11~15
(よし落ち着かせよう)
アッパー
フック
ストレート
目の前の少年を落ち着かせようとした司の脳裏に、一瞬物騒な選択肢が浮かぶ。
(おいおい! なんだよ! アッパーにフックって、他人を落ち着かせるのにパンチの種類が頭に浮かぶほど俺って危ない奴だったか? ダメだろ、俺も落ち着かなくては)
焦る司、何とか児童虐待に至らずに済む事に成功した。
(こういった場合はやっぱりあれだな)
本来司は、小さい頃より人見知りな面があり、特に子供とはどう接していいか分からない程だった。
しかし、プロのボクサーといえど生活を安定させる程の収入が無かった司は、副業として始めたスイミングスクールのコーチのバイトをする事で、子供達と気軽に話せる様になっていた。
バイトを始めてから五年経った今では、一般のスクールに通う子供達とは違い、大会を目指して練習する選手の子供たちも任されるようになっていた。
初めの内は、司への選手の子供達の反応は今一だったのだが、真面目に指導に取り込む司を見て感化され、次第に選手の子供達にとって最も信頼されるコーチの一人となった。
そんな子供達に悩みや相談を持ち掛けられた時、司がよく取る行動が一つある。
それは、子供達の頭に手を乗せ撫でる事。
その行動は不思議と子供達を落ち着かせる効果と、司自身が冷静になって子供たちの話を聞く事が出来る果があった。
そして、その行動を今この場で実行に移そうとする。司は少年に近い右手を上げ、
そのまま取り乱している金髪の美少年の頭に手を置こうとした。
ところが、
スルッ
「なに!!」
少年の頭に乗せたと思った司の手は、少年の頭をすり抜け、少年の胸の位置まで下がってしまった。
「キャッ、何するんだよ!」
両手で胸を隠すように抑え、こちらを見ながら後ろへ飛びのく少年。
目には若干の涙が浮かんでいる。
よく見ると、少年の胸は僅かに膨らんでいた。
様に見えたがそうでもなかった。
しかし、ここに来てようやく一つの誤解が解かれる。
金髪の美少年は、美少年ではなく金髪の美少女だったのだ。
俺の名前は青葉司(あおばつかさ)、25歳、男
プロのボクサーになる為に田舎から都会に上京し、練習を重ね、後少しで日本チャンピオンのタイトルを手に入れられるところまで来た。
はずだった……
俺はチャンピオンと試合をしていたのだが、途中からの記憶がない。
恐らく試合中に倒され意識を失ったんだと思う。
要は負けたわけだ。
チャンピオンとの試合は、自分がやれる事を全部やって臨んだ試合だった。
悔いが無いわけじゃないが、自分のしてきた事に後悔はしていない。
それに、俺はまだ諦めたわけじゃない、もう一度チャンピオンに挑戦する気満々だ。
……
だが… 今はそれよりもだ。
意識を失った後、一体何があったんだ?
何故俺は知らない場所に居る?
明らかにここは俺の部屋ではない、かといって病院でもなさそうだ。
それに、この小さな手はどういう事だ。
俺の手は、いつのまにこんなに小さくなってしまったんだ?
そして、目の前で胸を両手で押さえながら怯えている少女。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます