花のように散る
彼女は花が好きだった。僕と会う度に花を持って来る。毎回彼女は花を見せびらし、僕にあげるのだ。どうしてくれるのか分からない。何の花なのかも分からない時もある。
瞳を閉じて思い出に浸かる。聞こえてくる音はまるで本物のようだった。
「じゃーん」
あの日も小さな花束を持ってきた。中には小さく白い花が顔を出している。
「また、花? 部屋の中が花だらけになっちゃうよ……」
苦笑いしながら受け取ると彼女は頬を膨らませ、「いいのー!」と少し拗ねてしまった。
「今度は何の花?」
「秘密でーす! あ、他にもあるよ!」
と彼女は言いながら鞄から黄色い花を出す。
「チューリップ?」
花壇などでよく見られる花に僕は首を傾げながら聞く。チューリップも受け取ると彼女は満面の笑みを浮かべた。
広々とした公園。一つのベンチに並んで座る。少し冷たい風が舞い込み、彼女は咳き込んだ。「大丈夫?」と聞けば彼女は頷いた。
息を吸い彼女は意を決したように口を開いた。
「私ね、もうすぐ引越しするんだ」
「……え!? どこに?」
「遠い所なんだ。多分戻ってこないと思う」
「……そっか」
あの日僕はまた会えるだろうと思っていた。帰ってこなくても時間さえあれば会えると。
もう彼女とは会えない。最後に会った彼女の顔を懸命に思い出しては閉じた瞳から涙が零れる。
今朝、届いた手紙。何度も読み返して、脳裏に刻む。まるで呪いの言葉のように。封筒に小さな紙切れが入っていた。丁寧な字で花の名前が書かれていた。
あの時貰った花の名前。彼女は覚悟していた。もう会えないことを。ネットでリナリアと黄色いチューリップの花言葉を調べて確信した。
「……一度でいいから、会いたい」
涙を流しながら画面の向こうで笑っている彼女を見て呟いた。
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