第65話「夢みたいに」

 タケルはキリカとユイを侍らせて(?)公園の中を歩いていた。


 それを見たある者は悔し涙を流し、ある者は殺意を抑え、またある者はタケルに呪いの言葉を放っていた。


「ふんふんふ~ん。俺って今最高に幸せだよな~」

 だがタケルはそんな事を気にせず、至福の時を過ごしていた。


 すると

「……う?」

 ユイは突然頭を押さえてその場にしゃがみ込んだ。


「ユイ、どうしたの?」

 キリカも屈んで尋ねる。

「……ごめん、ちょっと疲れたの」

「え、大丈夫か? どっかで休むか?」

 タケルも心配して声をかける。

「うん。でもタケルとキリカはゆっくり楽しんできて」

「いや、ユイを置いていくなんて出来ないよ」

「いいの。気分が良くなったら合流するから」

「ホント一人で大丈夫? 無理しちゃだめよ」


「ユイちゃんは俺達が見ておくから、行ってくればいい」

 そう言って声をかけてきたのは


「え? あ、イーセさん? それに兄ちゃんも」

 酒場へ行く途中だったセイショウとイーセだった。


「え、あの? いいんですか?」

 タケルが遠慮がちに尋ねると、

「いいですよ。でもキリカの着物脱がしてとかしたら、殺しますからね」

 セイショウは指を鳴らしながら言う。


「! あ、あ、はい!」

 タケルは震えながらキリカの手を引いて去っていった。



「さて、どうする? 無理せず家に帰った方がいいと思うが」

 ユイをベンチに座らせた後、イーセが心配そうに尋ねた。

 すると、


「……イーセさんって、死んだんじゃなかったの?」

 ユイは頭を抱えながらそんな事を言った。


「え?」

「おや?」


「……あ、ごめんなさい。変な事言って」

 ユイは顔を上げて謝った。


「どうやらユイさんも戻りつつあるようですね。体調不良はそのせいかも」

「セイショウさん、もしかすると他の皆もそのうち」

「そうかもしれませんね。ですが元凶を経たないとまた」

 セイショウとイーセが小声で話していると


「あれ、どうかしましたか?」

 そこを通りかかったダンが声をかけてきた。


「ああ、ダン君か。いやユイちゃんがちょっと気分が悪くなったそうで」

 イーセが事情を話すと

「そうですか、それならハーブティーでも飲みますか?」

 ダンはそう言って袋から水筒を取り出し、これまた袋から取り出したティーカップに注いだ。

「はい、どうぞ」

「あ、ありがとう」

 ユイはそれを受け取り、一口飲むと、

「あ、美味しい」

「よかった。これ『世界樹の葉』というお茶なんです。勿論本物の世界樹じゃないですけどね」


「あ」

「ん? どうしましたか?」

 ダンが心配そうに尋ねるが

「いえ、何でもないの」

 ユイは首を横に振る。


(わたし今、凄い事になってる。まるで夢みたい)

 ユイの両脇には町で一二を争う美青年セイショウとイーセが座っており、斜め前に腐ったおねーさま方に人気のある美少年ダンがいて、まさに逆ハーレムのようである。

 彼女はこの状況に気付き、ニヤけ顔になっていた。


「どうやらもう大丈夫みたいですね。ではどうします? 後を追いますか?」

 セイショウが尋ねるが、ユイは返事をせずニヤニヤ笑い続けていた。

 

「ふふ。もう少しこうしてましょうか」

「ははは。美男子三人を侍らせるとは贅沢なお姫様だ」

 セイショウとイーセが笑いながら言う。


「あの、何か鋭い視線を感じるんですが」

 ダンが冷や汗をかきながら言ったとおり、通りかかった女性達がユイを呪殺しそうな目で見ていた。




 その頃タケルとキリカは、公園内を散歩しながら話していた。


「ねえタケル、何かこの町って夢みたいね」

 キリカがそんな事を

「ん? そうだな。皆ここへ来れて幸せだって言うし」

「うん。でもずっとこのままではいられないような気がするの」

「……俺もそんな気がする。それに何か大事なことを忘れてるような」

 タケルは眉を顰めて言うと、


「おや、タケル君にキリカちゃん。明けましておめでとう」

 町長が向こうから歩いてきて、二人に声をかける。


「あ、明けましておめでとうございます」

「タケル君、昨夜はご苦労様じゃった。今日はデートかの?」

「え、まあその」


「いいもんじゃな。儂は独り身のままこの歳まで来てしもうたしの」

 町長は少しだけ寂しそうな表情を浮かべたが、

「結婚だけが幸せではなかろうが、それでも皆には良い相手に巡りあってほしいと思うんじゃ」

 すぐに笑顔になり、二人を見つめてそう言った。


「そ、そうですか。でも町長さんだってまだまだいけるでしょ?」

「いやいや。儂はこの町と皆がいれば充分じゃ。ではお邪魔じじいは消えるかの」

 町長は笑いながら去っていった。


「うーん、なあキリカ」

「何?」

「町長さんといつ出会ったか、覚えてる?」

「え? ……あれ、覚えてないわ?」

 キリカは首を傾げながら答える。

「俺もだよ。でもたしかに町長さんに誘われてここへ来たんだよなあ?」

 タケルも首を傾げていた。



「何故か町が消えそうな気がしてならんわい。まるで夢から醒めるかのように。いや、させてなるものか」

 町長は歩きながらそう呟いた。




※ 現在までの相関図へのリンクを紹介文の中に載せてますので、もしよければ見て下さい。

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