第6話「ちっぱい少女が熊を素手で倒して食っちゃった」

 タケルとキリカは深い森の中を歩いていた。

 魔物の気配は感じないが、動物はいるようだ。


「なあ。港町って何処にあるの?」

「え、タケルが知ってるんじゃないの? 先に歩いてたんだし」

「知らんわ。俺は麓の村以外行ったことないんだし」

「だったら言いなさいよ! 私も知らないわよ!」

「そうなのかよ。ん~、そうだ。最高神様に聞いてみたら?」

「そんな事でいちいち神託できるか!」

 二人が言い争っていたその時


 ガサッ

 

「ん?」

 木の影から身の丈五メートルはありそうな巨大熊が現れた。


「な、なんか涎垂らしてるわね、ってあれ?」

 キリカは熊に違和感を覚えた。


 それに気づかないタケルがその熊に近づく。

「ねえあんた、港町ってどっち?」

「あ、待って!」


 グオオオオオー!


 熊は二人に襲いかかってきた。

「うわあああ!? つ、通じない!」

「その熊は妖魔に憑かれてるって言おうとしたのにー!」

「だったら早く言え! って何!?」

 

 熊はあり得んくらいの高さに飛び上がったかと思うと、前足の爪を突き立て横回転しながらタケル目掛けて落ちてきた。


「待てー!? あ、あれってス◯リュードライバーだろー!?」 

「きゃあああーーー!? よ、避けてタケルーー!」


 その時何処からともなく小さな影が現れ

「でりゃああー!」


 ドゴオッ!


「え?」

 熊は近くにあった岩に叩きつけられていた。



「なあ、大丈夫だったか?」

 そこにいたのは黄緑色の武闘着に身を包んだ少女だった。

 髪を三つ編みにし、背が小さくて顔つきも幼く見える。

「えと、あれってあなたがやったの?」

 キリカは少女に尋ねる。

「そうだよ。あたいはアキナ。武闘家さ」

 少女、アキナが名乗った。

「あんな大きな熊を一撃で。こんなちっちゃい子が」

 タケルがそう言うと

「子供扱いすんな! あたいはこれでも十五歳だ!」

「嘘!? つるぺたなのに!?」

 ズドオ!

「グフッ!」

「つるぺたじゃねえ! 少しはある!」

 顔を真っ赤にしたアキナはタケルの腹に一撃を喰らわせた。

「だ……ぐ、あ?」

 タケルは蹲ったまま熊の方を見た。すると


「グ、ガ」

 熊から黒い霧が吹きだしたが、それはすぐに消えた。


「え、今のって何だよ!?」

 アキナが驚きながら言うとキリカが

「あれは妖魔というものよ。熊に憑りついていた……でも彼はもう」

 熊は既に事切れていた。

「あれ? あたいそこまで力入れてなかったけど?」

「いえ、この熊はおそらく妖魔に憑かれた時に」

「そ、そうか……」

 アキナは俯きがちになった。 

「これはあなたのせいじゃないわよ。だから気にしないで」

 キリカはアキナが落ち込んでいると思って慰めた。

「うん、よし」

 顔をあげたアキナが腕まくりして熊に近づいていく。

「あ、墓を作るなら手伝うよ」

 タケルがそう言ったが

「いや、その前にこいつを食うよ」


 ……。


「えと、食うってそいつを?」

 タケルがおそるおそる尋ねた。

「ん? そうだよ。食物連鎖って奴だよ」

「それ何か違うような」

「ねえ、もしかしてさっきのは落ち込んでたんじゃなくて」

 今度はキリカが尋ねた。

「え、ああ。こいつどうやって食おうか考えてたんだ」

「そうだったのね。心配して損した」

「あ、一緒に食べる?」


「俺はいいよ」

「私もいらない」

 アキナが尋ねるが、二人とも首を横に振った。

「いいの? じゃ、あたい一人で」

 アキナはあっという間に素手で熊をバラし、火を起こして肉を焼いた。


 そして

「ふう~、食った食った。ご馳走様~」

 アキナがその場に寝っ転がって腹をさすっている。

 側には熊の骨が。

「あれだけの量をよく食えたな。てかそんなちっこい体の何処に入るんだよ?」

 タケルが呆れながら言うが

「ちっこいは余計だよ。まあ、食える時に食べとかないとな。またいつ食えるかわかんないし」

「そんなもんなのか?」

「うん。あたいの生まれ故郷は作物が育ちにくくってさ。いっつも腹ペコだったもん」

「あの、もしかしてアキナって故郷から追い出された?」 

「ん? 違うよ、修行旅の途中だよ。って、二人共何処へ行く気だったんだ?」

 アキナが言う。


「ああ、俺達は港町へ行こうとしてたんだけどさ。どっち行っていいのか」

「あたい知ってるぜ。なんなら一緒に行くか?」

「え、いいのか?」

「うん。あんたらに会ったのも何かの縁だし。どう?」

 

「どうする?」

「タケルがいいなら私もいいわよ」

「そうか。じゃあアキナ。よろしくな」

「ああ!」

 アキナは二人にそれぞれ握手した。



「さてと、じゃあ今いる場所を確認しようか」

 アキナは自分のリュックサックから地図を取り出し、

「今はこの辺りだよ」

 アキナはそう言って地図の右端、竜のような形をした場所を指さした。

「へえ、そこなのか」

「あのねえ、それ世界地図だから大雑把にしかわからないわよ」

 キリカがやや呆れながら言うと

「あ、心配ないぜ。えーと」

 アキナは指さした所をちょんちょんと指でつついた。

 するとその部分が紙いっぱいに拡大し、細かい地図となった。

 イメージとしてはタ◯レットでグー◯ルマップ見てるようなものか。

「え、何これすげえ!」

 タケルが目をキラキラ輝かせていた。

「こ、これってもしかして世界に一つしかないという伝説の魔法の地図!? あなたいったいどこでこれ手に入れたのよ!」

 キリカがそれを指して聞いた。

「旅の途中で偶然見つけたんだよ。とある森林の祠の中にあったぜ」

「へ、へえ。というかよく使い方がわかったわね」

「取扱説明書も一緒にあったぜ」

「何て親切な伝説のアイテムよ」

「まあいいじゃん。えっと今はここだから、西へ七日位かな。じゃあ行こうぜ」


 こうして二人はアキナに連れられ、先へと進んだ。

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