越えられない峠

NEO

越えられない峠

 あれはもう何十年も前か。まだ、車の免許を取り立ての頃だった。

 贅沢にも新車を買った俺は、友人と深夜のドライブをしていた。

 まあ、よくあることで、十代のエネルギーは素晴らしい。埼玉県の越谷市から長野県に抜けようと計画を立て、俺たちはなんの下調べもせず、地図だけ見て真冬の道をひた走っていた。ガチの冬山を夏タイヤで走ろうとしたのだ。今思えば、アホな事をしたものだ。


 下道をひた走り、いよいよ本格的に雪山になった時の時刻は午前三時四十九分。今でもはっきり覚えている。そして、スリップして暴れる車をなんとか宥め、目的の峠に差し掛かった時には、道路の片側だけ「通行止め」のゲートが閉じていた。

 半分ゲートが開いていたので、そのまま車を進入させた途端、雪で凍結した急坂の路面により、たいして進まないうちにリタイヤとなった。当たり前だ。これは後で知った事だが、この県道124号は冬期閉鎖の道だったのだ。俺たちは帰るしかなかった。


 まあ、これだけならよくある事。調べていない俺たちが悪かったのだ。


 そして1年後の夏、俺たちはリベンジをはかるべく、再びこの地を訪れた。

 しかし、またもや通行止め。今度は道を完全にゲートが道を塞いでいて通れない。これも後で知ったが、タイミング悪く土砂崩れが発生していたらしいのだ。

 またもや長野県に抜ける事が出来ず、少々イラつきながら帰った記憶がある。


 しかし、俺は諦めが悪い。3年後に再び友人とアタックした。今度はゲートが閉じていない。勢い込んで進むと、今度は途中でよくある工事用の柵でガッチリ固められていた。

 またか……。落胆した俺の目に石碑がいくつも並んでいるのが見えた。人気は全くなかったが、なんとなく居心地が悪い。変な視線のようなものを感じたのだ。それも、複数。人もいないのに……。

 しかし、友人は脳天気なもので、車から降りて石碑の確認に行った。こんな峠道の傍らにしては、あまりにも石碑が多かった。ただ事ではないはずだ。

 そして、帰ってきた友人の顔色は真っ青だった。

「なんか、日航機墜落現場とかなんとか……」


 そう、全く調べていなかったのだが、俺たちが通ろうとしていたのは、あの日航機が墜落したぶどう峠だったのだ。その地点で何度も通ろうとして失敗したのである。変な気配が一気に増えた。気のせいかも知れないが、言いようのない恐怖を覚えたことは、多分生涯忘れないだろう。

 時刻は俺の腕時計で深夜一時二十三分。これは嘘臭く感じるだろう。しかし、あの123便と同じ数字だった。繰り返すが、これは実話である。こんな記憶、忘れるわけがない。


 言いようのない恐怖を感じた俺は、車をUターンさせて、慌ててその場から立ち去った。最後まで、妙な気配は消えなかった。


 それ以来、あの峠には行っていない。

 もういい歳こいたオッサンが、こんな話しをでっち上げてもなんの得もない。

あくまでノンフィクションである。

 もっとも、信じるか信じないかは、読者様次第であるが…… 

 

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