スプーンいっぱいの甘さ

星気 紗名

クリスマス(玲×智)


クリスマスのプレゼントというのは、頭を悩ます。


特にいい歳した男性用。売り場をめぐってもわからない。ネクタイがいいかな?と思っても、趣味が合わなかったら、なんだかかわいそうだし、他のもの、例えば文房具なんかも、どうしても無難、にはなる。


「わからん…」


頭を悩ます玲に、友人の智が、のほほんとした口調で言う。


「なんでもいいんじゃないの?」


「いや、なんでもいいっちゃいいんだけど、やっぱり喜んでもらいたいし…うーん」


智は(下着を脱いだらそれでいいんじゃ…)とうっすらと思ったが、言わないでおく。それは、それ。これは、これ。


「とりあえず、優さんの趣味はどんなのなの?」


智が聞くと、玲は食い入るように、物品を眺めながら言う。


「どんなって…わかるっちゃわかるけど、わからないっちゃわからない。一番喜ぶのはたぶん電化製品なんだけど…」


「電化製品…。それはちょっと微妙だね」


智は、遠くに見える、万年筆売り場を見て、私だったらアレを買うな、と思いつつも、玲の真剣な表情に、少し微笑む。


「うん。買ってもいいんだけど、プレゼント…としては、いいのか、どうか。欲しいのは自分で買いそうだし、けっこう高いし、あんまりプレゼント的ではないよね。実用的ではあるんだけど…」


「時計とかは?」


「趣味があるからなあ」


趣味の問題は大きい。気にしない人なら、それでいいが、優、の趣味がどんなのか、果たして意外と気にしているのかどうか、までは、まだ玲はきちんとはわかっていない。


「わからん。頭、痛くなってきた」


「なんでも嬉しいと思うけどねえ」


智は、茶化すように笑う。とりあえず、休憩することにして、エスカレーターの横のベンチにふたりで座り、玲は、ホットココア、智は、ホットコーヒーを買って、何口か飲む。智は、コーヒーを回しながら、玲に尋ねた。


「付き合って、何か月だっけ?」


「2か月。あんまり盛り上がってないよ…」


「盛り上がりたい?」


「そう、でも、ない。でもちょっと…」


情熱的な恋、というもの。あこがれるが、果たしてほんとうにいいものなのかどうか、疑念を抱くぐらいには、齢をとってしまっている。


「でも安心はするんでしょ」


「安心…。もっといろいろ見えれば、安心するんだけどね。安心というよりも、どちらかというと落ち着くって感じかなあ?」


「なら、それでいいんじゃない?」


智は、ゆったりと歩く親子連れの子供に目をやる。子供は、親に手をつながれて、無邪気に笑っている。


「あ…」


玲は、立ち上がり、売り場の隅に行ってかがみこんだ。


「何?」


智が横に行くと、玲は、手に取った箱の裏面を目をすがめて、読んでいた。


「ミニプラネタリウム?いいんじゃない?」


「いいのかなあ?邪魔にならない?」


不安そうな玲に、智は笑いながら、言った。


「優さんなら、大丈夫だよ」





その後、夜、智は玲からメールを一通もらった。


「一緒にプラネタリウムを見ました」


(そんなことだろうと思った)


智は、冷蔵庫を空けて、ビールを取り出し、頭をタオルでふいた後、一口飲む。幸せなメールは、酒のさかなに、いいものだ、と思いながら。



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