第9話「皆でお腹いっぱい食べるのが一番いい。独り占めなんてゴメンだ」
タケル達は牢に入れられた。
「ブヒブヒ、その牢には人間の攻撃は一切効かない結界を張ってあるブヒ。だから脱走しようとしても無駄だブヒ」
魔物は牢の外からキリカに話しかけた。
「ねえ、私達をどうするの?」
「ブヒブヒ。それは後のお楽しみだブヒ」
そして魔物はそこから去っていった。
「行ったわね。さて」
キリカは気を失ったままの二人を見つめた。
「えい」
キリカの掌が光り、それが二人を照らす。
「ふう。あ、サンキューキリカ」
「ありがと。でももっと早くやってくれよな」
二人が起き上がって言う。
「私が回復魔法使えるとこ見せたらヤバイかな、と思ったのよ」
「そうだったのか。ごめん」
タケルは頭を下げた。
「いえいえ。さ、この後はどうしましょ? あいつこの牢は人間には破れないって言ってたけど」
「やってみなきゃわかんねえだろ、はあっ!」
アキナはそう言って牢の壁に蹴りを入れたが
「な、弾かれた!」
「なら俺が、たああ!」
タケルも剣で壁を突いたが、やはり弾かれた。
「な、なんだよこれ!?」
「これは……そうだわ。特定の攻撃を跳ね返す特殊秘術もあるって兄ちゃんが言ってたわ」
キリカがボソッと呟いた。
「ちくしょ~、腹さえ減ってなければあれが出来るのに~!」
アキナが地団駄を踏む。
「は? 昼間あんだけの量食っててもうハラ減ったのか?」
「うん、あれ腹八分目だったし」
「そうか……って、どうしよ?」
「きゃああーーー!?」
「ど、どうした!?」
「ネ、ネ」
キリカが指さした方を見ると、小さなネズミがいた。
その側の壁にはネズミが通れるくらいの穴が開いている、
「あ、食べ物発見!」
アキナはそう言ってネズミを捕まえようとしたが
「待てアキナ、そいつ食うんじゃない!」
タケルが彼女を制した。
「なんでだよ!」
「まあ待ってなよ。なあネズミ、ちょっと」
タケルはネズミと何やら話していた。
「え? タケルってネズミ妖怪だったのか?」
「違うわよ。彼は動物と話せるそうよ」
「……それじゃ頼むわ。後でお礼するから」
「チュー!」
ネズミは穴に戻っていった。
「う~! あたいの晩御飯がー!」
「落ち着け。そのうちここから出られるから」
「え?」
「ねえ。あのネズミに何言ったの?」
「ん、それはな」
所変わって、ここは魔物の住処。
「ブヒブヒ。さてと、あいつらを連れて行けば、ワシは」
「ワシはって何だ?」
「誰だ!?」
魔物が叫んだ瞬間、扉が木っ端微塵になった。
そこにはタケル、キリカ、アキナがいた。
「お、お前らどうやって牢から出たブヒ!?」
魔物はそんなバカなと言わんばかりに驚いていた。
「ネズミ達に壁をかじってもらったんだよ。あの結界、ホントに人間にしか効かなかったようだからな」
チュー!
タケルの足元には何十匹ものネズミがいた。
「な、なんだと!? もしかしてネズミが人間を助けたブヒか?」
「ああ。お前が食い物独り占めするからこいつらも怒ってんだよ」
「そうだぜ、もぐもぐ」
アキナはフライドチキンを頬張っていた。
「あんた何してんのよ!?」
「腹ごしらえ。台所にあったんだよ」
「ブヒー! 勝手に人のもの食うなブヒー!」
「元は村の人達から奪ったもんだろ、いいじゃんか。もぐもぐもぐ」
「気が変わった、死ねブヒー!」
魔物はまたフライングボディアタックをしようとしたが、
「同じ手を何度も食らうか! はあっ!」
タケルは魔物に向かって剣を振り下ろす。
するとそこから衝撃波が現れ、魔物に直撃した。
「ブヒイーー!?」
その衝撃波に魔物は耐え切れず吹き飛ばされ、壁に激突した。
「お、おのれブヒ。だがこの程度では」
「たああー!」
「グエッ!?」
アキナが魔物の喉元にレッグラリアートを決めた。
「いくらなんでもそこならダメージ受けるだろ!」
「ぐ……」
魔物は喉を押さえて苦しそうにしている。
「よし、これでどうだ!」
タケルは剣から光竜の形をした気を放つ。
「ブヒイイイイイ!?」
それが魔物に直撃し、悲鳴をあげて倒れた。
「やったか?」
「ううん、まだみたいよ」
キリカが言った通り、魔物は立ち上がった。
「ブヒブヒ……ワシは死なん、まだ食べたことのない物がこの世には山ほど」
魔物はタケル達を睨みつけながら言った。
「お前なあ、世の中にゃ飢え死にしてる人もいるんだぞ。食えるだけありがたいと思えや」
タケルが魔物にそう言ったが
「ブヒー! ワシはいろんな物を腹いっぱい食いたいんだブヒー!」
魔物は頭に湯気を立てて怒鳴った。
「うーん、そうだな。あたいも美味いもんお腹いっぱい食べたいよ」
アキナは魔物の言葉に同意したふうに言う。
「おお? わかるかブヒ」
「でも皆でお腹いっぱい食べるのが一番いい。独り占めなんてゴメンだ」
「え、アキナ?」
タケルはアキナを見つめた。
――――――
あたいの生まれ故郷は貧しい村だった。
作物もロクに育たず、獲物もあんまり取れなかった。
だから男達が他所に出稼ぎに行って、なんとか皆を食べさせていたんだ。
でもあたいは大飯食らいだから、それでも足りなかった。
そんな時父ちゃんが言ったんだ。
「この世界を覆う闇さえなければ、お前に腹いっぱい食べさせてやれるのに」
って泣きながら……。
――――――
「だからあたいは旅に出る事にしたんだ。自分がもっと強くなってこの世界をなんとかする。そして皆でお腹いっぱいになるんだって」
アキナは魔物を見つめながら言った。
「そうか。だがそんな事は無理だブヒ」
「やってみないとわかんねえだろ」
「うるさい! 死ぬだヒー!」
魔物がアキナに向かっていく。
「ようし、とっておきの技を。はああ……」
アキナの体が光り輝き出した。
「え、まさかあれって!?」
「知ってるのか、キリカ!?」
「聞いた事あるの。自分の気を聖なる力に変えて身に纏い、魔を討つ。それは」
「それは?」
「聖なる闘気、『聖闘気』よ」
「猛虎烈光波!」
アキナの拳から虎の形をした気孔弾が放たれ、
「ブヒイイイイイーーーー!?」
魔物はそれを喰らって倒れた。
「どうだい!」
アキナはガッツポーズを取った。
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