第106話「罵られても斬られても構わない」

 タケル達とタバサの戦いが始まった。


「美人さんだからって容赦しねえぜ! いくぞ!」


 まずはソウリュウ、イシャナ、イーセが合体奥義を放つが


「あらありがとうね。でも容赦しないわよ」

 タバサはそう言いながら手をかざし、山をも砕く勢いの気を打ち消した。 


「なあっ!?」

「あ、あんなあっさりと俺達の奥義を防ぎやがった」


「よし、ナナちゃんいくよ!」

「うん!」

 次にマオとナナが光竜神秘法で増幅した大爆発魔法を放ったが


「そんなもの、効かないわよ」

 タバサは何事も無かったかのようにそこに立っていた。


「え!? ま、全く通用しない!?」

「そんな~!」


「攻撃呪文が無効化されているのか? では、これはどうだ!」

 後方からカーシュが超重力呪文を放ち、タバサを押さえ込もうとするが


「ん? 何かしたのかしら?」

 タバサはやはり何事も無かったかのように立っていた。

 

「それじゃ直接攻撃はどうだ!?」


 タケル、イズナ、アキナ、ダンが同時にタバサに襲いかかるが


「無駄よ」

 剣や拳がその体に届く前に、見えない壁のようなものに弾き返された。



「な、何よあれ?」

「なんかバリアーみたいやけんど、あんなん見たことなかとね」

 後方にいたキリカとマアサが話していた時


「バリアー……わかった、『天使の衣』だよ」

 カーシュがそう呟いた。


「え、それなんね?」

 マアサが尋ねた。

「大天使と天使が使えると伝わる、どんな攻撃をも打ち消す防御壁ですよ」


「えええ!?」

 それを聞いた一同は驚き叫んだ。


「そうよ。私が天使なのは知っているでしょ?」

 タバサは笑みを浮かべながら言った。


「でも、最高神様に天使としての力を奪われたって聞いたぞ!?」

 タケルが驚きながら尋ねると


「ええ。でもこれだけは残っていたわ。せめてもの情けのつもりだったのでしょうね」

 タバサは天を仰ぎながら呟いた。


「そ、そんなものどうやって攻略すればいいんだ?」

「闇ならなんとかなるかもしれんが、聖なる力じゃ無効化しようがないぜ」

 イシャナとソウリュウがタバサを睨みながら言う。


「カーシュさん、何か手はないのかよ?」

 アキナが尋ねるが

「……おそらく無いだろうね」

 カーシュは首を横に振った。


「いえ、天使の衣とて限界があるはず。だから強大な力をぶつけたら貫けるかも」

 マオが二人の側に寄って言うが、

「そうかもしれませんが、そんな力どうやって出します?」

「ええ、そこが問題です」

 二人が話していると


「なあマオ、カーシュさん。あれってタバサの意志に関係なく発動するの?」

 タケルが二人に尋ねた。


「え? いや、おそらくは気を集中していないと発動しないんじゃないかな?」

 マオが首を傾げながら言うと

「よし、それなら行ける!」

 タケルが握り拳を作ってガッツポーズを取った。


「え、何かいい手が浮かんだの?」

「ああ。危険だと思うけど、やってみるよ」


「タケル。何をする気かは知らぬが、それは俺がやろう」

 イーセが前に出て言うが

「ありがとう。でもこれは正直、ゲスな手だよ」

 タケルは首を横に振った。

「だったら尚更だ。手を汚すのは俺でいい」

「俺だってイーセさんの手を汚すのはやだよ。それにこれ、俺の神力じゃないとおそらく無理だと思う。だから」

「どうあっても、自分でやると言うのか?」

 イーセが鋭い目でタケルを睨む。


「うん。これが成功すれば、タバサを殺さずに済む」

 タケルは真剣な表情でイーセを見つめた。そして


「終わった後でなら、罵られても斬られても構わないよ」

 満面の笑みを浮かべてそう言った。


「ぐ、ぐ……うう」

 イーセはまるで臣下の礼を取るように片膝をつき、落涙した。

 

 それを見た他の者達も、目に涙を浮かべた。


「タ、タケル。あんたって子は」

「斬られてもいいだなんて、そこまでしてタバサ様を」

 イヨとミッチーも目に手を当て、涙を流していた。




「さて、やるか!」

 タケルが剣を構えた。


「何する気か知らないけど、させないわ」

 タバサは手にしていた杖をかかげた時


「うりゃあああ!」

 タケルの剣から光の竜が現れ、それがタバサ目掛けて飛んでいった。

 そしてそれが彼女の足元に落ちて爆発し、辺り一面に砂埃が舞った。

 

