

「そう、ならもう一度探してみようよ。探しものって他の人が加わってもう一度探すと案外見つかったりするからね」


うわぁ、何やってるんだろう僕……。凄く恥ずかしい。

でもそれはそれで……って、なんかそう思ってるのかな? そんなふうな気分を感じてるのはそれはそれはなんか凄く嫌だなぁ。


「そうなんすか。ならよろしくお願いするっす」

「ん、任せて」


とは言え、落とし物としての届けが来ていないから手当たり次第に探さないといけないな。

まずは心当たりのあるという場所から順に食堂、更衣室、彼の部活動の部室と探し歩いた。


「見つからないね」

「そうすね」


しかし結局探し物は見つからなかった。

僕らは風紀委員室に戻り、用を終えた竜華さんに彼女の生徒会の友人の一人に頼んでもらい位置情報を調べてもらったがそれでも見つからなかった。

生徒会の人が言うにバッテリーが切れている可能性があるとのこと。

探すのは時間がかかるので後日新たに生徒手帳を発行してもらうように手続きを済ませた。

彼は一緒に探してくれたことにお礼を言ってくれたがどうせならちゃんと見つけてやりたかったな。



6月22日  木曜日



キスキル・リラの独断行動から一週間の月日が流れた。

破損したシェディムも無事修復されている。


「ほぅ、これが彼の考えたギアか。あの時は壊れていたせいかどうかと思ったがこのでかいバックパックなかなかいい感じになるものだ。…そしてこれにリラが乗るのか」


矢神はシェディムを眺めながら呟き、それに対してここの責任者ブレアの部下であるスーツ風の軍服をまとった若い兵が答える。


「ご不満ですか?あのような少女を戦場に送るのは」

「いや、自分からすると言ったのだろう?それならばそれなりの覚悟はもっているはずだよ。何の問題もない」

「そうですか。ならよろしいのですが」

「それよりもだ。今回の作戦は上手くいくのだろうな」

「前回の戦闘データを元に敵の数、戦闘能力を予測、その敵のほとんどが無人の自動操縦であると判明。念のため手馴れた兵を集めて作戦に向け準備をしております」


彼は手に持った端末を見ながらその内容を淡々と話す。


「そのなかに私の用意した兵は」

「含まれています」

「そうか、準備はあとどれ程の時間を要する?」

「あと半日ほどいただければこれの修復作業も終わり、いつでも問題なく出撃可能です」

「そうかい。それで彼女は今どこにいるのかね?」

「は、ブレアさんなら現在ミーティングルームにて…」

「ちがう。私のいう彼女とはこれに乗る少女リラのことだ」

「あぁ、彼女でしたら同じくミーティングルームにて作戦内容を聞いております」

「そうか……」

「何か話があるのでしたら連絡しておきますが」

「いや、いい」

「そうですか」

「では、私はそろそろ部屋に戻るよ。君たちは戦うもの達のために整備を完璧に行ってやれ」

「は、了解しました。では部屋まで」

「いや、一人でいい。ゆっくりと歩きたい気分なのでな」

「そうですか。では私は作業に戻ります」

「あぁ、よろしく頼むよ」


今回の作戦は敵の殲滅及び基地への潜入そして敵情報の入手。

だが、それは叶うまい。

一度襲われた時点で彼は既に情報を消去し終えているだろう。

だから私の部下には情報ではなく戦力になりそうなものを手に入れるよう教えておいた。

可能ならば以前の戦闘データ内の少年を捕らえ、そして再び私の元に置きたい。

彼ならばやってくれる。

私のやりたいことを。

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