第87話「魔王様は料理人?」

「七色の光の道。それはどんな場所にでもあっという間に行けるというものなのだ」

 ヴェルスがそう語る。


「あ、それ知ってるぜ。たしか『光の玉』というものを七つ集めて、心通わす七人が一つずつ持って念じれば出てくるやつだろ?」

「私も知ってるわ。けどその玉は遥か昔に役目を終えたから無くなった、ってセイ兄ちゃんから聞いたわ」

 アキナの後にキリカが続いて言うと


「光の玉についてはその通りだが、光の道は玉が無くても、別の方法で作れるのだ」

 ヴェルスがそんな事を言った。


「え、それ本当ですか?」

「ああ。作り手の一族に聞いたのだから、間違いない」

「え? あの、光の玉って誰かが作ったものなのですか?」

「そうだ。光の玉とは遥か昔、魔界に住む鬼族の魔法技術者達が最高神様の命を受けて作ったものなのだよ」


「え、マジで!?」

「そ、そんな事、うちの兄も言ってませんでしたよ!」

 皆が口々に言うと


「おそらく私が教えると思って言わなかったのかもな。さて続きだが、もう一度光の玉を作れたら話は早いのだが、その一族は魔界の混迷期に異世界へと旅立ってしまったのだ」

「何で? あ、もしかして自分達の技術を悪用されないために?」

 タケルが尋ねると


「そのとおりだ。そして行き先は私も知らぬのだ」

「じゃあ、どうしようもないのですか?」


「いや。聞く所によると、光の玉とは世界のエネルギーを凝縮したものらしい。なのでエネルギーを一点に集め、それを制御すれば光の道は出来るとの事だ」


「世界のエネルギーをって、それ神様でもない限り出来ないんじゃ?」

「タケル、もしそうならセイ兄ちゃんが一緒に来てるわよ。でもそうしなかったって事は」

 キリカがそう言ってヴェルスを見つめると


「ああそうだ。私でもエネルギーを集め、制御する事が出来る。これでも元魔王だからな」

 ヴェルスは笑みを浮かべながら頷いた。

 

「では早速道を作りに行こうか。丁度適した場所が」

「ねえ~、それ明日じゃダメ~?」

 ナナがヴェルスの服の袖を引きながらそう言った。


「え、何でだよ?」

 タケルが尋ねると

「あたしおじいちゃんともっとお話した~い」

「あ、そうか。そうだよな」


「ナナ。私もそうしたいが、それは旅が終わってからにしようではないか」

 ヴェルスがナナの頭を撫でながら言うが

「やだ~。さっきのお詫びもしたいも~ん」

「それは気にしなくていいんだよ、な」


「ヴェルスさん。折角お孫さんと会えたのだし、今日はゆっくりお話されてはどうですか?」

 イズナがそう言うと、全員が後に続いて頷いた。


「……では、お言葉に甘えようかな」

「わーいわーい!」

 ナナはヴェルスの周りを飛びながら喜んでいた。 

「ははは。では地上での私の家に案内しよう。今日は皆泊まっていってくれ」



 そして、ヴェルスに連れられてやって来た場所は、中心部からは外れているが、町でよく見かける石造りの小さな一軒家だった。


「な、なんというか普通。あ」

 タケルが慌てて口を押さえるが

「はは、構わんさ。私は元々一般市民だったものだから、豪華な城よりこういう家の方が落ち着くのだよ」

 ヴェルスはニコニコ笑いながら、ナナと先に家に入った。


「なんかさ、あの人が魔王だったなんて思えねえよな」

「そうね。でもああいう方だからこそ魔界を統一し、平和に出来たのでしょうね」

 アキナとイズナがそう話していた。

(あれ? ヴェルスさんはたしか魔界の名家の出だってセイ兄ちゃんが言ってたけど、違ったのかな?)

