ピノキオ異聞
玖万辺サキ
嵐を呼んだ男
ゼペット・F・ピッノキオは若い頃、商船の船員だった。
三度の飯より女が好きという大の
「俺と一緒に来い。結婚しよう」
ところが出航するやいなや船は激しい嵐に見舞われた。黒い雲は船につきまとい、激しい風雨を浴びせ続けた。
海の神はなぜこれほどまでにお怒りなのか?
船長は乗組員たちに船内をくまなく調べさせた。しばらくの後、積荷の陰に隠れていたという娼婦が船長室に連れて来られた。
「どうして俺の船に乗ってる?」
「ゼペットに誘われたの。あたしたち結婚するのよ」
船長は近くの船員に
「その……一緒に帰りたかっただけなんで」
船長は無言のまま立ち上がると、右手でゼペットを縛ったロープを、反対の手で娼婦の首根っこを
娼婦は泣きながら繰り返しうなずいた。船長は娼婦をその場に座らせ、浮き輪を頭から
船長室に戻って葉巻に火を点けた頃には、嵐は嘘のように過ぎ去っていた。船長は煙を吐き出すと割れ鐘のような声で叫んだ。
「ようそろ!」
†
ゼペットは鏡のように
船は去り、嵐は去った。女はどこにも見当たらぬ。海の真ん中で干からびて死ぬ。なんと皮肉な様だ。ぎらぎらと照りつける太陽を
猛烈な悪臭で気が付くと、粘りつく床の上に倒れていた。
ここはいったいどこだ?
後手に縛られたままで壁に背を付けて立ち上がった。壁もまたぬるぬるしている。洞穴ではなさそうだ。出口を探さなくては。暗闇の中を壁伝いにもたもたと
目も開けていられないほどの刺激。まるで地獄……いやここが地獄の入り口か。いよいよこれから裁かれるのだ。洞窟はいっそう激しくうねり、ゼペットは壁に床にと叩きつけられ、再び気を失った。
†
気が付くと太陽が照り付けていた。影になった人の顔が、ぐるりと自分を
「まだ息があるぞ!」
後手に縛られた手に、肩口に、甲板の硬い板を感じた。担架に乗せられて医務室に運ばれながら、ゼペットはぼんやりと考えた。
俺は……生きているのか?
地獄の入り口にいたのではなかったか?
なぜ戻ってこられたんだ?
それに答えるように担架を運ぶ船員の声がした。
「俺ぁ長いこと
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