第73話「修行と決闘」

「容赦ないですねあなた達。私が神じゃなければ死んでましたよ」

 セイショウは散々シバかれたせいであちこち痛そうにしていた。


「もう、覗くなら私だけにしてよ。あ、いっそ最後まで……はあはあ」

 キリカがヨダレ垂らしながら何かほざくと、

「そうすればいい。そしてわたしはタケルとするから……フフフ」

 ユイも真顔で何かほざいていた。


「ちょっとユイ! 何であんたがタケルとするのよ!」

 キリカが怒鳴ると、ユイは

「夢の町でのタケルとあなたはいい感じになっていた。このままじゃ本当にそうなってしまいそう。だから、その前にどんな手を使ってでもタケルを奪い取る」

 ユイの口調は静かだったが、凄まじい気迫を感じさせるものがあった。


「う? あのね、私はタケルなんて」

「そうでないならわたしの邪魔しないで」

 ユイがそう言ってキリカを睨みつける。 


「う、うう。それは、その」

 キリカが狼狽えていると


「さっきはどんな手でもと言ったけど、わたしはキリカを親友だと思ってる。だから正々堂々と勝負したいの」

「え?」

「キリカ、わたしと決闘して。そして負けた方が身を引くという事にしない?」

 そう言うユイは何故か焦っているかのように見える。

「……うん、わかった。それでいいわ」

 キリカはユイと、そして自分自身に向き合おうと思い、受けることにした。


「おいおい。タケルがいる前でそんな話って、あれ?」

 アキナが辺りを見渡すが、タケルの姿はどこにもなかった。


「ああ、彼ならさっき私が外に飛ばしましたよ。ちょっとお使いをお願いして」

 セイショウがさらっとそう言った。

「は、はあ? お使いって何だよ?」

「ここから十キロ先にある山の頂上に珍しい魔法石があるのですよ。それを取りに行ってもらいにね」

「え? セイショウさんなら自分で取りに行けんじゃないの?」

「これは彼の修行も兼ねているのですから、私が行ったら意味ないでしょ」

「へえ……あ、それならあたいにも何か修行を」

「ええいいですよ。ユイさんとキリカはどうします?」


 セイショウが二人に尋ねると

「わたしもお願いしますが、決闘を先にしたいです」

「ええ。私もそれで」


「そうですか。では決闘場は私が用意しましょう」

 そう言って手をかざすと、壁に扉が現れた。


「その向こうは異空間に繋がっています。そこなら思いっきりやれるでしょ」

「うん。じゃあユイ、行きましょ」

「わかった」

 キリカとユイは扉を潜って行った。


「セイショウさん、止めなくてよかったのですか?」

 イズナがそう尋ねるが

「本人達がそれで納得しているのですから、止める気はありません」

「ですが……」

「ところでイズナさんはいいのですか? あなただって彼の事を」

「私はあの二人には敵いません」

 イズナは首を横に振ってそう言った。

 彼女が実力ではなく、想いの強さを言っているのはセイショウにもよくわかった。


「そうですか。どうするにしても、後悔のないように」

「え?」

「さて、あなたはどうします? 修行されますか?」

「は、はい。お願いします」


「では、私達も行きますか」

 セイショウがまた手をかざすと、先程とは反対側の壁に扉が現れた。


 そしてセイショウとアキナ、イズナはそこを潜って行った。




「ありゃ?」

 そこは何もなく、ただ真っ白な場所だった。


「ここってあれだな、セフィトス師匠に修行つけてもらった場所と似てるや」

「そうね。あ、もしかして」

 アキナとイズナがそう話していると

「ええ、彼の所と同じような場所ですよ。ここなら邪魔は入りませんから」

 セイショウが頷いて答えた。



 そして

「それでは修行ですが、アキナさん、私とひとつ格闘技で勝負しましょうか」

 セイショウがアキナに話しかける。

「え? セイショウさんって格闘技できるの?」

「ええ、これでも神ですからね。アキナさんの稽古相手にはなりますよ」

 セイショウの服装はいつの間にかローブから黒い道着になっていた。


「う、うん。じゃあ」

「ええ」


 その後、アキナはセイショウに向かっていき、蹴りやパンチを放つが全てかわされ、防がれた。


「ぜ、全然攻撃が当たんねえ!」

 アキナが驚き叫ぶと

「ふふ、アキナさん、私が素早いと思ってるなら間違いですよ」

 セイショウはチッチッチと指を振って言った。


「え? じゃあ何?」

「私は人の心を読めるのですよ。だからどう攻撃して来るのか丸わかりなのです」

「ええ!? そ、そんなのずっこいよ!」

「ずっこいと思うなら心を無にしてみなさい。そうすれば私も読めませんから」

「は?」

「わかりませんか? では今度はこちらから」

「え。ぎゃあああ!?」

 セイショウはいつの間にかアキナの後ろに回っていて、その尻を撫でていた。


「こ、こ、こんにゃろー!」

 アキナが振り返ってセイショウを殴ろうとしたが、彼はあっさりとそれをかわし、そして彼女のちっぱい胸をつついた。


「ふぎゃあああ!? カーシュさんにも触られた事ねえのにー!」

「ふふふ。さあ、どうします?」

「ぶっ殺してやるー!」


 だが、その後もアキナの攻撃はセイショウに当たらず、その度に触られまくり、

「ふえええええーーん! もうやだよー!」

 アキナはその場に立ち尽くして泣きだした。


「お、お、おのれこのエロ神めェー!」

 それを見ていたイズナがブチ切れ、剣を抜いてセイショウに斬りかかるが


「はいっと」

「え!?」

 セイショウはその剣をいつの間にか手にしていた扇で止めた。


「ふふ、その巨乳をどうしてあげましょうかね~」

 セイショウが妖しい笑みを浮かべて言うと、


「あ、あ」

 それを見たイズナは恐怖のあまり腰を抜かした。


「まあ後のお楽しみにして、今は」

「え、あああっ!?」

 イズナの体が宙に浮かび、そのまま静止した。


「そのままおとなしくしていて下さい。さて」


「あ、あ」

 アキナは怯えて動けなくなった。


――――――


「おのれあの変態エロガキ、成敗してやるわー!」

 この光景を見ていたタバサがブチギレ、手にしていた杖に気を溜めていた。


「タバサ様、あたしも一緒に!」

 イヨもタバサの杖目掛けて気を送っていた。


「ええ! 一緒にアレをブチ殺すわよ!」

「はい!」


「うわ、いいなあ。僕もあっちに行って混ざりた」




「あ、が」

 いらん事ほざいたミッチーはタバサ・イヨの攻撃を喰らい、真っ黒焦げになって倒れた。


「もう! また最初からやり直さなきゃいけないじゃないのよ!」

 二人は再び杖に気を溜め始めた。



「あ、あの、攻撃できるなら修行を妨害しましょうよ……ガク」

 ミッチーはそう呟いた後、気を失った。

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