WEAPON's・GEAR《ウェポンズ・ギア》──――高校生編

満天之新月

《崩れゆく一人の平穏》

第01話『偽りの日常』

これはとある少年『防人(さきもり) 慧(けい)』の夢の話。

これは中学に入ってしばらくの時が流れてからふと見るようになった夢の様子。


そこは広い広いどこかの丘の上。

地面からは青々とした草木が生えており、日の光はポカポカとして暖かい。

そんなのどかで陽気な場所で蝶などの虫たちは花の蜜を求め、飛び交っている。

青い空には真っ白な雲が流れ、身体を突き抜ける爽やかな風が心地いい。

そんな緑豊かな場所で幼い姿をした防人は黒い髪を揺らし、青いパジャマ姿で草のじゅうたんの上に寝そべっている。

そんな彼とともに彼と同じぐらいの年の、真っ白な長い髪をした誰かと楽しそうに話している。

相手の顔、声はぼんやりとしていて性別は分からない。

しかし、夢の中の防人はその人を男であると認識している。

そんな二人はしりとりをしたり、好きなゲームは、アニメは、マンガは何だとか他愛ない会話を楽しむ。

そして太陽は西に大きく傾き、空を少し赤く照らす。

そうなると白い髪をした少年は思い出したかのようにそうだ、と決まってこんなことを聞いてくる。


――もしも、今というものの何もかもが跡形もなく消え去って、そして争いの世界へと変わったらどうする?


突如、何の前置きもなく聞いてくるそんな質問。


「それは、わからないよ。そんなことは起きてみないと……」


声がぼやけて聞こえにくいことに変わりはないが、それでも防人は戸惑うことなく答える。


――なら、その争いによって大事な何かが壊されそうになったら?


「壊されそうになったらそれを持って逃げるんじゃないかな?」


防人は思ったことを正直に嘘偽りなく思ったことを口にする。


――ならそれが大切な家族や友達で壊そうとしているそれがとても強く逃げられないとしたら?


「逃げられないなら……僕は……」


防人が困った表情で口籠ったのを見て彼は言い加える。


――その恐ろしいものと戦える力があったら?


「力があったら……僕は……戦うよ」


――だがもしかしたらそれに勝てないかもしれない。いや勝てないとわかったとしてもか?


「うん、勝てなくてももしかしたらそれで守りたい人は守れるかもしれないから」


――そうか、なるほどな。


彼はすっかりと赤くなった空を見上げ、頷くと


――すまない、そろそろ時間のようだ。


そう言って彼は立ち上がりどこかに行ってしまう。


「え!? ちょっと待ってよ!!」


防人は大きな声で叫びながら急いで起き上がる。

しかし周囲を見渡してもすでに彼の姿はない。

その代わりに白い人型のロボットが少し離れたところに立っていた。

いや、正確には白い鎧をまとった人が立っていた。

その顔は変わった形をしたヘルメットによって目元まで覆われており、それが先ほどまで話していた彼なのかはわからない。

しかしそれは恐ろしいものであると思った防人は震えつつも不格好な構えをしてゆっくりと後ずさっていく。


――モウスコシ、モウスコシデワタシハ……。


白い鎧を纏う人の口が開き、先ほどよりもひどくぼやけた声が防人の耳に届く。

もはや人から出たものであるのかさえ疑うほどにひどくぼやけた声。

その声が聞こえるとともに突如上がる火の手によって赤く染まった世界はさらに真っ赤に変化する。

視界が熱で揺らぎ、目の前に立つ白い人影もぼやけ始める。


――デモ、イマハマダ……。


足元に大きな穴が開き、防人は重力に従って落ちていく。

真っ赤な世界は黒い世界へ変化し、唯一見える赤い光と身体を突き抜ける風だけが今どちらが上なのかということを教えてくれる。

いくら大きな悲鳴を上げようが、その落下は止まることはなく、上空に見えていた真っ赤な世界はもはや小さな点にしか見えていない。

そして完全に見えなくなった時、防人の意識は深い闇へと落ちて行った。

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