約束
一カ月後。
夜遅くのノックに「悪いが注文は受け付けてないんだ!」と怒鳴ったゼペットは「ジアッキーノ様よりの使いです」という返事を聞くとドアを開け、さっさと脇にどいた。
制服の男たちは二人がかりでトランクを運び込み、工房の作業台の上にどすんと乗せ、ゼペットに敬礼した。
「ゼペット様にご伝言です」
使者はまるで名誉を
『前略。貴殿のご尽力により母子共無事に危機を逃れました事、感謝に絶えません。依頼主のお申し出に従い追加報酬を持たせましたのでお納めください。また古いもので恐縮ですが、学生時分の解剖関連資料を同梱いたしました。墓を掘り起こす作業は腰に大いなる負担をかけます故、なるべくこちらをご利用なさいますよう』
そこでもう一人の使者がトランクの
『さて、貴殿に折り入ってご相談がございます。依頼主であるご母堂より、御恩を
ゼペットはやれやれ手間のかかることだと文句を言いながら、ペンとインク壷を持ってくると、真面目くさった顔つきで使者に言った。
「実は差し支えがないとは言えん。サインをする前に一ついいかね?」
使者がうなずくとゼペットは彼の口調を
「では。『ご命名に際しては、我がピッノキオ家の男が、先祖代々より例外なく大の女好きであること夢夢お忘れなきよう』。ジアッキーノ殿にそうご進言ください」
使者は笑いを
『追記
闇に潜む身の上で
新たなるご依頼を
再び貴方様とお会いする。
私はそう直感しております。
私はそう予見しております。
その時、私は何物かの陰に隠れたくない。
貴方様と並び、その光の中に進み出たいと願います。
つきましては、来るべきその日のために、
私の顔を作成しておいて頂けないでしょうか?
報酬については別途ご相談させてください』
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