第弐話 オレ、人間喰ウッ!


『──で、我のところへ来たという訳か』


 空間に天地の区別が無く、遠方に星がきらめく闇の世界『無間界』。異界から様々な物が流れ着くこの場所の主、いにしえの神『津連布佐つづれふさの比紗瑚ひさご』の元に珍客が訪れていた。


『生身の人間が次元を越える、というのは並大抵なことでは無い。少々考えが浅はかでは無かったか?』

「耳が痛い話だ、だが反省はしていない。…それより力を貸して欲しい、どうせ今は暇なのだろう?」


 要約すると他のキャラをエントリーさせるから一緒に考えてくれ、ということだ。性懲り無い、というのはこういう事を言うのだろう。やれやれと思いながら比紗瑚は手をかざす。どこからともなく巨大な植物が生え無数の干瓢かんぴょうの実を実らせ始めた。この干瓢は日ノ本で起こった記憶その物、実一つ一つに映像が浮かんでは消える。

 

 比紗瑚は帳面を取り出すとパラパラめくり始めた。


『…成る程、強者が揃いも揃っておる。あの巫女を出す訳にはいかんのか?』

「ネタバレになる恐れがある。無理だな」

『ねたばれ??? どういう意味だ? …まぁよい。となると他の者か……ふむ』


 この木林という者、面倒な奴だ。しかし創造主でもあるが為に逆らえる訳も無し。パンパンと拍手をすると植物のつるが伸び、目の前に二つの実を落とした。


吟味ぎんみしたぞ。この二つからどちらか選べ』

「流石だな……せっかくだから、こっちのでかい方を選ぶぞ。こういう場合昔話ではでかい方が危険だと相場が決まっているからな」


 木林が干瓢に手を伸ばした瞬間のことであった、リアルでT県に地響きが起こったのである。


『まて、仮にも己の創造物を異界へ送るのだぞ? わかっていると思うが…』

「十分わかっている! 大丈夫だ、問題ない!」


 どこかで聞いたような言葉を口にする木林、一度掴まれた腕を離された。


「よっしゃあ! こいつさえ貰えればもう用は無ぇっ!!」


 凄い速さで干瓢をひったくりその姿は消えた! 呆気にとられる比紗瑚だったが、これだから人間は、と諦め再び眠りにつくのだった。



──1700年某日、日ノ本ケノ国。那珂なかの里では厳戒令が敷かれ、一部通行禁止となっていた。一夜にして御前岩ごぜんいわ御魔羅様おんまらさまが消えてしまったのである。この不可解な出来事自体も恐ろしいが、水戸光圀みつくに公ゆかりの岩が無くなったことでどんなお達しが下るか想像もつかない。役人は誰もが青ざめた顔で通行人の応対にあたっていた。



──そして異界、最強トーナメント会場。


 大会の催されるドームの外では異臭騒ぎが起きていた。


ズシン… ズシン…


 鳴り響く地響き、揺れる大地。見物に来たであろう観客たちはその大きすぎる影に思わず天を見上げた。


 そこには下を見下ろす異形の姿が!


 観客には目もくれず、巨人は目の前のドーム目指し進んでいく。逃げ惑う者の中で唯一逃げない女性の姿が! このままでは危ない!


「参加希望の方ですか? こちらに必要事項を記入ください」


ドシャッ!!


 チラリと見た巨人は女性の目の前にあった机に手をついたのだ!

 参加記入用紙の置かれていた机は無残な姿となる。


「確認できました、ごゆっくりどうぞ」


 女性が丁寧に頭を下げたのを見て、再び巨人はドームへと歩み始める。まさか人間の集まる会場を粉砕し、根こそぎ喰らうつもりなのか!?


ゴゴゴゴ………


バタン


 巨人は普通に扉を開け、中に入って行った。


 一体今のは何だったのだろうか、よくわからないが始まればわかることだろう。銘々めいめいにイベントを楽しみ続ける観客たちであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る