違世界日帰り生活で、僕は一日一善を心掛ける。

矢多ガラス / 太陽花丸

違世界日帰り生活で僕は一日一善を心掛ける

プロローグ:飢えて死ぬ現実

日本では1日あたり5人の日本人が飢えて死んでいる。


先進国と呼ばれる日本。

平和ボケしていると評価される日本。

みんな忙しく働いている日本。


この日本においてさえ、日本人の誰一人が飢えて死ぬことのない社会を実現できていない。

政治家は何をしているのか、国家予算はどう運用されているのか、私たちはもっとそういったことに目を向けるべきであろう。

そして飢えて死ぬ現実が確かにあり、それを回避できるよう早めに人生設計を立てないといけない。

おんぶに抱っこの義務教育は中学で終わる。

中学二年までにそういう考えができなければ、いずれ社会に出る者として、思考力がいささか低いことを自覚する必要があるかもしれない。


「……」


そして今まさに、思考力が低すぎた者が餓死しようとしていた。


若さと勢いで乗り切った約20年。まだまだ若いといえるが、彼が無益に過ごした日々は彼の若さに価値を与えていなかった。

遊び、おごり、刺激ばかり求め続けた成人。

知り合いは多いが友達はおらず、さらに借金ばかりで誰も相手にしてくれなくなった。

親の仕送りが止まる度に田舎へ何度も殴り込んだが、親はいつの間にか引っ越しており、今では行方知れず。かじっていたすねすら失った。


「……」


何が悪かったかわからない

親に教わった通り、マンガや映画の主人公のように、好き勝手やって生きてきただけ

どこもおかしくない


中学や高校ではそんな俺を見て皆が笑顔だった

さしずめ俺は、テレビの中から出てきたお笑い芸人

担任の先生も応援すると太鼓判たいこばんを押す程だ

そんな俺が何で、こんな目に合わないといけない


もう長いこと何も食べていなかった。

元々少食であったが、お金が足りなくなってからは精々1日1食。

知り合いから金を脅し取ったとしても、文無しで食えなくなるまでそう時間はかからなかった。

空腹をトイレの水道水でまぎらわしつつ、どうにか実家へ金をせびりにきたが、そこはもぬけの殻。

もう空腹のあまり体が動かない。

鍵は開いたため、何もない居間までたどり着き、そこで倒れてから早数日が経つ。


ばりり ばりり


ばりばりと居間のたたみを齧っていたが、そろそろ喉の渇きも限界だった。こんなものでも食べれば気力が出るかと思ったが、腹は満たされず体は動かない。


「…み……」


声を出すのにも体力を使う。

喉の渇きを訴えることすら億劫おっくうだった。


「……」


そして彼はピタリと畳を齧るのを止める。

この状態で何度目になるかわからない微睡まどろみ。それが来たからだ。

彼はそれをずっと待っていた。何故なら、夢の中にはいくらでも飲み食いする物があるのだから。


…あれ?


しかしどうだろう。全く食事が出てこない。


あれ? あれ?


予想してたのとは違う真っ暗な夢の中、彼は徐々に意識を手放した。


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