08-10

白衣の男『クレイマー・シュタイン』を横にして寝かせてから僕はカプセルの並んだ部屋に戻ってくる。


「どうした防人?何か見つけたか」

「あぁ、宏樹さん。…いえ、人がいたのですが…」

「生存者か?」

「あ、いえ…亡くなっています…」


クレイマーさんについてはあまり触れたくはないな…。


「……それよりそっちはどうでした?何かありましたか」

「私の方はダメだったな。データは全部完全に消されていて復旧も無理だった」

「そうですか」

「収穫は無しか……ん?……あーそうだお前の言っていた男はどんな状態だ?」

「え?…それってどういうことですか?」

「怪我の具合とか死んでからどれくらいの時間が経っているかとかそういうことだ」

「えっと……」


なんか真剣そうだし、これは言った方が良い感じなのかな?


「彼の状態はひどいものでした。お腹は潰れていて内蔵はぐちゃぐちゃで骨は露出していて…うっ…出血もかなりひどく……うぅっ…すいませんこれ以上は」


さっきのことを思い出した僕はふたたび込み上げて来たので口を片手で押さえ、吐き気を抑える。


「そうか、手足は残っていたのか」


何とか吐き気を堪えてから宏樹さんの質問に答える。


「え、えぇ…傷だらけでしたけれど手足…あと頭もちゃんと残っていましたよ」

「…その男は駆けつけたときには死んでいたのか?」

「あ、いえ…まだ辛うじて息があったのですけれど、亡くなってしまいました。…でもそんなことを聞いてどうするんですか?」

「いや、もしそうなら使えるなと思ってな…」

「使える?」


彼は自分の専用機を収納して、手に持った専用機の待機状態である『サバイバルナイフ』を握りしめ、クレイマーさんのいる部屋に向かう。


「あ、ちょっと?待ってくださいよ」


僕が後も後を追いかけて部屋にはいる。


「──!!?」


部屋には横になって眠るクレイマーさんの首をサバイバルナイフで切り取ろうとしている宏樹さんの姿があった。


「ちょ、何をしてるんですか!!」


僕はそれを見て叫びながら慌てて彼の手からナイフを取り上げる。


「何ってそれはこっちの台詞だよ。返して貰えるかな」


サングラスをかけた目の前の男は表情を何一つ変えることなく、手をこちらに向けてくる。


「返しませんよ。返したらあなたは彼の首を切る気でしょう?」

「その通りだけど、それがどうかしたのか?」

「どうかしたのか?じゃないですよ。この人は既に亡くなっています。何のために首を切る必要があるんですか!?」

「この男は先程まで生きていたんだろ?それならまだ、後24時間ぐらいは脳は生きている。だから頭を新鮮なまま持ち帰って研究所で調べるんだ。お金がかかるけど、調べることでこの男のしてきたことがすべてわかるようになる。生きてきて…死ぬまでのことが全てね」

「そんなものがあの学園にあるんですか」

「正確には学園の地下施設、及び周辺の所有している島にある研究所にだけどね」

「そんなことはどうでもいいです」


──そんな恐ろしいものがあるってこと自体が問題だ。


「死んだ人の首を切り取って持ち帰って……この任務が先生の言っていた「彼」という人がどんな考えを持つ人なのかはまだ少ししか話せていないのでよくわかりませんが、その彼がするように言ってきた。それで僕たちにその役割が回ってきた。僕も彼に恩があるみたいなのである程度のことは覚悟して来ましたよ。…来ましたけれどこれはやり過ぎです。……そこまでやる必要があるんですか!?」

「あるよ……例えば今回の場合、隣の部屋に並べられた無数のカプセルの中には何も入っていなかった。有力なデータを得ることは出来なかった以上、その中身は何なのかはわからない。そしてここで倒れていたというこの男…何か知っている可能性が高い」

「だからって人の首を切り取っていい理由には…」

「ならもし、あのカプセルに入っていたものが想像もつかないような恐ろしいものだったらどうする?」

「恐ろしいもの…ですか?」

「そうだ。…もしもそんなものが入っていたとしたら私達はそれに対しての何かしらの対策を考えておく必要がある。そのために必要なものは情報だ。情報を得て、気絶それの姿や能力に弱点などを知った上でそれをどのようにどうするのか戦術を何十何百通り考えておく。そうすれば被害は最小限に抑えられる。人一人の命で100人の人間が救えるのならその一人を差し出すに決まっている。ましてや今回の場合既にその一人は死んでいる。死者を一人差し出すだけで良いのだから誰を殺すことなく済むのだから。こちらにデメリットなどないだろう?」

「それは……」


確かに言っていることはその通りかもしれない。

知れないけれど……。


「ないだろう?」

「………はい……」


反論の言葉が見つからない。


「さぁ、私の専用機を返してもらおうか」


彼は僕の手からナイフを取り、彼の首を切り取って取り出したケースの中に入れる。

そして、僕達は学園へと帰還する。

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