08-13

「…ZZZ…」

「ん~…どぉやら眠ったみたいね…」


怪視は防人の傍によってしゃがみ、眠ったことを確認する。


「…私の特別製の睡眠薬だったのになかなかなかなか眠らないから少し焦っちゃったじゃないの」


そう言って怪視は防人の鼻をつまむ。


「…うぅ…」


鼻で呼吸が出来なくなった防人は無意識に少し首を降ってその原因を取り除こうとする。


「…この子の寝顔可愛いわねぇ…」

「手を出すなよ?」

「出さないわよぉ。…この子にちょぉと興味があるだけでね…」

「その言葉から察するにこいつはお前にとっての人間以上の存在になったんだな。つまり手を出す気満々というわけだ」

「だからそうじゃないって言ってるのに…まぁいいわ。本来するべき仕事に戻りましょう」


怪視は立ち上がるとこの20畳ほどの窓のない白い部屋の一角を占めている機械の前のイスに腰かけ、パネルを操作し始める。

同時にガコンという音とともに部屋の中央が開き、下から灰色の円柱が1mほど上がってくる。


「宏樹ちゃん…そのケースに入ってるやつ加工してないわよねぇ?」

「加工?…あぁしてないな」

「んぅ…そんなことだと思ってたわ。……貸して、加工してくるから」


怪視は宏樹からケースを受け取り、奥の薄暗い部屋の中に入っていく。


「~♪」


宏樹は扉の向こうから怪視の鼻歌と様々なモーター音を聞きながらすることも無いので眠っている防人を扉付近から移動させたりして待っているとわずか十分ほどして彼女は液体の満たされた中に脳みそが浮かんでいる透明な球体のケースを持って戻ってくる。

あの向こうで一体何が行われたのかは聞かない方が良いだろう。

この光景を見るたびに宏樹はそう思う。


「早かったな」

「うぅん、このくらいのことは朝飯前ってやつよ」


怪視は持っているケースを先程の円柱に上向きに乗せ、取り付けられた小さなアームでしっかりと固定する。

そして着ている白衣をひらつかせながら回転してから、再び装置前のイスに腰かける。


「さて、早速これに詰まった記憶(メモリー)を見てみましょう」


彼女はキーボードのようになったパネルを操作、しばらくして彼女の見ているモニターに線の波を背景に様々な文字が流れ始める。


「ん~この人は脳の整理がちゃんと出来ているのねぇ。…でも、その分どれが何でいつの記憶なのかすぐに分かるのよねぇ。今日の記憶はこの辺かしら?」

彼女はパネルを操作しながら、

その上にある大きなモニターに映像が流れ始める。

「これは…」

「あらあら…」



5月6日 日曜日 8:10


クレイマーの同僚でここの責任者である女性『ブレア』は数分前に地下のリニアレールカーに乗って来たクレイマーの子供たちを空き部屋に連れて行くことと工場に向かうための三番地下通路を破壊、封鎖するようによう怒鳴り付けるように拡声器を使って指示をしていた。


『ガキ共は私の部下の誘導に従って部屋まで行け!整備班はリニアの車庫入れ終わったら、点検壊れてる箇所があればちゃんと修理しておけ。工作班は通路の破壊浸水しねぇようにシャッターおろして完全封鎖しちまえよ。いいな!!…………テメェら返事はどうしたぁ!!』

「「「はい!!!」」」


みんなの返事を聞いて、彼女らは頷く。


『よぉし、いい返事だ。ほら、手を休めるんじゃねぇぞ!』

「あの…」


青い髪をした一人の少女『キスキル・リラ』はブレアに話し掛けようとする。


「何でせっかく作ったこの通路を破壊せにゃならんのだ?」

「お前知らねーのかよ。なんでもこの先にある工場に敵が襲ってきてボロボロに壊してったそうだぞ」

「マジか。じゃあ最近向こう行った奴等は…」

「あぁ…向こうに逝っちまったんだろうな…」


『おいそこ!話す暇があったら手を動かせよ!!』


「「すいません!」」


『たくっ……敵が通路を通っていつ襲ってくるかも知れねぇんだ!無駄口叩かず、テンポ良くやれ!!』


「「「はい!!」」」

「やれやれ…」


しかしブレアは人を指示するのに集中して気が付いていないようだ。

リラは声のボリュームを上げてブレアにもう一度声をかける。


「あの!」

「んだよ?」


今度は気づいて貰えたようだ。

リラはよかったと少しだけ安堵する。


「見てわかると思うがな……今急がしぃんだよ。ガキは部屋に行ってろって言ったろ。小便ならトイレは部屋にあるし、腹が減ったんなら軽い菓子ぐらいなら準備しておくよう伝えといたからよ。部屋まで我慢して…」

「あの、あなたがブレア…さんですか?」

「ブレアだ」

「え?」

「『え?』じゃねえブレアだ。『ちゃん』とか『さん』とかそんなんつけんな。呼び捨てにしろ」

「は、はぁ…じゃああなたがブレア……ですか?」

『あぁそうだ。私がブレアだ。んで髪の毛もケツも青そうなガキが私に何の用だよ』

「実は…」


突如警報が鳴り響き、みんながざわつく。


「本当に来たのか?」

「やべーよ。こっちはまだなんもしてないのに…」

「外の見張りだけで大丈夫なのか…」

「逃げるんだぁ…」

「勝てるわけがない…」

『テメェらうろたえんじゃねぇー!!!』


キーンとブレアの叫び声が響き渡り、室内が静かになる。


『まだ敵だと決まってもいねぇってのに何をしてやがる。手を休めんな!!』

「でも敵だったらどうするんですか!?」


一人の声の後にみんなが声を揃えて叫ぶ。


「「そうだ!そうだ!敵だったらどうするんだ!」」

「あぁうるせぇやつらだ」とブレアは一回舌打ちをして拡声器を向けて言う。

『そうだなぁもし敵ならそれ相応の対処してやる。もしもん時はこの私がテメェらの逃げる時間稼ぐためにここに残るぐらいはしてやるよ!…んでだ。敵じゃなかったらテメェら今すぐ全員土下座しろよ!!いいな!!!』

「おう…やってやんよ!!!」

「そうだ!そうだ!土下座ぐらいしてやるよ!」

「よぉし…」


彼女はポケットから通信機を取り出してそれをボリューム最大にして繋げる。


『あ、ブレアさんやっと繋がった』

「何があった?」

『機影です。数は1つ。識別信号もなくて初めは敵かと思ったんですが、黒く塗装されたあのフラッグは恐らく最近雇った傭兵の真栄喜(まえき) 游(ゆう)と思われます。シールドは破損、飛翔翼も破壊されていますがバーニアは生きているみたいなので、恐らく長距離跳躍をしながら来たのではないかと思われます。あ、通信来ました。『救援求む』だそうです』

「おし、わかった。回収班を向かわせると伝えろ。んで機体を整備班に任せて本人が無事そうなら私の部屋にくるよう伝えておけ」

『分かりました』

「そんじゃよろしく」


彼女は通信を切り、心底嬉しそうに微笑みながら作業をしている人たちを見下ろし、拡声器をみんなに向ける。


『敵じゃぁなかったな…さぁて約束だ。全員土下座してもらおうか…』

彼女がそういい終えてすぐに作業をしている人たちは床に手をつくと

「「「どうもすみませんでしたぁ!!!」」」


みんな一斉に土下座した。

それを見て「大変なところに来てしまった…かな?」と思うリラであった。

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