第66話「目覚めた」

 正月が過ぎ、町の人達が普段の生活に戻ったある日の朝。



「うーん。さて、今日もまたバリバリ働くぞー!」

 アキナは家の前で大きく伸びをしながら言うが、

「……ってあれ? あたいってたしか旅に出てなかったっけ? え」



「今日はどこまで進めるかなあ……ってあれ? どこへ?」

 ユイは自宅で朝食を取りながら首を傾げていた。



「うーん、僕って一人暮らしだったっけ? 何かずっとイヨやお母さんと暮らしていたような……うん」

 ミッチーは急いで身仕度を整え、家を出た。



「兄さん、よね?」

「ん、どうしたイズナ?」

「……ごめんなさい、ちょっと出て来るわ!」

 イズナはそう言って家を出た。


「そうか、どうやら……よし、俺も」

 イーセはイズナの後を追いかけた。



「おはよ、ねーちゃん……あれ、俺ってねーちゃんいたっけ?」

 タケルが首を傾げながら呟く。

「何寝ぼけた事言ってんのよこのバカ弟は……あれ?」

 イヨも首を傾げていると、家のドアをノックする音が聞こえた。


「あれ、どうしたんですかこんな早くに?」

 それはセイショウとキリカだった。

「タケル君、イヨさん。ちょっと公園までご足労願いたいのですが」

 セイショウが二人にそう言った。


「え、あの? 何かあるんですか?」

「ええ。もう感じてるのでしょ? 違和感を」

「え、はい。あの、もしかして何か知ってるのですか?」

「はい。それを皆に教えようと思って。他の方々も集合場所である公園に向かっているでしょうから、全員集まってからにしましょう」




 そして皆が次々と公園に集まると、アキナが一番に切り出した。

「なあ皆、何かおかしいと思わないか?」

「ええ。たしかに何かがおかしいわ」

「わたしも」

 イズナとユイも困惑気味であった。


「僕達、何故ここにいるんだろ?」

「ええ。何か記憶に矛盾があるわ?」

 ミッチーとイヨは頭に手をやりながら言う。


「やはり皆さん、目覚めつつあるようですね」

 セイショウが皆を見渡して言う。


「え、兄ちゃん? 目覚めるって何よ?」

 キリカが兄を見上げて尋ねると

「……キリカ、タケル君、アキナさん、ユイさん、イズナさん。あなた達は世界の闇を祓う為に集まり、そして私達の家がある北の大陸を目指していましたよね」

 セイショウはそう言って五人を順に見つめた。


「え? ……あ、そう言われてみれば、そんな気がする」

 タケルがそう呟くと、セイショウが彼の側に寄り、


「タケル君、あなたは伝説の神剣士。世界を覆う闇を祓える者です」

「……あ」

 セイショウにそう言われ、タケルは目を閉じて俯いた。


「キリカ、君は神剣士をサポートする聖巫女。そして最高神様の力を使える者」

「え」


「アキナさん。あなたは武闘家で聖闘気の使い手であり、闇を祓って皆でお腹いっぱいになろうとしていましたね」

「あ、ああ」


「ユイさん。あなたは破邪の力を使う賢者一流の末裔。神剣士と共に戦う為、旅に出ましたね」

「……うん」


「イズナさん。あなたは剣士で、お兄さんの遺志を継ぎ、長い間神剣士を探して旅をしていましたね」

「そ、そうよ、私は」


 セイショウがそう言った後、彼女達もタケルのように目を閉じて俯いた。


 そしてセイショウはイヨとミッチーにも話しかける。

 すると二人もまた目を閉じ、静かにそこに立っていた。




「……思い出した。私達はたしか」

 イズナが最初に目を開け、

「ああ、廃墟となってた町で一夜を明かそうとしたんだよな。でもその後」

「気がついたらここにいた」

 その後にアキナとユイが続けて言った。


「ふう。今ならきっかけを与えれば、と思いましたが、上手く行ってよかった」

 セイショウはホッと胸を撫で下ろした。


「ねえ、何で兄ちゃんがここにいるのよ?」

 キリカがセイショウに近づいて尋ねる。

「ん? 可愛いお前に会いたくなったからだよ」

 セイショウは笑みを浮かべながら答えた。

「えーと、それだけじゃないでしょ?」

 キリカの顔は笑っていたが、目が笑っていなかった。


「あ、ああ。この状況じゃ流石にじっとしていられないから、出向いて来たんだよ」

 それを見たセイショウは思わず後退った。

 

「えっと、あの、あなたは本当にキリカのお兄さん、セイショウさんなんですか?」

 タケルがおそるおそる尋ねる。


「そうですよ。ああ、改めまして皆さん、いつもキリカがお世話になっています」

 セイショウがそう言って頭を下げると

「あ、いえこちらこそ」

 タケルも同じように頭を下げた。


「兄ちゃん、どうせ私達の事は全部見てたんでしょ?」

 キリカが腰に手をやりながら言うと

「ああ見てたよ。……一度死にやがって」

 セイショウはキリカを睨む。


「うん、心配かけてごめんなさい」 

 それを見たキリカはしおらしくなり、兄に謝る。

「いいさ。ツーネ王には本当に感謝だよ」

 そう言ってセイショウはキリカの頭を撫でた。


「キリカのお兄さん、遠見の術が使えるんだ」

「だからあたい達の事も知ってたんだな」

 ユイとアキナがそう言うと

「術とは違いますが、まあ皆さんの事も見てましたよ」

 セイショウは笑みを浮かべながら答えた。


「へえ……え? あの、全部?」

 タケルが何かに思い当たり、目を見開いて尋ねると、

「ええ見てましたよ~。ふふふ、後で覚えておきなさいよ、タケル君」

 セイショウは指をポキポキ鳴らした。


「あ、あわわわ」

 タケルの顔は真っ青になっていた。

 

「って、殺しやしませんから安心してください」

「兄ちゃん、それより」

「ああ、そうだった。では」

 キリカに促されたセイショウは真剣な表情となり、皆を見渡して話し出した。



「さて、皆さんはここに取り込まれ、別の記憶を持って過ごしていた。それはわかりますね?」

「ええ。あの、セイショウさんはここが何なのか知ってるのですか?」

 タケルが尋ねると、


「ここはですね、とある男性が創りだした夢の町なんですよ」

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