11-10
夜勤の人や昼夜逆転の生活を行っている者以外は恐らく眠っているであろう深夜2時。
ヒロはATに昼間の件で呼び出されていた。
「どうも、来ましたよ。AT」
ヒロは軽く会釈し、中へ入る。
「遅い30秒遅刻だ」
「細かいですねぇ。そんなに細かいと剥げちゃいますよ。……と、まぁそれは置いといてえっと何の用でしたっけ?」
「さっき呼ぶときに話したはずだが?」
「はは、すいません。こんな夜遅くに呼びだされたんで恐らく寝ぼけていたんでしょうね」
「自分のことだろうが…」
ATは深いため息をはき、『まあいい』と呼び出した説明を始める。
「本日昼頃、私の所有するラボのひとつが敵により襲われた。物資やデータのほとんどは運び終えているので破壊されても特に支障はないが、彼等がここを襲撃する作戦を行う際はお前が参加するとお前から聞いていたはずだが?まさかとは思うがお前が行くように呼んだのではないだろうな?」
ATは威圧感のある声でそう聞くがヒロは余裕そうに口を開く。
「あぁ確かそんな話でしたねぇ。……ですがそれを俺が指示できるはずはないですよ。俺はあそこでは少しばかり勝手が出来るだけでただの傭兵ですよ」
「ふむ、そうか。では今回の事をお前はどう解釈する?」
「どうと言われましても、今回は単にイレギュラーとしか言えませんねぇ」
「そうか…」
ATが相づちを打つとヒロのポケットに入っている携帯が振動する。
「ちょっとすいません」
ヒロはポケットから携帯を取り出すと受信許可をタップし、耳に当てる。
「はいはいーどなたですかぁ?…はいはい冗談ですよ。それで何の用ですかねぇ?…へぇ~なるほど…はい。では、その日に…ではでは失礼しまぁす」
話を終え、ヒロはポケットに携帯を戻してクルリと身を翻す。
「失礼しました」
「その電話、誰からだ?」
「AT、まさか人のプライベートまで知りたいんですかぁ?」
「ふん、お前は普段からその話し方なんでな。話したくないなら別に構わん」
「おやおや、意外と冷静に返してきますね」
「身内にお前みたいなのがいるんでな。慣れている」
「あぁ、なるほど……分かりました。さっきの電話はブレア…俺の今潜入しているところでの上司にあたる方からです。『釣り人が港へ向かった』と」
「なるほど了解した。しかし、問題はないのだろうな?」
「えぇ、通信を傍受されないようにするために通信機器類を持たせないように、と提案して承諾していただきました。万一のために任務終了後口を封じてはおきますがねぇ」
「そうか…ではあとは」
「えぇ、釣り人がエサを持っていくのを待つだけです」
次の日
6月15日 木曜日
本日は勝ち残った10数人の人達、及び1回戦敗退者によるトーナメントが行われる。
というわけで勝ち上がっていったわけでもなく、1回戦敗退でもない僕は特に何も無い。
昨日のこともあり、観戦する気分でもないので光牙のメンテナンスのための許可を鬼海(きかい)先生からもらい、現在は星那(せな)とともに光牙の整備をしていた。
「全く、一体どんなことされたらこうなるんだよ。回線がショートしてボロボロじゃねーか」
「ごめん…」
「いーよ謝んなくて、向こうもこっちもあの手この手を使って殺りに来てんだ。色々予想したところでこっちの予想外なこともあるさ。とにかくいくらやられてボロボロになっても生きて帰ってこれば直してやるよ」
「ありがとう、よろしくお願いするよ」
「うん、んじゃさっさと直すぞ。ニッパー取ってくれ」
「わかった」
僕は足元に置かれた工具箱から頼まれたものを取り出して手渡す。
「サンキュー、しっかし本当にボロボロだな、確かスタンガンにやられたんだったか?」
「うん、あの時は痺れと激痛が全身に走ってさ、死ぬかと思ったよ」
「死ぬかもじゃなくてそいつが放すのもう少し遅れてたらお前、死んでたかもしれないぜ」
「……マジ?」
「マジだよ。この子がいなかったらお前は黒焦げだったかもな」
「恐いことさらっと言うね」
「ほら、んなことはどーでもいーから口ばっか動かしてねーでペンチ取ってくれ」
「いやいや、どうでもはよくないでしょうよ。もしかしたら僕が黒焦げだったかもしれないんだろ?」
僕はそういいながら工具箱からペンチを取り出し、手渡す。
「どうも…そーだなこの子に残った戦闘記録や傷から解析班が計算したらしいがかなり電流が高いとか言ってたな」
「電流?理科の話だね。電流が高いから焦げたってことなのかな?」
「分からん。私は勉強については全然だ。コードCの38」
「そうなんだ…えっとCのさんはち、さんはち…あぁあった」
「サンキュー…だから私に出来るのはパパから聞いたこと、この子たちを直すことだけだ。あぁ、でも簡単な菓子くらいなら作れんぜ」
「へぇ~じゃあ今度ご馳走してもらおうかな?」
「嫌だ」
「はは、即答ですか」
「そんなに食いたいならこの子に乗ってもっと強くなれ。そしたら考えてやってもいいぜ」
「はは、それは頑張らないとな」
「さて、そろそろ昼メシにするか」
「そうだね」
他愛ない話を挟みつつ、購買で買った昼食を食べ終えてからも着々と修理を進めていく。
「さて、後はここを繋げれば…よし、そんじゃ起動するぞ」
僕らは光牙から離れ、側にあるパネルを使って光牙を再起動させる。
「よし、起動完了」
僕らは無事起動が完了したことをパネルから浮かぶモニターを確認してから僕は光牙に近づいてゆっくりと手に触れる。
光牙が細かな粒子へと変化し、僕を取り囲む。
そして装着した形で再び光牙が現れる。
「展開時、特に問題なし。出力も安定している。後は動作の確認かな」
彼女がそういうと同時に複数のモニターが浮かび上がる。
「腕部……問題なし。脚部……問題なし。抜刀装置、問題なし」
言われる順番に両手を開いたり腕を回したり、脚を出来るだけ上にあげたりとぎこちなくも素早く動かしていく。
「…よし、各駆動系統および脳波伝達網、武装装置に以上なし。後は飛行確認だけどお前はホバリングは出来るか?」
「ん~あれ、結構粒子の調整とかバランスとるのとか結構大変なんだよね。足裏にホバーユニットを取り付ければバランスとるだけでいいみたいだけど本人に伝わる音と振動は結構すごいみたいだしね」
……ってあれ?
