09-5
めだかさんが嬉しそうな顔で花の飾られたカチューシャを僕の頭に着けて一歩下がる。
「…完成ですわ」
彼女は頬を赤らめうっとりとした表情でこちらを見てくる。
こんな状況でなければ、ドキッとしたのだろうな。
「先程着せたメイド服もよかったですが、フリフリのゴスロリドレスも悪くありませんわねぇ」
「グズッ…何で僕がこんな目に…」
まさか出会って数分しか経っていないというのに、縛られて、無理矢理身ぐるみ剥がされて、こんな格好させられて…
「こっちを向いてもらえるかしら?」
写真まで撮ってくる始末。
「んふふ…目に涙を溜めているその顔もそそられますわねぇ…」
あぁ……一時間ぐらいいる気がするけど、誰も助けに来てくれくれないのかな?
「さぁて次はどうしましょう?男の娘(こ)に似合うものはここに全部用意してありますから…ん~次はミニスカポリス? 巫女さん? それともストッキングとミニスカート大きめのシャツで日常スタイルみたいなのにしようかしら?……うんそうしましょう」
めだかさんは手早くハンガーに手を伸ばし、服の準備を済ませてしまうとこちらへ振り返る。
「さぁて…着替えしましょうか」
彼女の手が僕の服に再び伸びる時、何者かが部屋の扉を蹴破る。
「はい、そこまで!抵抗せずに大人しく投降しなさい。でなければ我々風紀委員が貴方に制裁を与えます!」
「あらぁ?もしかしてこれはワタシ、ピンチかしら?」
「竜華さん。もう、遅いですよぉ」
「?…あれ?慧君が捕まっていると思っていたけど、情報ミスがあったのかな?」
「いやいや、僕ですよ。こんな格好僕が防人 慧です!」
「慧君?…んー…確かに面影が残っているね。そっかじゃあ情報に間違いはなかったんだね」
面影ってまぁ、確かに竜華さんと出会ってからそんな月日は経っていないのかもしれないけど…
「さて、めだか…貴女の部は部長である貴女を残して我々風紀委員と生徒会が全員捕らえました。もう一度言います。無駄な抵抗を止め、投降しなさい」
「投降?…したくありませんわね」
「何を言ってるんですか?貴女の味方する人はここにはいないですよ。投降した方が…」
「あぁ?」
白石が言い終わらないうちにめだかさんは小さく舌打ち、怖い顔で彼を睨み付ける。
「うっさいなぁ、ワタシはあんたみたいな男顔でツンツン頭なやつに毛ほども興味なんてありませんの」
「なっ、ツンツン頭の何が悪い!」
「別に悪いとは言っておりませんが、もしかして自覚がおありなんじゃありません?」
「な、なんてこと…がっ」
白石がワナワナと怒りを露にするが、すぐさま千冬さんに物理的に止められる。
「白石黙ってて、話が進まない」
「……すいません」
「そんな漫才をワタシに見せにきたのでしたら帰ってちょうだい。ワタシは今忙しいんですのよ?」
「そうもいかないんだよね。風紀委員の委員長として同じ委員をこのまま見捨てるわけにもいかないし、君を野放しにしておいたら第二第三の被害が出かねないからね」
「そうですか。ですが、ワタシが今貴女方に投降したらもう防ちゃんとは会えなくなるということではありませんの?」
「それはまぁ、加害者を被害者に近づけるわけにはいけないからね…」
「でしたら尚更投降したくありませんわね。……かといってここからの逃げ場はありませんし、そうですわね…」
めだかさんは少し悩んだような顔をし、すぐに何か思い付いたようで引き出しから薄手の手袋を取り出すとそれを竜華さんの顔に向けて投げる。
そして竜華さんは反射的にそれを取る。
「手袋?…」
「受け取りましたわね…では、決闘を申し込みますわ!」
そう言ってめだかさんはビシッ!と人差し指を竜華さんに向ける。
「決闘…?」
「そうですわ。ワタシと貴女で戦うんですの。ワタシが負ければ大人しく投降しますわ。でも、貴女が負けたら投降しません。部活のメンバーたちも解放してもらいます」
「そんなこと私の一存で決められるわけが…」
「そうだとしても貴女はワタシからの決闘の証をその手で掴みましたわ」
「証?」
「その手袋のことですわ。手袋を投げたら決闘の申し込み。そして、それを受け取れば相手は承諾したことになるんですの。…もし貴女がここで頷かないのならば、貴女は勝負から逃げた事となり、ワタシの勝ちとなりますわ」
「……。」
竜華さんも「面倒臭い人だ」とか思っているのかな?
というかいきなり決闘とか、この人…そんなに自信があるのかな?
「委員長…」
彩芽さんが竜華さんを呼ぶと、何やらひそひそと話を始める。
『ここは話に乗っておきましょう』
『でも、私の一存で勝手に決めちゃったら…』
『でも、断ればもっと面倒…話に乗って考える時間を作った方がいいと思いますが…』
『確かに一理あるね…』
何を話しているのだろうか?ここからではよく聞こえないけど、たぶんこの決闘のことについて話しているのだろうな。
「もう!何をこそこそとしているんですの?早く答えてくださいな」
「分かった。その決闘を受けるよ。ただし、場所はアリーナ…時間は今から3時間後。いきなりのことで私達も準備をしなければならないからね」
「…分かりました。では、後ほどまたお会いしましょう」
「うん。じゃあ、また後で」
竜華さんは僕に一瞬だけ視線を送り、部屋を去っていく。
後を追って千冬さんも白石を引きずって部屋を去る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます