第79話「その力は?」

「あれ? 映像が消えた」

「もう必要ないから消したわよ」

 キリカの呟きにユーリが答え、その後


「ねえ、あなた達はタケルの仲間よね。たぶんさっきのあれも見てたんでしょ? ごめんなさい」

 そう言って頭を下げた。


「ううん。それはいいけど、あなたは妖魔に憑かれていたんじゃないの?」

 キリカが尋ねると

「私にもわからないけど、いつの間にか消えていたの」

「え? そんな事あるの?」


「ユーリさんの心が妖魔を追い払ったのでしょう。おそらくタケル君を見てね」

 セイショウがそう言うと

「ううん、動物達を食べる人間なんか死んじゃえばいいと思ったのも本心よ。だから妖魔のせいには出来ないわ」

「そう思えるならもう大丈夫よ。ところで、どうしてあなたは動物達を守ろうと思ったの?」


「それはね……知ってると思うけど私は雪女と人間のハーフよ。そして、どっちの世界にも居場所がなかった者なの」

「どういう事?」


「私の母は禁忌を破って父と結ばれたせいで雪の世界から追放されたわ。その後私が生まれ、親子三人で人里離れた森で暮らしていたけど……ある時、両親は人間に殺されたわ」

「え? も、もしかして、雪女というだけで恐れられたから?」


「そうよ。母にはもう雪女としての力が残ってなかったから、追い払う事もできず……父も母を庇って一緒に串刺しにされたと後で知ったわ」


 私はその時、森の奥で動物達と遊んでいたので死なずに済んだわ。


 その後、私は動物達に守られて暮らしていたの。

 彼らの言葉はわからなかったけど、心が通じてるようで寂しくなかったわ……でもね、やがて森の奥まで人間が入ってきて、動物達を狩り始めたの。


 私は雪の力でそいつらを追っ払ったけど、間に合わずに何十匹もの仲間が狩られたわ。

 ……それが生きる為なのはわかるよ。

 でも、人間は別に動物を食べなくても生きていけるじゃないの、と思ったら……。


 そして私は人間達に復讐しようとした。

 けどそれを止めてくれた方がいたの。

 その方は私の両親を救えずにすまなかった、と謝罪された後、

「復讐よりその力で動物を守ってほしい。両親もそれを望んでいるだろう」と言ったのよ。

 そしてその方から魔法石の事を聞いて、ここに動物達が安心して暮らせる場所を作ったのよ。



「そうだったのね……」

 キリカは目を閉じて俯いた。

「な、なあ。タケルやあたい達だって人間だぞ。なんで普通に話してくれるんだ?」

 アキナが戸惑いながら尋ねると、

「全員が全員、無闇に動物達を狩っているわけじゃないのはわかってる。いえあの方が教えてくれた。だから誰もかれもを嫌うことはしないし、仲良くしたいとも思ってるわ」

「そ、そうなんだ。もしあたいだったらどう言われてもそんな事思えないかも。あんたって強いな」

「ううん。強いのはあの方、そしてタケルよ」


「ねえユーリさん、あの方って誰?」

 今度はユイが尋ねる。

「精霊女王といって、全ての自然を司る御方よ。タケルのお祖母さんがここに来れたのは、あの方の導きがあったからかもしれないわね」


「そっか。じゃあいつかその精霊女王様に会えたらお礼を言わないと」

 気がついたタケルがユーリに話しかけた。


「あ、タケル……ごめんなさい、私あなたに酷い事を」

「いいよ。おかげでばあちゃんにまた会えたから、勘弁してやるよ」


「ダメ。ユーリさん、悪いと思うならそのぶっといものでタケルに快楽を……ハアハアハア」


 ゴン!


「ホント気にしなくていいからな」

 タケルの足元には頭にでかいタンコブを作ったユイがのびていた。


「ううん、私を好きにしてくれてもいいよ。あなたなら」

 ユーリが頬を染めて呟く。

「なあ、何でユーリはオカマになったんだ?」

「オカマじゃないわよ、男の娘よ。精霊女王様に仕込まれてこうなっちゃったの」

「そうなんかい。精霊女王様って腐ってやがるのか?」


「否定できませんね、ハア」

 セイショウはボソッと呟いた後、ため息をついた。



「ねえ、僕達すっかり忘れられてるね」

「そうね。さ、今日のところは引くわよ」

 そう言ってイヨとミッチーが去ろうとした時


「あ、ねーちゃん。ちょっと待って」

 タケルがイヨを呼び止めた。

「な、何よ?」


「あのさ、ばあちゃんからねーちゃんに言伝があるんだけど」

「は? 何であんたのばあさんがあたしに?」

「知らねえけど、とにかく聞いてくれよ」

「まあいいわ。で、何て言ってたの?」


「『助けられずにごめんね』だって。ねーちゃん、何の事かわかる?」


「……わからないけど、あたしが捨て子だった事に関係あるのかもね」

 イヨは首を傾げながら言う。


「そっか。じゃあ、たしかに伝えたよ」

「ふん、じゃあね」

 イヨとミッチーはその場から消えた。

 


「さて、私達も戻りましょうか」

 セイショウがそう言った時


「あ、その前にあいつらを」

 タケルはモンスターと化した動物達に向けて手をかざした。


 すると掌から眩い光が放たれ、それが動物達を包み込んだ。


 そして光が止むと、動物達は皆元の姿に戻っていた。



「え!? な、何あれ!?」

「す、凄い。あんな事、わたしの破邪の力でも出来ない」

 アキナとユイがそれを見て驚き、


「キリカ、あれも神力なの?」

 イズナがキリカに尋ねるが

「違うわ。魔法でもないし、何なのかわからないわ」

 キリカは首を傾げた。


「って、あれ? 俺が何でこんな事できんだ?」

 タケル自身もどうやらよくわからないようだ。



「あれは……祖母殿と再び会えたのがきっかけになったのかも。これは嬉しい誤算でしたね」

 セイショウは一人頷いていた。




「タケル、もしよければまた来てね。皆さんも一緒に」

「ああ、またな」

 タケルはユーリと握手し、

「きゅー(またねー)」

「ああ。それとありがとな」

 ユーリの足元にいた兎を撫で、皆の元に歩いて行った。

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