09-3

「うんうん、やっぱり私の目に狂いはなかった。そんじょそこらの女の子顔負けの可愛らしい美人がここに誕生したわぁ」


嬉しそうな声が聞こえてきて僕はゆっくりと目をあける。


「ぅ……ん?」


……ここは…?

誰だ?あのピンク色のふわふわしたのは?

………あぁ、髪の毛か。

確か僕は…竜華さんに頼まれて…。

手を頭に当てようとして、それが出来ないことがわかった僕はその原因を確認する。


「!?」


縄…僕、縛られてるのか?

瞬時に意識が覚醒し、現状況を把握する。

気づいたら縛られていた。というのは湊にもよくやられていたことなので戸惑ったりとかはしなかった。

あぁ、そうか…僕は竜華さんに頼まれてそのめだかって人にやられたんだ…。


「あらら?目を覚ましたみたいね」

「僕を縛ってどうするつもりですか?めだかさん」

「あら、貴方…ワタシの名前を知っているのね」

「ぁ…」


しまった。初対面で名前を知ってることがわかったら生徒会か風紀委員のメンバーだと思われたら警戒される。

竜華さんのことだし、こうなることも予想しているはずだ。

なら、今この場所は逃げ場の無いように徹底的な包囲網を用意している…はずだ…たぶん。

いや、絶対用意している。うん。

なら、この人に警戒心を与えないことが今の僕の役目だ。


「あの…僕は、その…」


…なんと言えば良いんだ?

名前を知っている理由…どうしよう?


「もしかして貴方…ワタシのファンクラブの方なのかしら?」

「え?」


ふぁ、ファン?


「違いました?」

「い、いえ…そうですよ。僕は貴方のファンです」


ここは話の流れに乗った方が良さそうだ。

彼女はキラキラと光輝かせながら満面の笑みをこちらに向ける。

確かにファンクラブが出来ていてもおかしくはないかもしれないほど綺麗だった。


「そうでしたか。貴方が妙に落ち着いているのはそういうことですのね」

「えっと…まぁそうですかね」


湊のせいである程度のことは慌てることはなくなったからな。

いや、今はおかげさまでと思うべきなのかな。


「ファンの方にこのようなことをしてしまってすいません。まずは謝罪させていただきます」


ふわふわした改造制服のスカートを少し上げてどこかのお嬢様のように頭を下げる。


「いえ、出来ればこの縄をほどいてからにしてほしいのですが…」

「ごめんなさいね。それは出来ない相談ですわ」

「な、何でですか?」

「先日も貴方のような中性的な顔の子を連れてきてしまったことがありまして…」


何やってんの?…この人。本当は危ない人じゃないだろうな。

いや、十分危ない人か…。


「その時、彼の縄をほどいてあげましたら逃げられてしまいました。まさかワタシから逃げられる人がいるなんて思いもしてませんでしたから…油断しました」


なるほど、それが竜華さんが言っていた証人のことか…。


「ですので貴方の縄を解くことは出来ません」

「…そう、ですか」


んーどうしよう。別に縄が解けなくても彼女をここに足止め出来ていれば、問題ないけれど…。


「あの、ところで僕はどうして貴方に縛られているんですか?」

「それは勿論ワタシの第六感(インスピレーション)が貴方は変わることが出来ると教えてくれたからに決まってますわ」

「は、はぁ…」

「何を仰っているのか理由がわからない…という顔をしていますわね。まぁ、そうですね…見ていただいた方が早いかも」


めだかさんは部屋の角に置かれた紅いポーチから鏡を取り出すとそれを僕の方に向ける。


「え?」


しかしそこに僕の顔は映ってはいなかった。

別に鏡が表裏逆だったとかではなく鏡がしっかりと表を向き、僕の目の前にある。

でも、そこに僕はやはり映ってはいない。

僕に似ているところもあるが、僕ではない。

頬の紅さも違えば性別も違う。

鏡には女性の顔が映っていた。


「…これは……」

「ふふっ驚きました?それが今の貴方ですわ」

「えっと…これは…」


うん、確かに驚いた。

一応こういうことは中学の時経験しているのだが、あの時は化粧とかしなかったからな。


「素晴らしいでしょう?髪を軽く整えて、ファンデーションで頬にほのかな紅みを付け、眉を少し細くし、口紅で綺麗なピンク色にすれば完成ですわ」


嬉しそうに本当に嬉しそうに微笑み言うめだかさん。

いや、確かにこの技術は凄いかもだけど…


「何で、こんなことを?」

「何で、と仰りましてもワタシの趣味は女装をさせることですから」

「女装を……させるですか…」

「そうですわ。…しかし、ただただ女装をさせればいいと言うわけではありませんの」


彼女はそう言うと僕の前を往復し始める。


「顔つきが男性では服を着せても、違和感が残ります。

化粧のノリがよろしくなくては次第に化粧が厚くなっていき、顔がとても可愛く美しくともけばけばしくなってしまいます。

顔が中性的でかつ化粧のノリが良い、この二つの条件が揃えばパーフェクト!!」


彼女は嬉しそうに心のそこから嬉しそうに声をあげる。


「……てすが、そのような方はなかなかいらっしゃりません。

この前の方も化粧のノリが思ったよりよろしくなかったですもの」


この人…凄い嬉しそうだけど追われてるってこと忘れてないか?


「ですが、てすが!、てすが!!

ついに、ついにワタシは念願の完璧な男の娘を見つけましたわ。

それが貴方ですの!」

「!?」


なんか少しドキッと来てしまった。

これがつり橋効果というやつか…いや、別に何の不安感も恐怖感もないから違うな。


「あぁん!テンションが高まってきましたわ。高まってきましたわぁ!」


彼女は満面の笑みを浮かべ、部屋のクローゼットを開ける。

そこはハンガーにかかった女性ものの服で埋め尽くされていた。恐らく下の引き出しも女性ものの何かだろう。


「さぁ、まだまだ貴方は変わることが出来る。次は貴方にピッタリの服にしましょうか?それともウィッグにしましょうか?あぁ!楽しすぎますわぁ!!」


…あれ?ヤバい。悪寒が…恐怖感は出てきたかもしれない。いや、完全に出てきたわコレ。

というか、未だに誰も来ないのですが、あれ?あれあれ?助けに来てくれるとか思っていたけど、やっぱり勝ってな思い込みだった?


「さぁ、まずはこの服からいきましょうか」

「あの、僕…縛られているんですが…」

「ダイジョーブ。服ならワタシが着させてあげますから。うふふ、うふふ…ウフフフフフフ」


やばい、やばいヤバいヤバいヤバいヤバい!

すんごい今危ない顔してる。


「え?あの、ちょ…」

「ウフフフフフフ」


彼女の細い手が僕の制服に伸びる。


「ちょちょっと?何する気です?ちょ、触らないで…」

「大丈夫です。すぐに終わりますから」


そう言って制服のシャツのボタンを外していく。

息を荒くしないで。


「いや、すぐとかそういうのじゃなくて…」

「ふふふ…」


誰か、マジで今すぐ助けに来てくれぇ!!

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