第33話「幼女ハンター」

 案内されてきた場所は長机と椅子があるだけの部屋。

 どうやら会議室として使用している場所のようだ。


 そして向かって右奥の席には短く揃えた髪、服装は半袖の茶色のベスト、黒いズボンを着た野性味溢れる雰囲気の二十代前半位の男性が座っていた。

「ん? もう戻ってきたのか?」

 男性がディアルを見て話しかける。


「ええ。この方達が皆を助けてくれたので、私は何もしなくて済みましたよ」

「そうか。では俺も礼を言っておこう。それと俺の名はソウリュウ……って、お?」

 ソウリュウは席を立ち、アキナとユイに近づいたかと思うと

「可愛いお嬢さん達、俺と一緒に茶でもどうだ?」

 いきなりナンパしやがった。


「え? あ、あたいが可愛いって、そんな~」

「い、いけない。わたしにはタケルという夫が」

 アキナとユイはこの手の男性に言い寄られた事などない。

 なのでちょっとドキマギしているようだ。


「おーい、客人に手え出すなよ~」

 イシャナが呆れながら言うと

「いいじゃねえか。こんな可愛い幼女に手をださないなんて人生損する」


 ドゴオオッ!

「あたいはこれでも十五歳だ!」

 アキナが怒りながら回し蹴りを放ち、そして


 ゴオオオオーーー!

「わたしも十五歳!」

 ユイが額に青筋立てながら大火炎魔法でソウリュウを焼き払った。

 

 だがソウリュウは何事もなかったかのように立ち上がり、

「十五歳でも見た目でありだぜ! でもヒトケタの方がいい」

 ドアホな事をほざいた。


 ズバアッ!

「イシャナ殿、こんな変態犯罪者が何故ここにいるのですか!?」

 イーセがソレをぶった切りながらイシャナに尋ねる。


「い、いやそれ、一応軍師。狩人が本業だけど」

 イシャナは冷や汗かきながら言う。


「そうさ! 俺は幼女ハンターなのさ! ファーッハハハ!」

 しぶとく蘇った変態、いやソウリュウが笑いながら言うと

 

「光竜剣ーーー!」

 タケルがマックスパワーで放った技でソレを吹き飛ばした。


「……あの、他に軍師になれそうな人いないんですか?」

 キリカが引きながら尋ねるが

「ま、まあ趣向はアレ過ぎですけど、あの人は狩人としても軍師としても超一流なんですよ」

 ディアルがソウリュウを一応庇った。

「うーん、そうなんですか」


「まあ、アレは気にしないでくれ。では」


 イシャナの説明では、現在のタイタン国王ツーネは四十歳の壮年で、少々強引な所もあったが普段の人柄はとても良く、民を思い善政を敷いていた。


 だがある時から人が変わったかのように独裁主義となり、逆らう者は尽く追放、あるいは処刑していった。

 現在の取り巻きの多くは他所から来た者や媚を売る者ばかり。

 そして民に重税を課し、使える者を無理矢理攫って兵士に仕立て

「手始めに目障りなカピラ教団を叩き潰そうとしていたが、向こうが突然解散しちまったので戦は中止になった。おかげで死者が出すに済んだけど、どうしてなのかはまだわからん」

 イシャナは首を傾げていた。


「あの、それならあたい達が教祖マオの闇を祓ったからだよ」

 アキナが挙手して言う。

「え? それはいったい?」

 イシャナが尋ねる。

「えーと。キリカ、説明頼むよ」

「はいはい。では」

 キリカはマオとの一件を話した。




「なるほど。そういう理由だったのか」

 イシャナが顎に手をやりながら呟いた。

「兄さん。もしかしたらツーネ王も」

「そうかもしれん。あの方はそんな方ではない……だが」

「どんなに注進しても聞き入れて貰えなかったから、今こうして反旗を翻したんだろ」

「ああ、たとえ大恩ある方でも多くの民を苦しめるのなら、と思っていたが」


「おいイシャナ。ここはひとつ彼等にも助太刀願おうぜ」

 何で生きてるかわからん変態ロリコン野郎がイシャナに進言した。


「え? でも彼らを巻き込むのは」

「このままだと王国軍が北の大陸に攻め込むかもしれんぜ。だからそうなる前に手を打たねえと」

「え、それはどういう事ですか?」

 キリカが尋ねると

「北の大陸にはこの世界の神が住まうとされる神殿があるのは知ってるか?」

「え、ええ。私はその辺りから来たんです。でもなぜ王様が?」

「王はその神殿を手に入れるつもりらしいんだ」

「え、えええ!? 何故ですか!?」

 キリカが仰天して尋ねる。

「あそこは世界最古にして最大の聖地。もしそこを押さえられたら世界中の人々への影響が計り知れん。ひょっとしたら絶望する者も出てくるだろう。そうなったらさっき聞いた妖魔とやらがうじゃうじゃ出てきて、世界が」


「あ、まともな事も言えるんだ」

 タケルが感心したように言うと

「おい、俺はこれでも軍師だぞ。ってまあそれは置いといて、その妖魔は聞く限り俺達じゃ倒せそうもない。だからあんたらに加勢してほしいんだよ」

「いいよ。なあ皆?」

 タケルが尋ねると全員が頷いた。


「おお、恩に着るぜ。じゃあイシャナ、皆には別室で休んでもらうとするか」

「そうだな。ディアル、皆を案内してやってくれ」

 タケル達はディアルに連れられて会議室から出て行った。


「行ったな。さてとイシャナ、お前って普段は感情豊かだけど、隠す時はちゃんと隠すんだな」

「……ああ。一応司令官やってるからな」

 イシャナは眉を顰めて答えた。

「そうだよな。しかしあのイーセって奴。俺達が知ってるあいつにそっくりだな」

 ソウリュウが口元をニヤりとさせた。

「そうだな。俺、内心では驚いてたぞ。一瞬本人が生き返って来たのかと思ったぞ」

「俺もだぜ。名前まで同じって、そんな事もあるんだな……ん、待てよ? もしかして」

「何かわかったのか?」

「いやすまん。なんでもねえよ」


(何か理由があるんだろな。まあそのうち聞いてやるさ)

 ソウリュウは心の中で呟いた。

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