ラノベ転生変態漢ぶたの冒険<人生分岐だらけ

いすみ 静江

第1話 転生したらエルフ作家だった

「ライトノベルって面白いよ。いぬ君も純文学から、離れてみたら?」


 天羽あもう高校文学部の部室で、卒業を控えた猫野春美ねこの はるみが一年後輩の犬沢秋生いぬさわ あきおに頬杖をつきながら黄昏時の逆光を受けている。


「私は、ラノベって犬君の完璧主義を砕いてくれると思うよ」

 猫野は、艶やかな黒髪を腰のあたりまで伸ばした黒目のくりっとした幼顔で、世話焼きである。

 水色で膨らみ袖がポイントのセーラー服もよく似合う。


「俺は、純文学が合っています」

 犬沢は、天然のゆるいウエーブがかかった茶髪に端正な顔立ちがクールで、塩対応とマッチしている。

 猫野が横顔を見るように机を並べている。

 目と目を合わせるのは苦手らしい。


「じゃあ、ぎりぎりまで部活しよっか。私がノートパソコンで、犬君が原稿用紙ってよく友達にウケるって言われるのよ」

 カタカタとキーと対話をする。

 どうも指の動きは鈍い。


「原稿用紙のアナログ感が堪らないのですけれども」

 ペンを走らせた所に目を通す。

 同じ所を目が追ってばかりで進まない。


「校正するの大変でしょう? 保管とかも」

 猫野も負けない。


「紙は、信用が置ける」

「印刷すれば、一緒だよ」


 ダン!


「俺は、何も悪いことしていない……!」

 普段、沈着冷静な犬沢が机を叩いた。


 ――ぐらり……。


 空間が急に歪んで、大きな地震に襲われたと思った。

 椅子ごとガタガタと動いてじっとできず、二人は叫んだ。

「机の下だ!」

「机の下よ!」


「うおおおおおおおお。猫先輩、俺は……。俺は、好きでした……!」

「きゃあー!」


 ――スランプ・トンネルヘ・スクリュー……。


 キリキリする声と共に、ふんわりした朝露の草地に投げ出された。


「……」

「……」


「うっわ、猫先輩。向こうの泉を見てください。エルフばかりです……」

「そうね、エルフの集落に私達が迷い込んだのかしら……」

 囁き合った。


「それより、さっきさ。私のこと、何か言わなかった……?」

 耳まで真っ赤になって囁き続けた。

「き、気にしないでいてくれたまえ……」


「てか、それー!」

 犬沢が猫野の耳に気が付いた。

「猫先輩。信じがたいと思います。心して聞いてください」

「は、はい……」

 猫野は、どきどきして、さっきの続きを聞きたくて俯いていた。

「犬君、かっこいいし……。私は……」


「エルフになっています」


「は?」

「耳、触ってみてください」

 顔を上げて、ちょんちょんと触った。

「てか、犬君。君も……」


「エルフになっています」


「は?」

「鏡いる? スマートフォンが鏡なの」


「うおお! 学ランにエルフ?」

「私、お耳がとんがっているよー。天羽高校のセーラー服だし。変!」

 体をパタパタとはたく。


 ガサリ……。


「ドナタデスカ?」

 美しいエルフが二人を取り囲んだ。

 もしかして、危険な状態では?


「ナニヲシテイマスカ?」


「私、ネココ。この人はイヌコ。天羽文芸部の作家です」


「な、何を言っているのですか」

「しー……。咄嗟のことよ。あながち間違ってはいないわ」


「ネココ・イヌコ・ボンジュー(おはようございます)」


「おお、ボンジュー。仲良くしてください」


 緊張感はあるもののこの世界で生きていくには溶け込まなければならないと二人は顔を見合わせこくりと頷いた。

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