第43話 担々麺
暦の上では春になったばかりだがまだまだ寒い時期が続く王都を、2人の兵士が見回りをしていた。
「久しぶりに麺料理が食いたいな」
「そういえば俺も最近食ってなかったな。今日の飯は麺類にしようぜ」
そう言って巡回路上にあるお目当ての店にたどり着く。チリンチリンと鈴の音を鳴らして、2人は光食堂の客となった。
「いらっしゃいませ。ご注文はいかがしますか?」
「とりあえず俺とコイツにメニューを見せてくれ」
「はいかしこまりました。すぐ持ってきますのでおかけになってお待ちください」
そう言って光は厨房の奥に引っ込む。それを見て2人はイスに座った。
「やっぱり冬場は屋内に限るな。この時期は屋台でメシを食うにも寒いからなぁ」
店の中は寒風を防げるうえに壁が厚いのか外気を完全にシャットアウトしていて、それなりにだが暖かい。それにホッとしながら渡されたメニューを眺める。
「なぁマクラウド、何食う?」
「うーん……きつねうどんでも良いけどちょっと刺激のあるものが良いなぁ」
「じゃあコレなんかどうだ?」
ラルがその料理を指さす。
「担々麺」
「ラー油(辛い油)と練りごまを加えたスープを使った麺料理」
というものだった。
「ふーん、辛い油ねぇ……面白そうだな。俺はこれを頼むことにするよ。ラルはどうする?」
「俺も担々麺にするよ」
「よし決まりだ。店主、注文だ。俺に担々麺をくれ」
「俺にも担々麺を頼む」
「はいかしこまりました。少々お待ちいただけますか?」
いつものように彼女は厨房の奥に引っ込んで作業を始める。
「さてどんな料理が出てくることやら……」
「この店だとハズレ無しで安心して美味いものが出てくるってのがいいよなぁ。他所じゃハズレを引くことだってあるからな」
マクラウドとラルは期待して待つ。この店に関しては今まで出してきた数々の絶品料理から全面的に信頼をしており、
間違っても変なものは出さないだろうと確信している。
その分、値段は「お高くとまっている」のだがその辺は必要経費として割り切るしかない。その分味が他所とはけた外れに美味いので帳消しはできる。
「お待たせいたしました。担々麺2人前になりますね」
「おっ。来た来た!」
待つことしばし、店主が料理を持ってきた。白いスープの上に所々赤い液体が浮かぶ中、麺や具がスープに浸かっていた。
「なるほど練りごまか。確かにゴマの香りがするな」
どんぶりに鼻を近づけると立ったゴマの香りが入ってくる。
「ところで何だ? この赤いのは……」
ラルはどんぶりをもってその赤い液状の何かを飲むと……。
「! 辛っ! これがラー油とかいうやつか?」
以前一回だけ食ったカレーライスの激辛ほどではないが、相応に辛いラー油の刺激が舌に来る。
「ラル、大丈夫か?」
「ああ大丈夫だ。不意打ちでびっくりしたけど慣れれば大したことはない」
胡麻の風味、それにピリッとしたラー油の刺激がクセになる味だ。
「相変わらずこの店の料理はすごいよな。どうやって作ってるんだろう」
「この麺もすごいぞ。雑味がこれっぽちも無いしスープとよく絡むぜ」
麺を食えば胡麻の味とピリ辛のラー油、それとよく絡む麺が三位一体となって口の中に広がる。
スープを飲めばゴマの香りと味がラー油と絡んで口の中に押し寄せる。もちろん「美味い」の一言しか出てこない。
マクラウドもラルも兵士なので流通に関してはド素人だがこれらの素材をどこから見つけてくるのか全く分からず、不思議だった。
「にしてもこの店のメシは異様に質が良いよな。他所の店とは大違いだぜ」
「ああ。町に出回ってる食材でよくこれだけの物が用意出来るか不思議だぜ」
そんなことを言いながら食事を続け、2人とも担々麺をスープの一滴のこらず食べつくした。
「ごちそう様。また来るよ」
「はい。またのご来店お待ちしております」
マクラウドとラルはそう店主に別れを告げて店を後にした。
「なぁラル、新婚生活はどんな感じだ?」
「まぁ順調だな。リリーは家庭の事も分かってるんでいろいろ助かってるよ」
「今度お前の家に行っていいか?」
「お前ならいつでも待ってるよ。マクラウド、お前もそろそろ彼女でも作ったらどうだ? そろそろ身を固めないとまずいぜ?」
「結婚ねぇ。結婚はいいとして子育てが難しそうだな俺は。子供が苦手でさぁ」
「そうか。そういやそうだったな。まぁいいか。仕事しようぜ」
「そうだな」
2人はそう言いながら午後の見回りを始めるのだった。
【次回予告】
嫁入りを数年後に控えた彼女は今から体つくりのため、特に揚げ物は控えられていた。その反動か、彼以外に家の者がいないここでガッツリとしたものを頼む。
第44話「ロースカツ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます