素人マエストロ!
海街真衣
第1話
俺は立花一義。高校教師やってる。
俺が勤務している海山高校は、部活がとにかく弱い。皆真面目にやっているんだけどね。
そんな中、強い部活もある。
吹奏楽部だ。夏にあるコンクールで、全国大会常連なのに、去年は関東大会で歩みを止めた。
その上、今まで指導していた顧問も移動になっちまった。
(ま、俺には関係ないけど。)
そんなことを考えながら、職員室でクラス担任、部活顧問の伝達を聞いていた。
お、俺の番だ。
「えー、立花先生には、吹奏楽部顧問をお願いします。クラス担任は持って頂きません。」
(…は?)
衝撃的過ぎて、その日ずっとその事を考えていた。
そして放課後。部活の時間だ。
さすがに全国常連校。部員が集まるのも早い。
(はぁー…何すりゃいーんだよ…)
ざわざわ…
(ん?なんか話してるな…)
「なんで沢本先生移動なの!?マジありえない!!!」
「まぁ…紗奈、落ち着いて…」
「はぁ!?なんで祐也は落ち着いてられんの!?ほんと有り得ない!ダメ部長!」
「う…」
(おぉ…早速ケンカか…)
沢本先生は、よっぽど部員にとって大切な存在だったらしい。
(よし…とりあえず挨拶しなきゃ…)
ガチャ…
部員総勢53人の、冷たい視線が俺にささる…
(こんな状況でノコノコ挨拶って、いわゆるKYってやつか?)
「立花先生!?何をしてるんですか!?」
驚いた顔でこちらを見ているイケメンは、部長の速水祐也君だ。物腰穏やかな好青年。
職員室でも大人気だ。
「あ…今日から吹奏楽部の顧問になって、その挨拶を…」
「はぁっ!?なんも吹奏楽のこと分かってないあんたがぁ!?」
「やめろって紗奈…」
この口の悪い女子が副部長、福田紗奈。職員室でも成績優秀だが、素行不良で有名だ。
(こりゃケンカもするよな…)
福田さんを初め、大多数の部員は俺に対する信頼度は0だ。
でも仕事だから、しょうがない。
「まぁ…これからよろしく。」
シーーーン……
「…じゃ、後は任せた…」
「あっ…先生!」
速水君の声を背に、俺は早足で職員室へ逃げた。
(はぁ…一体どうすれば…)
……
(あっ悩んでたら寝てた…)
時間は夜8時。
(あーあ…こりゃ明日、学年主任に怒られる…)
急いで帰り支度をしていた時、
コンコン
俺はビビってドアの方を見た。
(…幽霊!?)
恐る恐る開けてみたら、そこには速水君がいた。
ホッとした俺は、ついついため息をついてしまった。
「すみません。夜分遅くに。」
「いや…それはいいんだけど、よくここにいるって分かったね?」
「立花先生は残業大魔王って、いろんな先生から聞かされていますから。」
笑顔の速水君とは裏腹に、俺の心はもやもやする…
俺のもやもやを悟ったのか、誤魔化すかのように、速水君は目的を語り始めた。
「実は相談が…これからのことに関してで…」
「あぁ…うん。分かった。」
俺は近くのファミレスに寄って、話を聞くことにした。
席につき、速水君は深刻な顔つきで話し始めた。
「先生。今日は4月8日です。海山高校は毎回地域のイベントで、4月11日に本番があるんです。」
「え…??」
ざわめく俺の心中とは打って変わって、月の光に照らされた桜が、静かに揺れていた。
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