09-4
防人が連れられてから少し経った頃。
「会長。現在入りました情報によりますと風紀員の方が一人ターゲットに捕らわれたようです」
生徒会室では書記の『足蹴(あしげ)』という眼鏡を掛けた女子がタブレットに目を通しつつ言う。
「そう、予定通りに事は運んでいるわね」
「そうですね…」
生徒会長『優姫(ゆうひ)』がティーカップの紅茶を口に含む。
「それで…彼女の居場所は分かりましたか?」
「はい、詳しい場所はこの地図をご覧ください」
「成る程。…よい働きですよ」
「ありがとうございます会長。…しかし、捕らわれた方は大丈夫でしょうか?囮にしたとはいえ、少し心配です」
「大丈夫ですよ。彼女は肉体に傷を負わせて楽しむような人ではありませんから…むしろ問題なのは心。彼女に捕まったという会計の文房(ふみふさ)は得意の逃げ足で逃げたようですが、今は隣の部屋で落ち込んでいますからね」
「拷問を受けていなければよろしいですけど…縛られて、天井から吊るされて声が出せない状況の中ムチを持ったあの人が…あぁっこれ以上は言えません!」
足蹴は頬を赤らめ、高まる体温にかけた眼鏡を曇らせつつ、持っているタブレットを抱き締めるようにしてしゃがみこむと体をブンブン左右に振っている。
「って聞いちゃいませんね。…全く私の周りにはどうしてこう、まともな人がいないのかしら…」
彼女は静かにため息を吐くと、机上のモニターが風紀委員会長『竜華』の顔を映し出される。
『どうしたの?優ちゃんため息なんて珍しい』
「あら…これは恥ずかしいところを見られてしまいましたね。いえ、大丈夫ですよ。ここのところ書類の整理やらこの騒動やらで疲れが溜まっているだけですから…」
『確かに…机にじっと向かい合ってカリカリペンを動かしてるのはツラいよね。優ちゃんの仕事手伝った時とかは外でおもっいきり走りたいなぁとか思っていたからね』
「私は音楽をかけた部屋でのんびりと紅茶を楽しみたいと思いますが…」
『あー優ちゃんはそうだよねぇ』
竜華の笑う声を聞きながら優姫は瞳を閉じてカップの紅茶を飲み、カップをお皿の上に置く。
「……ところで話に花を咲かすのは構いませんが、何か用事があって私に連絡をしたのではないのですか?」
『ん、あーそうだった。すっかり忘れてた』
そう言って竜華は頭をかきながら再び笑う。
『実はさ…』
「貴方の部下が一人行方知れずなのでしょう?」
『あれ、知っていたの。だったら初めっからそう言ってくれればいいのに』
「えぇ、場所も分かっていますよ。今からデータを送ります」
『来た来た…ありがとう優ちゃん』
「どういたしまして…それでは私は今回の事に関しての書類を用意しなければいけないので…」
「分かった。こっちの不始末はこっちで片付けるよ」
「そう…では、よろしくお願いするわ」
「うん、それじゃあ終わったら連絡するよ」
通信が切れた事を確認し、カップとティーポットの紅茶がなくなっていることに気がつく。
「足蹴…」
「うへへ……」
「足蹴!」
「あ、はい!な、何でしょうか」
「紅茶をいただけるかしら?」
未だにしゃがみこんでいる足蹴に紅茶を淹れてくるように言う。
「あ、はい。では淹れて来ます」
足蹴がポットを受け取り、部屋の角にあるミニキッチンに向かう。
「竜ちゃんは戦略よりも戦術ってタイプだから風紀委員全員で乗り込んで行くのかしらね。……これは久しぶりに竜ちゃんの戦う姿が見れるかしら?」
優姫は「これが終わったらアリーナにでも顔を出してみようかしら」と嬉しそうな顔でモニターを開いて書類の書き込みを始める。
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