04-3

銀髪の男A.Tは変わらず薄暗い部屋でモニターを静かに見つめながら制限時間を確認しつつガーディアン改たちのAIに指示を送り始める。


・出現速度向上。

・最優先事項認識力向上。

・攻撃スタイル。攻撃特化からバランスへ変更。

・行動パターン30パターン追加。

・統率力向上。

・数機による小隊構成。

・破損状況に応じて援護攻撃、防御開始。


「さて、大まかにはこんなものか……後は他の人たちの戦闘状況を見ながら中ですればいいだろう」


彼はキーボードといくつかのモニターを消し、ひとつのモニター、誰も映っていない廃墟のモニターを残し、ヘッドセットを頭に被り目を閉じる。


「オーバー・ダイブ」


そして彼は微笑み、小さく呟いた。



『タイムアップ!試合終了!!』


時間がきたことを告げるブザーがフィールド内に鳴り響き、ガーディアンたちが光の粒子になって消える。


『お、おわった?』

『やった。やったよ!』

『やったやりとげた!』


慧はその場に着地、スピーカー越しから聞こえてくる皆の喜びの声を聞いて荒い呼吸をしながらも少なからず顔がにやける。

しかしそんな喜びもすぐに一瞬にして驚きの表情に変わる。


『皆さんお疲れ様でした。これで全ての試験が終わり……ザッザザッザーーー』

「――ん?」


気が付くと放送にだんだんと大きくノイズが入り、プツリと音を立てて消える。


「一体何が?……誰か、聞こえますか?何が起こって……おい!誰か返事を……」


返事がない。どうやら通信もできないようだ。

いや、声は聞こえるからこちらからの声が届いてないのか。


「何かしらのバグ……なのかな?」


いや、そんなことは無いだろう。

もし、そんなバグを残すような人が試験を行ったのであれば今後の受験や入ってきた人たちがどこかのデスゲームみたいに死ぬことは無いにしろ色々と問題が起こる可能性はある。

面倒な人がいた場合、苦情が来たりして、最悪の場合は賠償金を払うはめになる可能性もあるかもだし。

とするとこれは元々からプログラムされているものと考えるのが普通なのだろうか?

けれど放送とかで特に何も聞いて無いはずなんだけどなぁ。

となるとやっぱり予想外のバグなのだろうか?

いや、それならば皆の回線を切ってログアウトをさせるだろうし……。


「まだ何かあるのか?……普通のゲームとかならボス戦ってところだけど……何!?」


慧は響く爆発音に警戒心を強め、腰の小太刀を抜き、構える。

どうやらなどは地図は開くようだが、自身を印す青い雫マーク、仲間を印す緑色の雫マーク以外には敵を印す赤い雫マークも何も映ってはいなかった。


「なん……うわわっ!……ザーー」


しばらくして通信機越しのノイズ交じりに聞こえてくるの悲鳴、遠くで聞こえる爆発音、大きな音を立てて崩れていくビル。

明らかな敵の攻撃であることはわかる。

そんなことが起こっているにもかかわらず地図では近くにいるはずの人ですら仲間を印す雫マークが消えて≪OUT≫と変化して表示されるだけで自分の眼には他には何も映っておらず、地図の上に表示されているものは慧は一人になっていた。


「――!!」


同時に視界を歪ますノイズが消えると警告音が鳴り響く。

それは危機が迫っているという合図。

慧は急いでその警告の指す方へ振り返り、目を細めてじっと見つめる。

現れたのは一体の白い色をしたGW。

武装はパターンはαと似ているが背に剣が取り付けられており、またベースであるGWの形状が全く異なっている。

似ていると例えるのなら最近夢で見た慧を襲ってきたあのGWだろうか。

細かいところまではよくは覚えてはいないが、夢とは違って顔の辺りがはっきりとしていて人が動かしているというのがわかる。


「お前は……誰だ?」


慧は警戒心を気を強く持ったまま目の前の白いGWに問い、続ける。


「もう一度聞くぞ、お前は誰だ!もし、今の状況について……これが試験の続きだって言うのなら答えてくれ!――!?」


目の前の奴は言葉を発することなく不敵に不気味に微笑むと手に握るライフルをこちらに向けて引き金を引く。


「こいつ!」


迫ってくる光線を出来るだけ少ない動きで避けながら慧は奴に近づいていき刀を振る。

がしかし慧の振るった刀は敵に当たることなく空を切った。


「がっ!」


慧は後ろにまわった敵に腰を蹴られ、目の前にあるビルに衝突する。同時に僅かに残っていたフィールドのゲージが削れ、消える。


「ぃ――っ!」


痛かった。

ビルの壁を破壊した僕の頭も粉々に砕けそうだ。

痛覚がシュミレーターに入った時とは段違いだ。

というか試験中は敵との戦闘で痛みは感じなかった。

あのノイズの影響だろうか?


