第72話「お兄さんは何者?」
幸せな日々が続きましたが……やがてその世界は滅んでしまいました。
「え、何故!?」
タケル達が驚き
「それはですね、創造主となった分神精霊と男性が世界に余りにも手を出しすぎた為、そこに住む者達は自分の力で何もしなくなり、やがて皆弱っていき、ついには全ての生き物が死滅してしまったのです」
そして残ったのは創造主である男性と分神精霊の夫婦、まだ赤子であった二人の息子、そして彼女の四人だけでした。
その時最高神様が現れ、男性と分神精霊に時には厳しく接する事を諭そうとしましたが、男性が
- なんだよそれ。だったら最初からあんたらみたいな生き物創ればいいだろ ー
そう言って最高神様を討とうとしましたが、敵いませんでした。
ですが男性の力はこの時点で高位の神以上、もしかするといずれ最高神様以上にまで……このままでは危険だと思った最高神様は、心ならずも男性を消滅させました。
そして夫を消された分神精霊は怒りに身を任せて手向かいましたが、最高神様の手で封印されてしまいました。
残った彼女と赤子は最高神様の手で天界へと連れられていきました。
その後、彼女は最高神様の命を受けて赤子の世話をしていました。
彼女は赤子を弟のように大事にしていましたが、ある時他の「姉」達に赤子を預け、姿を消しました。
そして戻ってきた時、その手に黒く光る槍を握りしめていました。
それは、混沌より生まれし神殺しの槍。
「もしかして、それで最高神様を討とうと?」
タケルが挙手して尋ねると、セイショウは静かに頷いた。
「ですがそれでも最高神様には敵いませんでした。そして彼女は力を奪われ、先程言ったように地上に落とされたのです」
「そこからどうやって妖魔王に?」
「はい、それは」
彼女は天使の力を失いましたが、魔法力やそれまでの知識や経験まで失われた訳ではありませんでした。
彼女はそれらを駆使し、長い年月をかけて魔法力を増やし、魔の力や聖なる力を取り込んで力を蓄えていきました。
そしてその力で妖魔達を従え、王となったのです。
「え? ちょっと待って、聖なる力もですか?」
またタケルが尋ねる。
「ええ、今の彼女は聖魔両方の力を持っています。これくらいしないと最高神様には勝てないと思ったのでしょうね」
「その妖魔王タバサに、今の俺達で勝てますか?」
「わかりません。神力ですら通用しないかも、ですが」
「他に手があるのですか?」
「はい。以前最高神様から聞いたのですが、この世には神力以上の力があるのです」
「え!? そ、それって何なのですか!?」
「『心力』、心の力と呼ばれるものですよ」
「え?」
「人間、いや全ての生き物は時として神々ですら予想もつかない奇跡を起こす事があるのです。それは神の力ではないはず。では何なのかと神々が考えた末、辿り着いたのが心の力ではないかと」
「心の力……って」
「はい。愛、友情、勇気、優しさなどですが、それは誰もが持っています。だがそれ以外に考えられない、と」
「じゃあどうやったら使えるのかもわからない?」
「ええ。ですが、あなた達なら使えるような気がします」
「俺達なら、か」
皆しばらく無言になった。
そして
「……あの、いいですか?」
ユイがおずおずと手をあげる。
「はい、何でしょう?」
「さっきから聞きたかったのですけど、セイショウさんって何者ですか? だって男性が最高神様の神託を受けるってあり得ないはずなのに、聞いたと言われてたし」
「ああ、それを言ってませんでしたね、私は」
「セイ兄ちゃんはこの世界を見守る神様、守護神様なのよ」
キリカが先に言った。
「な、なんだってえええ!」
「か、神様だというのですか!?」
タケル達は驚き、立ち上がって叫ぶ。
「ええ、そうですよ。私はこの世界の神です」
セイショウは笑みを浮かべて言った。
「ほ、本当にセイショウさんが?」
タケルはまだ信じられない様子だが
