第18話

【モノクロ写真・12枚目】


白い大きな建物が、爆発して吹っ飛んでいる。

それは写真の枠から、炎とその建物の破片が飛び出してきそうな勢いだ。


杉本健作氏は、手紙にこう書いている。


「1945年8月14日のことを、これから書きます。


 この日、731部隊の施設建物が大量の爆薬によって破壊されました。

 当時は分かりませんでしたが、おそらく終戦間近との知らせを受けて、

 731部隊の存在とその悪魔の所業を、証拠隠滅するための爆破だったのでは

 ないかと思います。


 このとき、中にはまだ40~50人、丸太(マルタ)の人たちが生存していました。

 彼らは狭い部屋にぎゅうぎゅうに押し込まれ、青酸ガスを噴射して殺害された

 と聞きました。


 銃で脅して、2人を互いに向かい合わせ、その首にロープを巻きつけ、

 その中央に木刀を差し込んで、2人にねじらせて殺したというのも、

 上官から聞きました。


 見習いの私の仕事は、いつものごとく、死体処理でした。


 死んだ彼らの足を引っ張って、7棟横にあった大きな穴の中に、次々と死体を

 放り込み、ガソリンと重油をかけて、火をつけました。

    

 施設の焼却炉は、生首の標本や細菌培養用の寒天入りシャーレ、膨大な書類や

 器具でいっぱいでした。

 すべては生焼けで、奇妙なごちゃまぜの臭いを放っていました。


 大量に折り重なった死体はなかなか燃え尽きなくて、一度は土をかけて

 埋めましたが、埋めきれなくて土の中から草花のように、にょっきり

 手足が突き出ていました。


 その後、部隊幹部から

 『もう一度死体をすべて掘り出して、完全に焼け』

 と命令があり、生焼けで硬直した死体を掘り出して、私たちは吐きながら

 焼きました。


 またこの日の夜、上官の命令で、1棟2階の「陳列室」にあったガラス瓶に

 入った生首、腕、胴体、脚部、各種内臓の計1000個ほど保存されていた

 ホルマリン標本を、トラックに積んで、近くを流れる松花江という川に

 投げ捨てにいきました。


 濁った川を流れてゆく無数のガラス瓶の標本を見て、


 「生首と臓器の、桃太郎だな」


 と上官の誰かが、笑いながら言ったのを覚えています。


 施設に爆弾を仕掛けたのは誰なのか知りません。

 爆破を得意とする特別班員の人たちだと思いますが、はっきりとは

 わかりません。


 14日の18時30分。

 爆薬の起爆スイッチが押され、爆破音が轟く中を列車に乗り込み、私たちは

 満州を後にしました。」

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