「え!?」

「あ、あんなの目眩ましにしかならないだろ!?」

 皆が口々に叫ぶと


「いや、次があるんだろうさ。だが視界を奪って何する気だ?」

 ソウリュウが冷静にそう言った時


「はあっ!」

 タバサは気合で砂埃を吹き飛ばした。


「な、何がしたかったのよ? あんなのなんともないわよ」

「そうかな?」

「!?」

 いつの間にかタケルがタバサのすぐ後ろに立っていた。


「私の後ろを取るなんて、やるわね」

 タバサが振り返りながら言う。


「ああ。それとこれだけ近けりゃバリアーは発動しねえだろ」

「ええ。でも甘いわね。声をかけないで首を刎ねればよかったのに」

 すると


「……にひひ。これ、なーんだ?」

 タケルはニカッと笑いながら手に持っていた物を見せた。

 それは遠目では黒い布切れのようだった。


「へ? それ、まさか」

 タバサは何故か慌てて自分の腰を触った。

 そして


「あ、あ、やっぱりそれは」

 タバサがワナワナ震えながらそれを指差すと


「うん、あんたのぱんつだよ」

 タケルはまた笑いながらそう言うと

 

「……」

 タケルとタバサ以外の全員が、予想の斜め上を行く事実を見て固まった。


「な、な、何してくれてんのよー!?」

 タバサは顔を真っ赤にして怒鳴ると


「何って、神力で瞬間移動して剥ぎとったんだよ。しかしこんなスケスケ穿いてるんだな」

 タケルはそれをマジマジと見た後、匂いを嗅いだ。


「見るな嗅ぐなああ! てか返せえええ!」

 タバサがそれを取り戻そうと掴みかかるが


「へへ~ん、ここまでおいで~っと」

 タケルはあっちこっちにと瞬間移動してそれをかわす。


「やってみたら近くなら連続で飛べたから、こういう時に役に立つと思ったよ」

 どうやらぶっつけ本番じゃなく、以前試していたようだ。



「はっ? な、何やってんのよあいつはーー!」

「な、何やってんのさ、あのバカ弟はぁーー!」

 我に返ったキリカとイヨが怒り狂って叫んだ。


「い、いや。たしかにアレ過ぎるが、これはチャンスだ」

 イーセが脱力しながらもそう言い


「そ、そうですよ。今ならおそらく『天使の衣』は発動しない」

「え、ええ。皆さん、技の準備を」

 カーシュとマオもよろけながら言った。


「あ、ああ。しかしラスボスにセクハラする大バカ、歴史上にいたか?」

「いたかもしれんが、そんなもの記録に残す訳ないだろうよ」

 イシャナとソウリュウは呆れながらも身構えた。



「こ、こうなったらこの辺り一面を吹き飛ばしてやるわ! そうすればあんたも逃げられないでしょうよ!」

 タバサがそう叫んで気を溜め始めた。が


「させるか!」

 タケルは瞬間移動でタバサの正面に立った。そして


「えい!」

「キャアアアアーー!?」


 ローブの裾をめくり上げやがった。

 当然ノーパンだから、丸見え。


「な、な、何すんのよこのエロガキ!」

 タバサは怒りながら裾を直した。


「雰囲気でそうかな~と思ってたけど、やっぱつるつるか」

 この超ド変態野郎はしっかりと見ていた。


「ぶ、ぶ、ぶっ殺してやるわあー!」

 タバサは怒り狂いながらタケルを追いかけ回した。



「あのバカぶっころ、あ」

 イヨは怒りながら抜刀したが、すぐに剣を収めた。

「気づいた? 僕もわかったよ」

 ミッチーがタバサとタケルを見つめながら言う。


「ええ。タバサ様、昔あたし達がイタズラして逃げたのを追っかけていた時の顔になっているわ」

「それ今思うと、怒ってはいるんだけど何か嬉しそうでもあったよね」

「……説得するんじゃなくて、思い出させようとしてるのよね?」

「かもね」


 イヨとミッチーはまた目を潤ませながら、その光景を見つめていた。

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