「でも……」


これはこの世界で頭をぶつけたと言うことを痛覚が知らしているだけだ。

僕自身には実際には何もダメージは入っていない。

死んでしまいそうなほど痛いけれど問題はない。

慧はそう言い聞かせ、痛みに歪む顔出来るだけ抑えようと心掛ける。


「痛くなんてない!このくらいのこと、どうと言うことはない!」


慧は改めて白い奴を敵だと認識し、この世界でズキズキとする頭の痛みに耐えながら、あらかじめ奴に巻き付けておいたワイヤーを一気に引くが、奴が背中の剣を一振りするとワイヤーは容易く切れ、そしてそのワイヤーが垂れ下がる前に奴は掴む。


「――!?」


奴は軽く引いたように見えた。が慧の身体は簡単に浮き上がり、おかしな体勢のままビルから飛び出す。


「くっそ」


慧はバーニアを使い、空中で体勢を立て直しつつ小太刀を一本鞘にしまい、装甲内のダガーを掴むと奴に向かって思いっきり投げつける。

しかし攻撃は外れた。

決して明後日の方向へと飛んで行ったわけではなく、こちらが攻撃を仕掛ける頃にはそこにはすでに奴は一瞬にして慧の後ろに回り込んでいた。

速すぎる、音速を越えているのではないだろうか。

急ぎ身をひるがえして後ろを向く頃、慧の胸部数センチメートル先にはライフルの銃口があった。

遅い、間に合わない、手遅れ。

そんな言葉が頭を過った頃に慧の胸は既に撃ち抜かれていた。


「う゛っ」


痛くはなかった。

ライフルからの光線で穴を開けられた慧の胸部からは痛みよりもとてつもない熱さが沸き起こり、それが全身を襲う。

力なく慧の身体は砂ぼこりをガラスを巻き上げながら地面に落ちる。

視界が赤く黒くなっていく。

現実ならば死期が迫っているといえるだろう。

いや、現実なら胸を、心臓を撃ち抜かれた時点で死んでいる。

しかし全身を襲うこの灼熱感でのたうち回る前に慧の意識は既に飛んていってしまっていた。



これは……何だ?

これは、僕の……記憶?


幼い、小学生くらいの頃の慧はどこかの家の前に立っていた。

彼の目の前の家の表札には≪椎名≫と書かれている。


「~~♪♪」


幼い慧は待ちかねていたかのように鼻唄を歌いながらインターフォンを指で押し、しばらく返事を待つ。

ドアの鍵が音を立てて開き、慧はお邪魔しますと家の中へ入る。

階段を上がり兄の部屋と掛け札の付いた扉を開けて部屋の中へ、壁の大きなモニターにはでかでかとオレンジ色の細身のGWが映し出されていた。


「──!!」

「──。」


幼い慧はそれを見て嬉しそうに椅子に腰かける友人に話しかける。

何を話していたのだろうか?

