第105話「結界と封印、そして最終決戦の始まり」

 そして、タケル達は塔の前までやって来た。


「これが、か」


 その塔は白く輝く大理石のような石造りで、空高くそびえ立っていた。

 一見すると妖魔王の棲家には見えないが、「天使」ならと誰もが思った。


「なんかさ、これが超兵器だなんて思えないよな」

「そうよね。それに結界が張られているように思えないんだけど?」

 タケルとキリカが話していると


「結界はたしかに張っているわよ。ここはタバサ様が認めた者以外入れないからね」

 イヨが二人の側に来て答えた。


「じゃあ、やっぱり俺達が入るには結界を破るしかないか」

「ええ。そして中心部にある核を破壊すればいいわ。そこにはあたし達も入った事無いけど、中には攫われた多くの強者がいるはずよ」


「そこには俺達の父さんと母さんも」

「ナナのご両親やヴェルスさんもいるのよね」

 

「ええ……今まで知らなかったけど、あたしは両親と同じ屋根の下に居たんだね」

 イヨは目を閉じて俯きがちになり

「パパ、ママ、おじいちゃん……」

 ナナも塔を見つめ、目を潤ませていた。


「でもさ、何で最高神様は超兵器を壊さないで封印したんだろ?」

 アキナが首を傾げると

「いつか誰かが平和の為に利用してくれると思ったから、じゃないかな?」

 カーシュがそれに答えた。

「あ、そうか。でも今は」

「うん。そうだね」



「ねーちゃん、ミッチー。いい?」

 タケルが二人に確認をとる。

「いいさ。ただしあたし達は」

「邪魔はしないけど、手伝いもしないからね」

 それを聞いたタケルは頷き、マアサに話しかけた。


「じゃあ、お願い」

「うん、任せとき」

 マアサは手を組み、気を集中して呪文を唱え始めた。


 そして


「やーっ!」

 気合を入れながら手をかざすと、薄い光の膜が塔の周りを包み込むように輝きだした。


「ふう、しばらくすれば結界は消えるはずとね」

 マアサは額の汗を拭いながらそう言った。


「お疲れ様。よし、消えるまで休憩しておこう」

 タケルが皆を見渡しながら言った。


 

 しばらくして

「ねーちゃん、ちょっと聞いていい?」

 タケルがイヨに話しかける。

「ん? 何をさ?」

「思ったんだけど、超兵器の封印っていつ解いたの?」

「それはあたしも知らないわ。ミッチーは?」

 イヨはミッチーの方を見た。

「僕も知らないよ。あ、もしかするとタバサ様がここに住み始めた時にとか」

「いや、それならとっくに守護神が気づいてるだろ?」

「それもそうだね。でもさ、考えてみればそんな雰囲気感じた事なかったね」

「そういえばそうね。封印って、どんな」


「あっ!?」

 その時、イーセが突然大声で叫んだ。


「ど、どうしたんだよ!?」

 タケルが驚きながら尋ねるが

「マアサ殿、結界を解くのを中止するんだ!」

 イーセはそれに答えず、マアサに向かって叫んだ。


「へ!? な、なして!?」

「あ、そういう事か! 姉さん、イーセさんの言うとおりにして!」

 マオも何かに気づいたようで、姉に向かって慌てて言うが


「そ、そげんこつ言うても、もう術は止められんと!」

 マアサが指差す方を見ると、光の膜がまるで卵の殻が割れていくような音を立てていた。


「う、もう予想通りでない事を祈るしかないですね」

「いや、結界が解けたのと同時に塔を破壊すれば、あるいは」

「イーセさん、それだと中の人達が」

「そうだった……くっ」


「なあ、どういう事だよ?」

 タケルが二人に尋ねる。

「……塔に張られている結界こそが、超兵器妖魔砲の封印なのではないか?」

「そして、封印が解けたのと同時に発動するのでは、と」


「え、えええ!?」

 それを聞いた一同は驚き叫んだ。


「おそらく妖魔王タバサは、こちら側に封印を解ける者がいると知っていたんだろう」

 イーセが塔を睨みながら言う。


「え、でもそれだと、さっきの魔物達にやられでもしたら」



「その時は自分で解くつもりだったわ」


「!?」


 いつの間にか彼等の前に、妖魔王タバサが立っていた。



「タケル以外は殺さないように命じてあったけど、もしもの事もあるかと思ってね」

 タバサはその顔に笑みを浮かべながら言った。


「そうかよ。でも自分で出来るなら、何故わざわざマアサに封印を解かせたんだよ?」


「私では封印を解くだけで力尽きるおそれがあったからよ。マアサならあいつの力を使えるから、何の抵抗もないはずだし。ふふ、発動すればもうあいつでも止められないわ」


「なあ。どうあっても天界を消し、最高神様を倒す気かよ?」

  

