第2話 招かれざる客
『旧市街地区に最近、値段は高いがそれ以上の絶品料理を出す店が出来た』
『あの『猛獅子』ライオネル元将軍も常連らしい』
主に兵士たちの間で噂になっているのか、彼女の店は兵士が多い。だが、ここ最近は特に多い。
噂では旧市街地区を重点的に見回りをさせているらしい。なぜだろうと思う彼女の疑問に答えを出す兵士がいた。
「ああそうだ店主さん。戸締りはしっかりしてくださいよ。ここ最近物騒な事が起こってますんで」
「物騒な事って?」
「旧市街地区を中心に空き巣が増えてるんですよ。店主さんも気を付けた方が良いですよ」
ここ数日は見回りに来ていた兵士が多かったがそう言う理由があったのか。どうりで兵隊さんが多いわけだ、と彼女は納得した。
その数日後……開店前の光食堂に招かれざる客がやってきた。
(最近はやりの店らしいな。儲かってるんだろうなぁ)
灰色の髪をしたオオカミ型獣人の男が舌なめずりをしながら慣れた手つきでカギをこじ開け、押し入る。
チリンチリンと鈴の音が鳴るのを気にしつつも誰もいない店を慣れた足取りで厨房へと向かう。
(何だコレ?)
まず目が行ったのはテーブル。
テーブルの上には平べったい魔導器具と、その上に置かれた真ちゅうのヤカンが4つずつ、円柱状の魔導器具らしきものが同じく4個置いてあった。
特に円柱状の魔導器具は木でも金属でも陶器でもない、謎の素材で出来ている。
さすがにヤカンは分かるがそれ以外は使い方がさっぱりわからない。
そして中央に置いてあるのは円柱状の魔導器具と同じ素材で出来た四角い箱が2つ。
取っ手らしきものを引くと開いた。どうやら中に何かを入れる構造になってるらしい。
だが何に使うかまでは分からなかった。手にして見るとずっしりと重い。
(何かを入れる箱か? でも中に物があまり入らないし、持ち運ぶにしても重すぎるな)
その謎の魔導器具の後ろからは白い線が伸びており奇妙な四角い箱のような物体とつながっている。
これもおそらくは何かしらの魔導器具だろうとは思うがやはり使い道は一切分からない。
その謎の魔導器具の脇には鉄でできたビンが数本と、分厚く、紙としては頑丈なもので出来た箱、
それにテーブルに置かれてあった円柱状や箱型の魔導器具と同じ素材で出来た箱が数個置いてあった。
ビンや箱の表面には何か模様のような物と文字のような物が描かれてあったが完全に未知の言語でこれまた意味は分からない。
紙で出来た箱はフタが空いてあり、中に謎の素材で出来たふた付きの器のような物が何個も入っていたが何なのかはわからない。
謎の素材で出来た箱は何かあると思って開けてみようとしたが錠前が無いにも関わらず開かない。
持ってみると比較的軽量だったが持ち運ぶにはデカすぎるため諦める。
(妙な店だなぁ)
どうやらここは元々料理屋として建てられた家らしい。
だが、かまどには長い事使った跡が無いし、薪のストックもない。
それどころかフライパンやナベ、包丁といった基本的な調理器具すら無い。
(ま、どうでもいいか。それよりカネだな……)
魔導器具に関しては専門外である彼にとっては使い方が分からず、売り物になるかどうかさえ怪しい魔導器具より
即座に現金に出来る貴金属や宝石、あるいは現金そのものの方が重要だった。彼は物色を続けた。
(え……? 扉があいてる!?)
「光食堂」の店主である光はちょっとした用で店を後にした際に入り口のカギを閉めたはずだった。それなのになぜか開いている。
一瞬閉め忘れかと思ったが、確かに閉めた記憶はある。頭の中に兵士から聞いた空き巣の事が思い浮かぶ。
(もしかして……誰かが忍び込んでる!?)
どうしようかと恐怖で固まっていた時に、偶然見回りをしていた兵士達が彼女の元へとやってくる。
「あ、どうも。店主さん」
「兵士さん! ちょうどよかった! うちの店に泥棒が入ったみたいなの!」
「!! 何だって!?」
彼らに緊張が走る。
「俺とボブが正面から突っ込む。ダリウスは店の裏手にまわれ。ロンは仲間を呼んできてくれ。いいな」
チームリーダーは素早く指示をだし、流れるような動きで部下たちはそれに従う。
「よし……行くぞ!」
リーダーが勢いよく入り口を開ける。と同時にキッチンを物色していた泥棒を見つける。
「誰だ! そこにいるのは!?」
「!! クソッ!」
泥棒は勝手口を開けて逃げ出した。だが彼の前には外で待機していた兵士が立ちはだかる。捕まって取っ組み合いが始まる。
「クソッ! 離せ!」
「こっちだ! 来てくれ!」
泥棒ともみくちゃになりながら兵士は叫ぶ。間もなく仲間が応援に駆け付けてきて泥棒は取り押さえられ、御用となった。
光は改めて調理場に置いてあったものを一つ一つ確認する。
ガスコンロも魔法瓶も電子レンジもガス発電機もクーラーボックスも、そして「売り物」であるインスタント食品も無事だ。
「光さん、何か盗まれた被害はありませんか?」
「いえ。置いてあったものは全て無事です。大丈夫です。現金も置いてなかったので盗られてはいないです」
「そうですか。そりゃよかった。ところでこの魔導器具、何に使うんですかね?」
「まぁいろいろと……出来れば答えたくない秘密って事で良いですか?」
「ははっ。まいったねぇ」
他にも兵士たちに色々聞かれたが、答えられることは正確に、答えられないことは誤魔化した。
地球からこの異世界に持ち込んだものは誰にも言えない秘密なのだから。
【次回予告】
マクラウドは友人兼同僚のラルを誘い、光食堂を訪れる。そこで頼んだのはエールと相性抜群な料理だった。
第3話「鶏のから揚げ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます