幼女政府は負け知らず

ちびまるフォイ

おまえらぜんいんようじょいか

不透明な金の流れ。

終わらない戦争の火種。

とどまることのない失言の数々。


政府の人間に愛想をつかした国民は、

地球上でもっともフレッシュな政府を作り上げた。


【 幼女政府 】



「みんな、今日のこっかいはなにする?」


「そうり! みんなでおままごとしたい!」


「かけつ!」


今日の国会中継もお茶の間を和ませていた。

画面には年齢が片手で数えられるほどの幼女が映っている。


「元総理、幼女政府になってから支持率は400%になっています」


「限界突破してんじゃねぇか!?」


「オタク票はもちろん、孫を持ちたい高齢者からの支持率がすごいです。

 元総理のときと比べて400倍です」


「俺の時1%の支持率だったのね……」


元総理の側近たちは今の現状に納得がいかない。


「元総理! このままでいいんですか!」

「なんのために、元総理と会食しまくったと思ってるんですか!」

「僕らがいい思いするために、政権取り戻してくださいよ!」


「お前らオブラートって言葉知らないの!?」


50代超えのおじさんたちは再び政権を取り戻そうと高級料亭で作戦会議。


「して、どうする? 現在の内閣支持率はすごいことになってるし

 我々が政権を取り戻すのはそう簡単じゃないぞ」


「なに言ってるんですか。相手は幼女。ものを知らないんですよ。

 我々がちょっと吹き込めば簡単にだまされます」


「おぬしも悪よのぅ」


元政府の役人たちは幼女たちに会談をもちかけた。




「かいだん? このあと、まーちゃんとあそぶやくそくあるから、いそいでね」


「ええ、ええ、総理。それはもう。その前にこちらをどうぞ」


「これなにー? おかし?」


「ええ、職人に作らせた最高級のお菓子です。食べればほっぺが爆速で飛んでいきます」


「いらなーい」

「ええ!?」


役人たちの作戦はのっけからくじかれた。


(どうするんですか!? お菓子で餌付け作戦失敗ですよ!)


(くそ……前の政府なら通じた手だったのに……とにかく次の作戦だ!)


「総理、最近の国の聞きついてはどう考えておられますか?

 インフラの整備、失業率、出生率。これらの問題をどう解決するか総理のご意見を賜りたいです」


元総理は幼女が答えられないところを見せて、いかにふさわしくない人材であるかを

つまびらかに証明させる「晒しあげ作戦」をはじめた。


「うーん。わかんなーい」


「総理! 一国のリーダーとしてその姿勢はどうなんですか!」


\そうだ!/ \そうだ!/ \そうだ!/



仕込んでいた仲間たちのヤジ援護射撃が入る。

この模様は全国中継されているから、幼女総理の無能さを全国民が見ているはず。


「国の事業はどうするんですか? 銀行の借入金は?

 国債の処理については? 総理、ご意見をお願いします!」


「え……」


「総理、まさか毎日おかし食べておままごとしているだけで

 政府がつとまるとお思いですか? 国をまとめて進めて行かないと!」


「ふぇ……うえええええええん!! うわぁぁぁあん!!!」


複数の大人からの糾弾に耐えきれず幼女たちは泣き出した。


「わたぢっ……だってっ……ひぐっ……がんばっ……のにっ!

 なんでっ……そんなことっ……い゛う゛の゛ぉ!」


「そ、総理……!」


「びぇぇぇぇぇえん!!!!!」


お茶の間に届けられたのは、子供を泣かす大人げない大人の姿だけだった。


これを機に、役人たちには暗殺依頼が届いたりパンツを隠されたりと

国民たちの反感を大いに買ってしまった。


「元総理、どうしましょう。このままノーパン生活を続けるのは耐えきれません」


「しかし、あの一件以来テレビに映っただけでバッシングされるし

 町に出たら拉致されてぼこぼこにされるし、もう挽回できないぞ……」


「おいお前! こんな大事なときに何見てるんだ!!」


側近のひとりが、ずっと再放送していた『ホームアローン』を見ている役人をしかりつけた。


「元総理、これですよ! とっておきのアイデアがあります!」


役人はテレビに出ている子役を指さした。


「子供なんて成長したら可愛くなくなります!

 もてはやされるのは子供のときだけ! だから成長させるんです!」


「たしかに! 国民はみなロリコンだからな!!」

「元総理、失言です。私は熟女派です」

「それは知らんけども……」


側近は最先端の科学研究所に発注して、成長を進める機械を作った。

それを国会議事堂に潜ませて幼女たちの成長をうながした。


数年後、可愛かった幼女たちはどんどん成長していまや「さん」つけしたくなるほど大人になった。


狙い通り、支持率もだんだんとじわ下がりしていく。

なまじ知識もつき始めたことで自分の立場にも耐えきれなくなっていった。


「はぁ……同世代の女の子はみんなあんなに遊んでいるのに、

 私が総理だからいつも国会に閉じ込められて……もうサイアク」


「総理ちゃん、もう解散しない?」


「それな」



『普通の女の子に戻りたいので、私もう総理やめます! 内閣終了!!』



そんなこんなで史上最短の内閣総辞職が行われた。

元総理と側近たちは、高級キャバクラでハイタッチした。


「やりましたね! 元総理!」

「これで我々が台頭するチャンスが巡ってきました!」


「ようし! さっそく立候補だ!!」


根回しに根回しを重ねた結果、元総理たちは返り咲くことに成功した。


 ・

 ・

 ・


が、数日もしないうちに内閣支持率はマイナスまで突き進んだ。


「幼女政府のときは戦争とかなかったのにな」

「ホント今の政府ってクソだな。税金悪用するしか頭使ってないんじゃね」

「また失言しやがった。もう死ねよ」


「国民のみなさん誤解しないでください!

 これは戦争を回避するために必要な国力の増強で、

 お金のやりとりは今後の活動をスムーズにするための献金で……」


「なんで幼女がやらなかったことを、こいつらはやろうとしてんだろうね」



その後、内閣はすぐに解散してふたたび幼女政府に戻った。



『かわいいは、正義』



これがその年の流行語大賞となった。

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