「ええ。あいつだけは許せないわ」


「お兄さんやお姉さんが、それを望むとでも?」

 タケルがそう言うと、タバサは無表情になり

「……知っているでしょうけど、兄様と姉様は共に創造主として世界を創り、そこにいた人達を慈しんだわ」


「え? う、うん。それ前にセイショウさんから聞いた」

「でも、優しすぎた。それは私も後になって理解できたわ。けど」

「それなら最初から神様みたいな生き物を創ればいいって言って、そして」

「ええ。あいつは兄様の力を恐れ、消してしまったわ」


「それを聞くとさ、俺だって同じ事考えるかもしれないって思うよ。でも、お兄さんがそれを望んでいるとは」

「ええ、思わないわ」

「え?」


「兄様がもし今ここにいたら、私は殴られているかもね。そして自分であいつを倒しに行くでしょうねえ」

 タバサは天を仰ぎながら言った。


「……なあ、仇討ちはともかく、この世界を闇で覆って人々を苦しめる事はどう思ってるんだよ?」

「それなら心配ないわ。闇は消えるのだから」

「え?」


「世界を覆う闇はもうじきここに集まり、妖魔砲のエネルギーとなって天界へ放たれるのよ。天界さえ消えれば私はもう誰にも手出ししないから、好きにすればいいわよ」


「そっか、あの時夢の町で皆を説得して集めたのは何でと思ってたんだけど、そういう事だったんだ」

 アキナがポンと手を叩くと


「……元々はね、私が神亡き後の世界を、いえ全てを支配するつもりだったわ」

「へ?」

「でもあなた達のせいで、忘れていたものを思い出してしまったわよ」

 そう言ったタバサの目には涙が浮かんでいた。



「なあタバサ、それなら俺達と一緒に」

 タケルがまた話しかけるが、タバサは首を横に振り


「無理よ。あなた達はあいつを殺す気はないでしょ?」

「どうあっても、それだけは譲らないと?」

「ええ。止めたいなら私を倒しなさい。でも、私は守護神や精霊女王をも倒したわ。そんな私に勝てるかしらね?」


「ええ!? セ、セイ兄ちゃんを!?」

 それを聞いたキリカは驚き


「精霊女王様をって、じゃあ後方にいた他の皆は!?」

 イシャナが後ろを振り返りながら言うと、

「皆まとめてアレに取り込んであげたわ。残るはあなた達のみよ」

 タバサはニヤリと笑いながら言った。


「守護神様をって、そんな奴が相手かよ。だが」

「ああ、やるしかないだろ」

 ソウリュウとイーセが身構えながら言う。



「ねーちゃん、ミッチー。どうする?」

 タケルは二人を見つめ、辛そうな表情で尋ねた。

「え、どうするって?」

「ここでまた敵味方になっても、俺は恨まないよ」 


 イヨとミッチーはしばらく何も言わずにいたが、やがてイヨが口を開いた。


「……ねえ、タケル」

「うん」

「あたしはどちらとも戦わない。でも、あんた達を応援する」

「え?」

「あんた達ならきっとタバサ様を」

 イヨは涙を堪えながら、タケルの目を見つめた。


「僕もイヨと同じです。皆さん、お願いします」

 ミッチーは皆に向かって頭を下げた。


「いいわ。でも私が勝った後は、また戻ってきてね」

 タバサは優しい笑顔を浮かべ、イヨとミッチーにそう言った後


「さあ、始めましょうか。最後の戦いをね」

 タバサが身構えながら言った。


「ああ。妖魔王タバサ、あんたは俺達が」

 タケルは剣を抜き、タバサに剣先を向けた。

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