分からない。

慧はとても楽しそうに目の前にいる友人と楽しく話している。

そうだ確か、彼の座る机の上にあるモニターについて話してたんだ。

そして慧はそのモニターに映し出されているGWを知っている。

もし、今戦っている敵が音速であるのならばこのオレンジ色のGWは……そう光速。

そして名前は…確か。


「……光牙(こうが)」


そう小さく慧が呟くと、道路の真ん中に横たわる彼の全身が光に包まれ始める。

身に纏っていたフリーダム・フラッグが音を立ててパージされ、勢いのついた装甲が周囲の物体を破壊する。

そして先ほど見たオレンジ色のGWが彼の身に装着される。

同時に全身を襲ってきていた痛みが嘘のように消え失せ、慧は目を開ける。

素早く起き上がり、慧は左腰の一本の太刀に手を当てて敵を探すために空を見上げる。


「いた……」


奴を見つけた慧は右手で刀の柄を掴み、鞘から刀を少し持ち上げ一気に飛び上がる。


「――!?」


すごい……。

さっきと段違い加速がとてつもなく高いことに驚きを覚えながらも刀を抜き、接近して相手を真っ二つに切るつもりで思いっ切り振るう。

一瞬だけ激しい火花をあげながら刀と剣がぶつかり合うのを確認して舌打ち、慧は一旦距離をとって素早く武装を確認する。

左腰に取り付けられた対GW用の太刀に両腕にあるワイヤー付き小型シールド。

股関節部分を覆う左右のスカート装甲部分に装填された3連小型ホーミングミサイル×2門。


「――っ!!」


接近してきた敵の剣の軌道をシールドでかろうじて逸らし、クルリと回って奴の背中に腰のミサイルを発射、爆発とともに互いのHPバーが削れる。

直撃したにもかかわらず敵は何ともないようで煙を払うと笑みを浮かべ、再び襲ってくる。


「うっこの……」


刀と剣が何度も何度もぶつかり合う。

金属音とともに火花を散らせ、軌道をずらすが刃がわずかに身体をかすめて互いのHPが徐々に削られていく。

まずいなこのままじゃやられるのも時間の問題だ。


「ふむ……」


パワーだけじゃ押し負けるのはわかったことだし、ここは戦闘法を代えてみますか。

慧はミサイルを放ち、爆風に紛れて一旦離脱、ワイヤー付きの刃のついた盾先を発射する。

同時に慧は刀を構えて相手に突撃する。


ヒット&アウェイ。


攻撃を仕掛けた後に即離脱、このGWの速度を活かして攻撃に重さを加える。


「そろそろかな」


慧は呟き、道路の真ん中に着地するとワイヤーを一気に引く。

廃墟に張り巡らしたワイヤーがピンっと張り、亀裂を入れておいたビルが押しつぶすと同時に敵を締め付ける。

その予定だったのだが既にワイヤーがきれいに切られていたようで、始めのうちに壁に刺した盾先のワイヤーが力なく垂れ下がる。


「そううまくはいかないか……」


しかしダメージはそこそこ与えれたようでHPは現在両者共に3割を切っていた。

センサーを起動させて慧が身をひるがえして地面に着地し、見上げると奴は「ふっ」と息を漏らす。


「……なかなかやるな」

「あんた……やっぱり喋れたんだな」

「当たり前だろう私だって人なのだから知性を持ち、話すことぐらいできる。いとも容易くな……」

「気取って話すなぁ……それじゃあ、まぁ今の状況からして今のあんたは僕の敵ってことで間違いないよな」


慧は刀の切っ先を相手に向けたまま落ち着いて問う。


「まぁ…私は君の力を見せてもらおうとここに来たから、そうだな。君には敵対心をもってここにいる。君と対峙するためにここに来た。だから……」


そう言って奴は剣を一振り、「だから、楽しませてくれ」と静かに笑った。


「なるほどね……」


話しかけてくれたお陰で慧は目の前にいる彼から敵対心というものが無いこと判断し、『共にゲームを楽しむ相手』として見ることができるようになった。

しかしこれは今後の人生がかかった大事な試験だ。

これがゲームだってのはおかしな話だが、気を抜くわけにはいかない。

慧は気を入れ直すために大きく息を吸い込んでゆっくりと吐き出す。


「でもまぁ楽しめさせられるかどうかはわからないけどね……それじゃあ、行くよ!!」


地面が割れんばかりに力強く蹴って飛び上がり、ブースターで一気に加速、ミサイルを乱射しつつもその後ろから接近する。


「……」


彼は左右に滑るようにしてミサイルを避ける。


「ふんっ!」


慧は近くのミサイルを自分で切って爆破、爆煙が広がる前に敵の後ろに回り込み、突く。


「チッ」


攻撃が外れたのを確認してすぐに後退、近くのワイヤーが巻き付いたビルの中に入る。


「えっと……あぁ、あった……!!」


攻撃警告。

慧はすぐさまビルを入ったのとは反対から飛び出す。

目の前のビルがライフルの光線によってバランスを崩し、倒壊する。

舞い上がる煙の中から飛んでくる奴を身をひるがえして避けながらビルの中で拾ったダガーを投げる。

キンッとダガーはあっさりと弾かれるが、すぐ後に放った数発のミサイルは直撃、奴の減少したHPが半分を切る。


「はぁぁ!!」


さらに追撃、刀を振るって目の前の敵を煙ごと真っ二つに切る。


「――!?」


煙が晴れて目の前にあったのはライフルの銃口。


「クッ」


紙一重で避けた後、ライフルを真ん中から斜めに切り上げ破壊。

その後すぐに刀を構え直しながら敵に接近戦を挑む。


「はぁっ!」


慧は声を張り上げ、両手で握りしめた刀を上から下に降り下ろす。

大きな金属音、敵の盾を思いっきり叩いた慧の刀は根元の辺りからポキリと折れて刃が地面に突き刺さる。


「――な!?」

「終わりだな」


彼はそう言って剣を鞘に入れたまま素早く手に握るとそのまま慧がしたように剣を降り下ろした。


「ぐぅっ!」


慧はすぐさま両腕を組んで防ごうとするが力負ける。

腕のシールドと装甲は砕かれ、慧のHPがレッドゾーンに突入する。


「ぃっ──!!」


現実ならば確実に両腕がへし折れているであろう激痛に襲われながら慧の身体はものすごい速度で地面に叩き付けられる。



「がはっ」


再び襲ってくる痛みに慧の意識は吹き飛びかけそうになりながらうっすらとあけた目で赤く見える世界の中から上空の相手を見る。

参ったな……完敗だ。でもまぁ最後の辺りかなり楽しめたから悔しいなんてことはないな。


――なぁあんた…名前は何て言うんだ?


声は出ず、口だけを動かしたので相手には聞こえていないはずだけれど口の動きで何を言ったのかを理解したのか、慧の頭に声が届く。


『俺は椎名(しいな) りょうだ』


椎名…その名前はどこかで……。


慧はゆっくりと目を閉じて、意識を今度こそ完全にこの世界から切り離す。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る