そう考えると植崎って意外とすごいことしてるのか?
「いや、別にホバーユニットの話はしてなかったんだが……っておい、話聞いてるか?」
いや、そんなことはないはずだ。あいつはまともに飛ぶことが出来ない。
だがしかし、それは身体中に取り付けたミサイルやらガトリングやらのせいで重量があって燃費が悪いだけで飛べないわけではないんだったな。
んー何だろう?よくよく考えてみると今の順位ってあいつのおこぼれをもらったって感じなのか?えぇ…何かそれやだなぁ~。
「おい!!」
「は、はい!?」
「お前、話聞いてたか?」
「え、えっと……」
「はぁ…もういい。それで、お前はホバリング出来ないんだな?」
「…はい。出来ないです」
「分かった。それじゃあ確認のためにアリーナ開けてもらうよう頼んどくから、夕方ぐらいになったらまたここに来てくれよ。それまでこの子はここで預かっておくから」
「了解。それじゃあ詳しい時間が分かったら手帳にメールでもしてくださいね」
「分かってるよ。もうやることないし、一旦戻ってまた観戦でもするか。…あ、でもお前はそんな気分じゃないんだったな」
「うん。でもやることもないし、もう少しここにいるよ」
「そうか、構わねぇが絶対に光牙そばのパネルや修理器具には触んじゃねぇぞ。結構デリケートなもんも含まれってからな」
「うん、分かってるよ」
「ならいいけどよ…あぁ、そうだ忘れてた」
彼女は着ている作業着のポケットから透明のプラスチックケースに入ったマイクロチップを取り出すと僕に手渡した。
「これは?」
「別で頼まれてた戦闘の記録だよ。確認のために手渡すように言われてたんだろ?」
「あぁ、うん。わざわざありがとう」
「いいよこんなもん。すぐにできるし、大したことじゃねぇよ」
「そんなことないよ。僕にはどうすればいいのか全然分からなかったからね。自分にとって大したことないことは他人にとってはすごいことの場合がある。だからこれは僕にとってはすごいことなんだ。だから、ありがとう」
僕は立ち上がるとそう言いつつ、プイッと横見て顔を少し赤らめている星那の頭を軽く撫でてやる。
さぁ、どうなる?
時々観る少女漫画原作のアニメとかでこうやって追い討ちかけてやると茹で蛸みたく真っ赤になって照れるんだが…現実だとどうなる?
「ば……」
お?顔の赤みが増してきたな。さて、これから?
「ばっかじゃねぇの!」
星那は叫びながら思いっきり僕の股間を蹴りあげた。
「はう!?」
まさか、蹴られるとは……イタズラはやっぱりするもんじゃないな…。
僕は妙な叫び声をあげ、その場にうずくまる。
「おま、なに急に変なこと言ってんだよ。本当にばかなんな。その映像、何回やり直しても後ろの方ノイズだらけでまともに声が入ってねぇんだよ。だから私は全然すごくなんてねぇよ!えっと…ああもう!先にいくからな!」
星那はそう叫び、早足で部屋を出ていく。
言い方、不味かったかなぁ?
「うっ、痛つつ…もう行っちゃったかな?」
僕もしばらくして痛みが引いてきた頃、ゆっくりと起き上がると受け取ったチップを手に持って静かに眺め、昨日のことを思い出す。
あの青い髪の少女、今度はいつどこで出会うだろうか?
彼女のことはなにかを知っている。
思い出したいけど、深く考えようとすると頭痛がとてもひどくなる。
だから今度はゆっくりと話せるような時間が出来たらいいな…。
ならそうするためにどうすればいいのだろうか?
僕にはよくわからないが、とにかく今度いつどこであの子に出会ってもいいように身体は鍛えて強くなっておかなくてはならないかな。
そう思い、僕はトレーニングルームへと向かう。
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