「いえ、そう言われると納得できるわ。雰囲気が何か人間離れしているし、この神殿の事だってまるで自分で建てられたかのように話していたし」
イズナがセイショウを見つめて言う。
「え、えと守護神様。あのさ、聞いていい?」
アキナがどもりながら手を挙げて言う。
「ふふ、名前で呼んでくれていいですよ。私は神である前にあなた達の仲間の兄ですからね」
「じゃ、じゃあ。セイショウさん、さっき話にあった赤ちゃんって」
「ええ、それは私ですよ」
「や、やっぱそうか。その話の時は悲しそうにしてたから、もしかしたらと思って」
「おや、顔に出てましたか。私もまだまだですね」
セイショウはそう言って笑みを浮かべた。
「……あの、セイショウさんは最高神様を恨んだりしなかったのですか? だってお父様を消され、お母様を封印され、そして『お姉様』までも奪われたのに」
ユイがまた尋ねると
「それ、タバサにも聞かれましたね。たしかに幼い頃は腹立たしく思って悪戯しまくった事もありましたよ」
でもある時、悲しそうな目で私を見つめ、小声で「ごめんなさい……」と謝られた後、私を抱きしめました。
その時は理解できませんでしたが、長じてからわかりました。
最高神様も辛かったのだと。
「そうでしたか。最高神様でもそうなんだ」
「そうだ。あの、私の兄とはいったい何処で知り合ったのですか?」
イズナが挙手して尋ねる。
「ああ、それは今から六年前、私がイーセさんの所へ出向いたのですよ」
「え?」
「イーセさんは当時、いや今でもおそらく世界一の剣の達人で、若いながらも思慮深く、そして世界の平和を願う方でしたからね。そのイーセさんなら神剣士と共に戦えると思ったのです」
「それで兄に妖魔王の事を話した、と」
「はい。それとお互い妹を持つ身として気が合いましてね。幾度も妹自慢合戦をしたものです。ああ、イズナさんの事を凄く褒めちぎってましたよ」
「そうでしたか。私の事を」
イズナは目を閉じて兄を思った。
「ん、あれ? じゃあ何でイーセさんにタケルの居場所を教えなかったのさ?」
アキナが首を傾げながら尋ねると、
「当時は私にもわからなかったのですよ。ただ漠然と東の方にその気を感じていましたが」
「そうだったんだ。神様ですらそうなら、イーセさんもイズナも見つけられないよな」
「はい。やっとわかったのはタケル君が十五歳になった時、去年ですね」
「え、どうしてその時に俺の事が?」
するとセイショウは、タケルを睨みつけながら話しかける。
「タケル君、あなたその頃から麓の村近くにある古い神社にエロ本隠し出しましたねえ~」
「た、たしかに誰も来ないし、あそこならと思って。あ、まさか」
「ええ。あそこって私を祀っているから、感知しやすいのですよ。まあエロ本読んでるだけなら見て見ぬふりしますが、じい」
「言わないでーーー!」
タケルはセイショウに縋り付いて泣き叫んだ。
「え? 何なのよいったい?」
「キリカ、それは聞いてはダメよ」
イズナが顔を真っ赤にして首を横に振る。
「まあそれは若い男なのでいいですが……ですがよくもキリカの裸見やがりましたねえ、よくもキスしてくれましたねえ~」
セイショウは指をポキポキ鳴らしている。
そしてその背には神が放つとは思えない黒いオーラが出ていた。
「げ!? ちょ、ちょっと」
「覚悟はいいですか?」
「……待ってください」
ユイがセイショウを止める。
「何でしょう? やめてくれは聞きませんよ?」
「いえ、タケルが覗いてたのを知ってるなら、セイショウさんも見たって事じゃ?」
「あ、そうだわ! どうなのよセイ兄ちゃん!?」
女子達がセイショウを睨みつける。
「……えと」
セイショウは冷や汗をかいて目を逸らした。
その後、セイショウは女子達にフルボッコにされた。
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