 キリカは首を傾げ、心の中でそう呟いた。


  

 そして居間に通され、皆がテーブルに着くとヴェルスが皆にお茶を配った。

「あ? これって東の島のお茶ですよね?」

 タケルがカップに入った黄緑色の茶を見ながら言う。

「それは魔界でも栽培されているのだよ。おそらく誰かが東の島で見つけ、気に入って始めたのだろうな」

「へえ。魔界って何か真っ暗なイメージですけど、違ったんですね」

「いや、大昔はそうだったが今は太陽があり、大地を暖かく照らしているよ」




「ねえおじいちゃん、お話聞かせて~」

 ナナがヴェルスにせがむ。

「ああいいとも。まず、おばあちゃんは元気にしてるよ。こないだまでは一緒にいたが、つい先日魔界へ帰ったんだよ」

「え~? 何で~?」

「それはね、おばあちゃんのお腹に赤ちゃんがいるからだよ」


 ブフォッ!


 タケル達は飲んでいたお茶を盛大に吹いた。


「あ、あの、まだそんな事してるのですか!?」

 タケルが思わずツッコむと

「そうだよ。それが何か?」

 ヴェルスは首を傾げる。

「いや、孫より年下の子供になりますよ!?」

「魔族にはごく普通の事だ。なにせ若い時期が長いしな」

「すみません。俺らの感覚で言っちゃダメでしたね」

 タケルがそう言って頭を下げる。

「はは、いいのだよ」


「ねえ、その赤ちゃんはいつ生まれるの~?」

 ナナがまた尋ねる。 

「そうだな、あと半年先かな」

「そっか~。じゃあ生まれたら会いに行くね~」

「そうしてくれ。その時は皆揃ってな」

「うん。パパとママも一緒に」

「ああ。その為にも、明日は頑張るからな」

 そう言った後、ヴェルスは皆を見つめ


「皆さん、私は残念だが一緒には行けぬ。だからナナを、娘夫婦を頼むよ」

 そう言って頭を下げた。


 その後はナナがヴェルスにあれこれと尋ね、タケル達はそれを微笑ましく見ていた。


 そして、窓の外が暗くなりかけた頃

「さて、そろそろ夕飯の支度をするから、皆はゆっくりしていてくれ」

 ヴェルスがそう言って席を立つ。


「え? もしかしてヴェルスさんが作るのですか?」

 タケルが思わず尋ねると

「そうだよ。ちゃんと食べられるものだから、安心してくれ」

 そう言って台所へと歩いて行った。


 しばらくして出された料理は


「えーと……」


 それはどんぶりに真っ黒で泥っぽい液体が入っていたものだった。

 よく見ると黒い麺も見える。

 テーブルの中央に置かれた大皿には、卵や豚肉、もやしにネギなどが盛られていた。

 どうやらトッピング用らしい。


「あの、これってもしかして、ラーメン?」

 タケルがそれを指さしながら、おそるおそる尋ねる。


「ああ、魔界特製のな。さ、食べてみてくれ」

「は、はい……ん」


 皆が意を決してそれを口にすると


「な、なんだよこの美味さはぁーーー!?」

 まずアキナが驚きの声を上げ

「み、見た目と違ってあっさりして、美味え!」

「何これほんと美味しい!」

 タケルとキリカも思わず叫び

「……」

 イズナは驚きのあまり絶句していた。


「おいし~い! おじいちゃんってお料理上手なんだね~!」

 ナナも満面の笑みを浮かべて言う。


「はははどうだ、驚いたか?」

 ヴェルスはイタズラ成功、とばかりに笑う。


「え、ええ」

 タケルが笑い返し

「うん、ナナも料理上手いけど、ヴェルスさんはそれ以上だよ」

 アキナがそう言うと

「おや、そうなのか?」

「そうだよ~。ねえおじいちゃん、今度これの作り方教えてね~」

 ナナが笑いながら祖父に頼んだ。

「わかったよ。ラーメンに限らず、たくさん教えてやるぞ」

「わーい!」


「良かったわねナナ。しかし何でそんなに料理が出来るのですか?」

 キリカがヴェルスに尋ねると

「それはだな、若い頃に料理修行もしていたからだよ。元々料理が好きだったものでね」

「そうだったのですか。でも魔界統一事業の中では大変だったのでは?」

「それはまあいいではないか。さ、たくさんあるから遠慮せずどんどん食べてくれ」

「は、はい」

 その後、皆お腹一杯になるまで魔界ラーメンを堪能した。


 その夜、皆が寝静まった頃


「聖巫女殿は薄々気づいているようだな。まあいずれ、黒い霧を祓った時にでも話そうかな」

 ヴェルスは一人、そう呟いた。

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