第7話「記す事さえ憚られる」

 その後、一行は小さな町に辿り着いた。

 まだ日は高いが今日はここで宿を取ろうとなった。

 もう少し道具とか装備揃えた方がいい、とアキナが二人にアドバイスしたので買い物もしようとなったからである。


「なあキリカ。金あるの? 俺持ってないけど」

「大丈夫よ、これ持ってるから」

 キリカはそう言って懐から白金のカードを取り出した。

「これはプラチナカードと言ってね、これを見せれば後で一括払いにできるの」

「あ、それじいちゃんに聞いた事ある。超大金持ちしか持てない奴だろ?」

「え、じゃあキリカって大金持ちのお嬢さんなのか!?」

 アキナが二人の間に割って入った。

「うーんまあ、お金に関してはチートかな?」

 キリカは少し言い淀んだ。

「凄え! じゃあいっぱい食べても大丈夫か!?」

「大丈夫だけど少しは遠慮してよね」

「わかった!」

 アキナはどんと胸を叩いて言った。

「じゃあ先に買い物して、その後でごはんにしましょ」


 そしてタケル達はしばらく歩いた後で見つけた武器防具屋に入り、店内に並べられている武器などを見ていた。

「えーと、タケルって今もいい剣持ってるな」

 アキナがそう言った。

「ああ。この剣はじいちゃんから貰ったものなんだ。先祖代々伝わる名刀だって」

 タケルの剣は片刃で柄には組紐を巻いているものだった。

「それならこの先も武器は要らないかもな。だから防具を買ったら?」 

「うーん、でも俺、鎧は着たくないよ」

「あれ? タケルって鎧着たことあるの?」

 キリカが尋ねる。

「ああ。去年麓の村で成人の儀式した時に」

 この世界では十五歳で成人となる。

「かっこいいんだけど重くてさ。あんなの着て戦えないよ」

「うーん、軽くて丈夫な鎧だってあるはずよ」

 するとカウンターから四十代位で髭を生やした店主が声をかけてきた。

「すみません。うちにはそんな良い物置いてませんよ」

「あ、そうなんですね、ごめんなさい」

 キリカは即座に謝った。

「いえいえ。大陸へ行けばあるでしょうけどこの島じゃねえ。今の御時世じゃ仕入れも難しいし。まあ、軽くて防御力が高いものなら、この鎖帷子などどうです?」

 タケルはその鎖帷子を試着した後、体に馴染むと言って即決した。

 

 その後一行は道具屋で薬草や毒消し、保存食や他に必要な物を買った。

 それは結構な量になった。

「てかこんなに持ってけねえだろ?」

「大丈夫よ。はい」

 キリカはタケルとアキナに小さな腰袋を渡した。

「何これ?」

「これは『魔法の袋』と言ってたくさんの荷物を仕舞っておけるアイテムよ」

「え、マジで?」

「疑うなら試してみなさい」

「ああ」


 そして

「凄え! ホントに全部入った!」

 タケルは袋の中を覗き込んではしゃいでいた。

「これ高くて買えなかったんだよな~。サンキュー、キリカ」

 アキナはニコニコ顔で礼を言った。

「え、高いってどのくらい?」

 タケルが尋ねると

「その鎖帷子百着分かな」

 それは一般市民の半年分の収入に値する。

「げ、マジ?」

「マジよ。だって作れる人が少ないもん。だから雑に扱わないでね」

「だ、大事にします」

 タケルは冷や汗ダラダラでそう言った。


 そして宿屋にある食堂で夕食にする事にした。


「ごちそうさま~、あ~美味かった~」

 アキナは腹をさすりながら言った。

「ホントによく食べるな」

 タケルは呆れながら言った。

「これでも加減したぜ」

「それでかよ!」

 タケルが指さした先、テーブルの上には皿や丼が山積みになっていた。


「し、しかしタケルの家で初めて食べたけど、ホントお米って美味しいわね」

 キリカはやや強引に話を変えた。

「うん。あたいもこの島に来て初めて食べたぜ。パンもいいけどこれ美味いよな」

 アキナもそう言った。

「そうなのか? 米って何処にでもあると思ってた」

「ないわよ。大陸に行けば逆にタケルの知らない食べ物もあるわよ」

「そっか。やっぱ世界って広いんだな」

「ええ。さ、もう部屋に戻りましょ」

 キリカがそう言うとアキナが

「あ、キリカ。ここ大浴場あるみたいだから後で一緒に行こうぜ」

「そうなの? うん、行きましょ」

「じゃあ今日はここで解散にする?」

 タケルが女子二人に言った。

「そうね。じゃ明日の朝食堂に集合、って事で」

「ああ、おやすみ」


 タケルは部屋に戻り、しばらくベッドで横になっていたが

「俺も風呂行こうっと」

 そう言って部屋を出た。




「ふう、村にもこういうのあったけど、ここはもっと広いんだな」

 大浴場は露天風呂だった。

 タケルはゆっくりと湯に浸かりながら疲れを癒していた。

「ああ、いい湯だな……あれ?」

 ふと女湯との境目にある壁を見ると、そこに小さな穴が開いていた。

「これはもしかして。うん、覗こう」

 この男は躊躇う事なくそうした。ドスケベなのか好奇心旺盛なのか。


「お、ちょうどキリカとアキナが入ってる」

 二人は壁の方に向いて湯に浸かっていた。

「うーん、よく見えないな。あ、そうだ」

 タケルはその穴に手をかざし、気を集中した。すると

「よし、あの地図みたいに拡大して見えるように、ってイメージしたらできた」

 どーやらその穴はタケルの神力で望遠鏡みたくなったようだ。

 って何しとんじゃおめーは。


「へえ、アキナって自分で言ってた通り少しはあるな。キリカは前に見た通りだな……下が見えないな、もうちょっと気を」

 タケルが再び穴に手をかざすと


 ピシ

「へ?」

 壁に亀裂が走り、音を立てて崩れて穴が大きく開いた。

 そしてキリカやアキナと目があった。


「やばい、逃げよう」

 タケルは回れ右したが


 ガシッ

「逃すわけないでしょ(#^ω^)」

「そうだぜ~(#^ω^)」

 いつの間にか二人がタケルのすぐ側まで来ていて、彼の肩をがっちりと掴んでいた。

「あ、あのギャアアアア!」


 その後タケルがどうなったかは、記す事さえ憚られる。

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