1日目 第3試合 後編

ジャックはユキナに向かって斬撃を繰り出す。原因は分からないが、今の彼女は調子が悪い。上手くやればいけるはずだ。


そう思ったが……──。


なんとか持ち直され、すんでのところで避けられてしまった。

「くぅっ……!!」

ジャックは歯を食いしばる。ダメージはないとはいえ、ずっと動き続けた上に攻撃が当たらないのだ。彼にもそろそろ、精神的な余裕が無い。自分が不死身アンデッドである事も、ふとした時に忘れてしまっている。


ジャックはユキナの攻撃を受けつつ、胸を押さえて落ち着こうとした。1発1発が重い。剣で刺された程度で死んでしまった過去の自分なら、形も残らなかっただろう。


「酷いものだな、これは。」

「戦いの最中にブツブツ喋ってていいの、紳士様ムッシュー?」

「バカにしちゃいかんよ、お嬢さんヤングレディー!」


ジャックは大きく右に飛び出す。だが、それに反応できないユキナではない。彼女はジャックの動きを遮るように蹴りを繰り出した。ジャックは大きくジャンプしてかわすと、会場のあちこちに散らばる瓦礫の上を跳びながら動き始めた。


「奴め……。正面からでは通用しないか。背後からでもなのだろうが。」

切羽詰まったジャックは独り言が増える。瓦礫の上でしゃがみ込み、ユキナの出方を伺う。ユキナはあいも変わらず、不調なようだ。ならば、手は一つ。


「悪いな、やはり負けられないようだ。」

ジャックは不敵な笑みを浮かべながら、ユキナに向かって高らかに語る。

「あら、急にどうしたの?今まで碌に攻撃出来てないのに。」

「正直な事を言うとな……。」


ジャックの顔が険しくなる。

「1人の人間を愛し抜いている上に、そんな力まで得て……。そんなに楽しそうな顔をして……。大変、嬉しいよ。」

ジャックは全く嬉しくなさそうだ。剣を構えて反対側の瓦礫へ移る。



──そして。


瓦礫から飛び降りたかと思うと、ユキナに向かって駆け出す。

「無駄よ!私を殺せるのは、ミーリだけ!貴方に私は倒せないわ!」

ユキナの姿が微妙に歪む。

「そのようだ……。」

ジャックは剣を振りかざす。ユキナは軽く避ける予備動作をする。


すると、妙な事が起きた。


ジャックの左手には、ついさっきまでなかった、ランタンと毛布が握られていた。

「何!?」

ジャックは突然急停止し、左に身を返す。


ユキナの背後から、とてつもない勢いで何かが近づく。


──ジャックが先程上に立っていた、瓦礫だ。ジャックが自分の持ち物にかけていた「ミスティ・カジェルディ」を、瓦礫にかけたのだ。



不意をつかれたユキナの背中に、瓦礫が直撃する。今までで1番重い一撃だ。少なくともジャックはそう思っていた。


攻撃を受けたユキナはその場へバタリと倒れる。そこが弱点になっていたようだ。知らなかったジャックは動揺するが、すぐに気を持ち直す。



──その時だった。


どこからか、目のない犬が(妙に禍々しい)現れた。そして気を失い、半ば消えかかったユキナを咥えると、そのまま彼女を引きずってどこかへと去ってしまった。


「え?」

試合は相手の離脱により、ジャックに軍配が上がった。……ジャックにとっては、やはり拍子抜けだ。



「実際にこの場にいた訳ではなかったか……。」


ジャックは戸惑いつつも、会場を後にする。彼は声にならない声で呟いた。


「エリザベス。あの位の愛が、必要だったか……?」

今は彼女の幸せを、ただただ祈ろう。

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