「ミクロ」の世界
「またか……またカメラでとらえようとすると、結果が変化するなぁ」
オールバックに白衣を着た、デンマークの科学者は、丸眼鏡を指で押し上げ、怪訝な表情を、金属の箱から覗かせた。
遊び心の無い、実験室の中央には、木製の机がどっしり構え、場所を取る。
机の隅に置かれた箱には、同じく、金属性の太い筒が取り付けられており、ライフルの銃口を思わせた。
銃口が狙い付けている物は、立ち上がった正方形の銅板。
机の真ん中に位置する銅板は、2本のスリット穴を開け、銃口の先を、更にのぞかせる。
銅板のより先、金属の箱と真反対の隅に、設置された石膏の壁。
波紋の形をした焼き跡が、こべりつく。
心なしか、片側だけ、焼け跡が濃い目に焼き付いている。
銅板と壁の間には、両脇から三脚で固定された、カメラが何かを捉えようとしていた。
壁にこべり着いた、波紋のような焼け跡を眺めながら、首を傾げた。
研究者は、ノートに記録を付ける――――。
コペンハーゲン大学にて。
電子の、一瞬の動き捉える為、カメラを、電子の通り道に設置。
より、正確なデータを取る。
余計な影響が出ないよう、光では無く、光から取り除かれた、”裸の電子”を利用する。
特別に作られた電子銃から、1つの電子を発射。
銅板に開けられた2つのスリット穴を抜けて、先にある壁に命中し、焼き跡を付ける。
予測結果では、1つ電子は、2つのうち、どちらかの、スリット穴を抜けて壁に当たる為、壁の片側だけに、焼け跡が付くはずだ。
しかし、結果は――――壁の中央から、波紋のように焼け跡が広がっている。
電子がスリット穴を通り抜ける直前、”2つに分裂し、2つの穴を、同時に通った”というのだろうか?
電子の動きを、より正確に捉える為に、銅板と壁の間の通り道に、”2台のカメラ”を置き撮影する。
しかし、撮影が始まると、壁の焼き跡は片側だけに集中した。
予測通りの結果へと変化。
いや、収束した。
何故、カメラで正確に、電子の動きを捉えようとするとすると、結果が変化するのだろうか?
観測、と言うよりは、我々が見る、と言う行為により、電子が変化しているとしか、解釈せざるを得ない。
解らない。いよいよをもって、解らなくなった。
私は電子という、極小の世界に振り回されているのか?
そういえば、ある科学者が、量子に関する事柄を「不気味な遠隔作用」と言って、
量子力学を研究する身でありながら、その意見には同意する。
――――実験室のドアが開き、研究者は、職員に呼ばれる。
「ミスター・ボーア。また、あなたの量子論について、問い合わせの連絡が来ています」
「次から次へと……解ったすぐ行く」
ボーア博士は、泣きの1回で、電子銃のスイッチを入れると、背を向けて、ドアへ向かう。
このとき、博士は見過ごしてしまったが、2つのスリットを通り抜けて、壁に照射された電子は、ほんの一瞬だけ、ハートマークの焼き跡を作り、溶けたアイスのように、広がり消え、いつもの波模様の焼き跡に変化した。
?????????????????????????????
コペンハーゲン解釈:
物理学者、ニールス・ヘンリク・ダヴィド・ボーアにより提唱される。
瞬間の彼女 にのい・しち @ninoi7
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます