第2話 スランプトンネル脱出なるか

「どんなものを書いているのかだって」

 泉にいたエルフは殆ど集まって、にわかエルフは好奇の目を向けられていた。

 ネココはファンタジー好きだったので、喜んでいた。

「セーラー服も学ランもおかしいのかもよ」

 イヌコの方が警戒していた。


「私は、ライトノベルで、エルフさんも勿論描かせて貰っています」

 ぺこりとお辞儀した。

「オオー・ライトノベル」

 エルフはざわついた。

「ワタシタチ・ライトノベルデ・カツヤク」

「そうなんですよ。華麗に活躍です」

 エルフが賢いのか話が通じる。


「俺は、純文学一本で。いつか賞を取りたいと思っている。エルフさんは、ネココの作品で知ったけれども、登場人物は現代人に着彩したのが多いな」

 びっと頭を下げる。

「ジュンブンガク? エルフ・イナイ」

 皆、首を捻っている。


「……。しまった」


「大丈夫だよ、イヌコ。今の私ならできるよ」

 ネココに転機が舞い降りたようだ。

 スマホをびっと出した。 

「そうだ。私はちょっとスランプ気味だったのですが、素敵なエルフさんのお陰で何か書けそうです。後で読んでいただけますか?」


「ライトノベル!」

「ライトノベル・ネココ!」

 エルフの囁きが明るくなった。


「お楽しみいただけるようにがんばります」

 猫野は、異世界ペンネームネココで一作書き始めた。

 スマートフォンをタップする。

 充電していた分で、書けそうだった。


 フイフイ……。

 スッスッ……。


 指が軽い。

 どんどん書ける。

 アイデアも湯水のようだ。


 テキストに書き上げて、「Fin」と打った所、文字が赤くなった。

「ん? 文字が違うな……。エルフさんの読める文字なのだろうか?」

 この世界の不思議さに、わくわくした。


「できました! 会心の作です!」

 赤い文字を高々とかかげた。


「ライトノベル・メルシー(ありがとう)」

 スマートフォンを手に取り、皆で回し読みして、楽しそうである。

「オオー・ネココ!」


「やった……。手応えあるわ。私、スランプから抜けられたのかしら」


「ネココ先輩、何書いたのか教えてください」

「えっと、それは……。ちょっと勘弁して欲しいな。かなり恥ずかしいので」

 ごめんなさいとイヌコに手を合わせる。


「スマートフォンのを読ませてくれ。俺でも読めるよな」

「いや! だめよ」

「タイトルだけでも」


 ネココは後ろを向いてしまった。

「わ、分かった……。『ふた房のたわわな果実』なんだけど」

「官能小説か。だから恥ずかしいのですか」


「ちょっと違うよ。でもお子さまにはダメだけど。イヌコはお子さまだから、ダメ」

「何でですか。先輩の会心の作を読ませて欲しいのですけれども」


「しつこいぞ、イヌコ。いつものクールさはどうした。珍しいな」


「フフフ」

「クスクス」

 とがった耳が震えている。


「ほら、エルフさんに受けているじゃないですか。俺もスランプだったんで、読みたいですよ」

「純文学、スランプだったの? いつも同じ行を目で追っていたのはこのためか……。分かったわ」


 ネココは、エルフに礼をして、スマートフォンを貸して貰った。

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