第10話「命を賭して実らせた黄金の稲穂」

 魔物を倒し、ガッツポーズを取っていたアキナだったが、

「う……」

 突然その場に崩れ落ちた。


「あ、アキナ!?」

 タケルとキリカが駆け寄った。

「う、うう」

「どうした!?」

 タケルがアキナの肩を揺すって尋ねた。

「聖闘気ってそう簡単に使えるものじゃないはずよ。だから体に負担が?」


 グ~~~キュルルルル


「はえ?」

「腹、減った」


 ズコオオッ!

 タケルとキリカは盛大にズッコケた。

「な、なんだそれだけかよ」

「あ、あなたねえ、どれだけ燃費悪いのよ」


 その時魔物から黒い霧が立ち込め、それはやがて人の形となった。

「な、まさか!?」

「妖魔……あいつに憑いていたのね」


 キリカがそう言うと妖魔が話しだした。  

「そうだ、こいつの欲望は極上だったからな。おかげでかなりパワーが溜まったぞ。では死んでもらうと」

「そうは行くか! くらいやがれ!」

「ギャアアアアーーー!?」

 妖魔はタケルにあっさりぶった斬られた。


「な、何故? 俺はパワーアップしている筈だぞ?」

「いや気づけよ。お前はアキナの聖闘気で既にやられていたんだよ。今いるお前はただの残りカスだ」

「そ、そんな……グフッ!」

 妖魔は消滅した。


「ぐ……」

 そして魔物が起き上がった。

「な、まだやるか?」

「待ってタケル。そいつにもう魔の気は無いわ」


「ワ、ワシはいったい?」

 魔物は戸惑いながら辺りを見渡した。

「え、あんた自分がやった事覚えてないのか?」

 タケルが尋ねると、

「……いや、思い出してきた。ワシは何という事を、う、うおおーー!」

 魔物はその場で泣き叫んだ。



 しばらくして、泣き止んだ魔物がポツポツと話しだした。

「……ワシはただ美味いものが食いたいだけだった。ワシも貧しい家に生まれ、ロクな物が食えんかったからな。だがいつしか欲望のままに、ううう」

「妖魔は欲望を糧にするもの。キツイ事言うけど、それはあなた自身が呼び寄せたものでもあるのよ」

 キリカが魔物に言う。

「そうか。ああ、ワシはどうすればいいのだ?」

 魔物が頭を抱えて悩んでいると


「それならさ、これやるよ」

 アキナがそう言って渡した物は、

「それは種もみではないか?」

「そうだよ。ここに来る前に買っといたんだ」

「それをどうしろと?」

「これを育てて収穫すればいいじゃん。そして皆に食べてもらいなよ。そうすれば」

「そうすれば許されるとでも? いくらなんでも許されるはずがない……いや、待てよ?」

「ん、どうしたんだ?」

「……すまぬがお前達からも話してくれんか。ワシだけでは話を聞いてくれんかもしれんからな」

 魔物はそう言って頭を下げた。

「ああ。いいぜ」 




 そしてタケル達は魔物と共に村人達の所へ戻った。

「すまなかった。許してもらえるとは思わないが、詫びさせてくれ」

 魔物はその場で土下座して謝罪した。


 すると村長が魔物に言った。

「この村にはもう食べ物はあまり残っていない。それを何とか出来るか?」

「だからさ~、この種もみを使えば」

 アキナがそう言ったが

「それだけでは大した量は取れんぞ。それに稲を作るにはどれほどの時がいると思うのじゃ?」

「う、そうだった。どうしよ?」


 すると魔物がアキナの方を見て言った。

「それなら心配ない。おい、それをワシに」

「え? ああ」

 魔物はアキナから種もみを受け取り、近くの田んぼに向かって勢い良く巻いた後、何やら呪文を唱え始めた。

 すると……。


「おおっ!?」

「えええ!?」

 あっという間に辺り一面が黄金の稲穂で覆われた。


「こ、これだけあれば安泰だ!」

「ああ、俺達は助かったんだ!」

 村人達は皆喜びを分かち合っていた


「……これが、せめてもの」

 魔物はそう言った後、その場に倒れた。


「え、ちょっとあんた!? キリカ、回復呪文を!」

「ええ! ……あ」

 キリカは魔物を見て青ざめる。

「どうしたんだよ!?」

「駄目。この人、生命エネルギーが残ってない」

「え、それじゃ?」

 キリカは無言で首を横に振った。

「そ、そんな!? なんとかならないのかよ!?」

「無理よ。あれは『時の秘法』と言って、時を早めたり戻したり出来るものだけど、特定の者以外が使うと命が削られ、最悪の場合」

「え? なああんた、それ知っててやったのか!?」

 アキナは魔物に尋ねた。

「し、承知の上だ……」

 魔物は息も絶え絶えで答えた。

「な、何でそんな事するんだよ!?」

「これがワシにできるせめてもの詫びだから、だ」

「でもさあ!」

「いいのだ、これで……そうだ、お前達に言わなけばならぬ事がある」

「え、何だよ?」

「この世界を覆う闇を出している者、それがあの妖魔とかいう奴等の総大将だ」

「えっ!?」

「何だってえ!?」

 アキナとタケルが驚きの声を上げた。

「やはりそうなのね。それで、そいつってどんな奴?」

 キリカが尋ねた。

「そこまでは分からん。ワシに憑いていた奴が、お前らを其奴の元へ連れて行こうとしていたが、それも何処なのかは」

「いやいいよ。それだけでも充分だ」

 タケルがそう言うと

「そうか、役に立てたか……ふふ、もう時間のようだ」

「お、おい!?」

「……もしまた生まれ変われたなら、今度はお前達が創った平和な世界で、皆と腹いっぱい美味いも、の、を」

 そう言って魔物は事切れた。


「ああ、俺達がやってやるさ」

「あたいもな。皆腹いっぱいにしてやるぜ」

 タケル達は目を瞑って祈った。


「……この魔物もまた闇の犠牲者だったのかものう」

 村長は魔物を見つめ、そっと手を合わせた。




 そして翌朝、タケル達は村人達に見送られながら村を出た。

「もう大丈夫ね、あの村は」

「そうだな。さ、行くか」

「ああ。港町までもうひと息だぜ」



 風もないのに稲穂が揺れていた。

 まるで彼等を見つめ、手を振るかのように……。



――――――



「フフフ。神剣士と聖巫女か。まあせいぜい足掻くがいい」


 何処かわからぬ場所で誰かが呟いた。

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