残像
事実上、世界を手中に収めていたのはネットワークテクノロジー企業G社。
G社の超広域気象観測プログラムDEERP、通称ディープは不自然な雲の形に注目する。
目視よりもきめ細やかな分析から人の流れと雲の形に相関関係がある事に気付く。
そして、それは戦争状態にあるエリアほど動きが活発で人の死と関係性が深い事もわかった。
G社は社外秘と呼ぶには稚拙に感じてしまうほど強固なセキュリティでディープに関わる情報を保護した。
同時に研究チームを立ち上げる。
研究チームのメンバーは恐るべき事に人工知能。
唯一のヒトはディープの生みの親、ローランド・ザナドゥであった。
人工知能が導き出した研究方法は"ゲーム"による人力調査であった。
社会実験プロジェクトと称して作り出された"INGRESS"というゲームは重厚なストーリーとシンプルなルールで世界中を熱狂の渦に飲み込んだ。
G社のゲーム開発者は、ディープの存在など知らされておらず、人工知能のシナリオ通りに動いていた。
開発者の自発的なアイデアですらコントロールの末に導き出されたものであった。
ディープが観測した物体は"X物質"と呼ばれ、人間の感情の残像である事がわかってきた。
長年、謎とされてきた心霊現象も次々と人工知能により証明されていった。
X物質は劣化せず長い年月滞留し、重力にのみ影響を受ける物質であった。
古来よりヒトが感じていたX物質の存在は、宗教や信仰、芸術、といったもので抽象化されていた。
X物質はヒトの精神にも大きく影響を及ぼす事が指摘されたところでローランド・ザナドゥは人工知能を停止させた。
ザナドゥは冷めやまぬ興奮と恐怖に苦しみ、誰とも共有できぬ孤独から自らの命を絶った。
自殺にしては派手な事故は、東京湾のタンカー沈没ニュースとして報道された。
タンカーに積まれたのは大量の重油と膨大なデータと爆薬を身に纏ったローランド・ザナドゥであった。
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