残念。巻き込みです
あても無く、ただ森の中を彷徨うアイム。なんか凄いという事を証明するらしいが、この場所は精霊の森と呼ばれ、人だって入ってこない平穏な森だ。そんな場所で何をするのだろう。
「うーん。わたくしがどんなに凄くても、証明できるものがないとどうにもなりませんわ」
何にも考えていなかった。どうやら、その場のノリで動いているだけのようだ。本当に凄いのかは疑問だが、何も考えていないと言うのは計画性が無さ過ぎる。
「あら、精霊ですね。何を考えているのですか?」
森の中を彷徨っていたアイムの前に現れたのは、一人の女性。ただし、腕であるべき部分が鉄塊のようになっていて。とても重量感がある。
「確か、ディレイプレッシャーですわよね?」
「はい。私は3番目に作られた混沌の従者。圧縮機のディレイプレッシャーですよ」
秩序と相対する存在。混沌側の一人、ディレイプレッシャー。彼女は相対する存在であるアイムを目の前にしても、特に動じてはいないようだ。
「ここは精霊の森、貴方の来るような所ではありませんわ!」
「そんなこと言わないで欲しいわね。私だって好きでこんな所に来てないのよ」
ディレイプレッシャーは困ったような表情をしている。混沌の管理者であるレアルはかなりキマグレな所があるらしく、従者を困らせているという話は秩序側にも伝わっている。とはいえ、混沌の起こす騒動を止めないといけないので、なんにしても迷惑なことこの上ないのだ。
「まぁ、いいですわ。これでわたくしの実力を示すことができますわ!」
ディレイプレッシャーにビシッと指を向けるアイム。その風貌には自信が満ち溢れているのを感じるが、それは根拠の無いものでしかないのだ。
「いえ、別に。私は貴女と戦いに来たわけでは無いんですけど」
「問答無用ですわ!」
アイムは水を操ってディレイプレッシャーに浴びせるが。その攻撃すべてを鉄塊のような腕で防いでいる。全く余裕そうな表情である。
「そろそろやめましょう?」
「これが、わたくしの強さですわ!」
「その。不毛過ぎませんか?」
アイムの操る水はすべて叩き落され、それでも何度も何度も水を操る。だけれど、全部叩き落される。ディレイプレッシャーが不機嫌そうなのは、疲れたわけでは無くて。単純に飽きただけなのだ。ただ、アイムはそれに気が付く素振りはない、アホと思われる。
「ふふん! わたくしが本気を出せば凄いのですわ!」
「えぇ……。はい。凄いですね」
ドン引きである。ディレイプレッシャーは顔を引き攣らせている。それに気がつかないアイムは腰に手を当ててドヤ顔である。頭の中が平和なようだ。
「所で、何しに来たんですか?」
「……。観光ですよ」
「あら。わたくし、てっきり何か企んでるのかと思ってましたわ」
今更過ぎる質問と、明らかに嘘な答えと、それにあっさり騙される。手を組んでうんうんと頷くアイム。何を納得したのかわからないが。何かを納得したらしい。
「そろそろ行っても良いですか?」
「別に良いですわよ。何か悪いことをしたらわたくしが懲らしめますから、その辺は注意するのですわ!」
ディレイプレッシャーが、あ、良いんだ。とボソッと言っていたがアイムの耳には届かない。なんかやるせない気持ちを隠し切れない様子だが、アイムの相手をしてても良いことはないと判断したようだ。その場から立ち去ろうと、したとき。
「大丈夫かアイム! アタシが来たから安心しな!」
創る法則の精霊。グラビが凄いスピードで飛んできた。唐突に乱入してきたこの精霊に対して、二人は驚きで唖然としている。
「えっと、何か用ですか?」
「誰かと思いきや。ディレイプレッシャーかよ! アタシの力をパクリやがって、今日こそ決着つけてやるよ!」
「えと、どういうことですの?」
なんだかよくわからないが、蚊帳の外に追いやられたようなアイム。二人のやり取りを呆然と見ていることしか出来ないようだ。
「えぇ、私はそのように設計されて創られたんですから、そんなこと言われても私自身にはどうすることも出来ませんよ」
「何にしたって、どうせレアルの陰謀で来てるんだろ? それなら止めない訳に行かないな!」
グラビが腕を振るうと、黒い球体。重力球がいくつも出現して飛び散った。そして、いろんな方向からディレイプレッシャーを追尾するが、回避したり、場合によっては打ち返したりと、何とかさばいている。だが、一人さばききれない存在。アイムである。
「なんでですの!?」
重力球の中に閉じ込められて、身動きの出来ないアイム。ついでにかなり強い力で圧縮されている。呼吸も要らないし、身体にあまり依存していない精霊だからこそ無事なのだが、普通の人なら惨事になっている。
とはいえアイムも精霊。こういった自然に引き起こされる現象には干渉することができる。重力を解除して、この球体から脱出する。
「やれやれ、酷い目にあいましたわ」
額に腕を当てて、頑張ったような様子のアイム。だが、この余裕が引き起こすのは。周りへの注意の欠如である。
「グラビ、そろそろ大人しくしてください。私が抱いてあげますから」
腕を広げたディレイプレッシャーはグラビへと向かう。だが、その間には重力球から解放されて満足げなアイム。もちろん気が付いていない。そして、ディレイプレッシャーに抱き締められる。
「え、なんですの!?」
「あ、間違えた」
ディレイプレッシャーに抱き締められたアイムは圧縮されどんどん小さくなっていく。液体となって逃げようとしているのだが、上手くいかない。そして、解放されたころには、手のひらに乗りそうなほど小さくなっていた。
「次はわたくしが本気で相手してあげますわ! 覚えてなさい!!」
小さなアイムはその場から全力で逃げた。なんか、どっかの悪役のような捨て台詞を吐いて。
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