6~10
その手を見つめ、若干うっとりする司。
力は入らないが、綺麗な手ではある。
今迄の自分の手と比べ、不自然と感じる程に。
だが、司が感じている一番の違和感はそこではない。
「やっぱり小さい、これじゃあ大人というより子供の手じゃないか」
司が言うように、目の前にある自身の手は25歳の大人の手というには余りに小さく、10~12歳の子供の手と言った表現の方が正しかった。
(痩せた… とかの問題じゃないよな)
「そりゃあ、子供の手だもんね」
少し混乱気味になっている司の疑問に答えるように、突如横から声がかかる。
いつから居たのか、ひょいっと少年がベットの横から顔を出す。
(イケメンだ)
イケメンだった。
急な不意打ちの様に表れた少年は中性的なイケメンだった。
しかしこのイケメンには語弊がある。現時点での少年の事ではなく未来を見据えての表現だからだ。
近い将来きっとモテモテだろう。
少年の髪は男性にしては長く、女性としてはショートと言われる部類。
トップの髪が耳にかかる程度、それでもその髪がどんなに伸びようと崩すことのなさそうな直毛、少年という若さによる影響か、瑞々しく潤いを保っている。
何より驚かされるのは色、金髪なのだ。
染めたものではなく、司にとっては初めて生で見る天然の金髪、思わず触れたくなる程に奇麗な金色の輝きを放っている。
さらに、その上質な髪に合わせたかのような大きく二重な目、高く筋の通った鼻、唇は髪と同じく潤いを持ち色気を感じさせた。
そんないきなりの美少年の登場によって、呆気に取られている司を余所に、少年は司が座っているベットに腰を掛け、話かけるとういうでもなく、まるで自分自身の考えに納得するかの様に司を見ながら優しく口を開いた。
「何となくだけど、悪い人じゃないと思うな」
少年は、その顔立ちに見合った綺麗な微笑みを見せながらそう呟く。
(どうだろう… 自分じゃ悪くないとは思うんだが…
いざ面と向かって言われると自信がない。
それに、何故か目の前にいるこの少年が俺に話しかけている気がしない、まるで俺からの返事を期待していないかの様な…
寝ている人や、言葉を話す事が出来ない動物に話しかけてる感じがする。
しゃべりかけて… いいのかな?)
躊躇したが、意を決して少年の目を見て話しかける。
「どちらかといえば悪い人じゃない…… と思いたい今日この頃です」
(あれ?)
司は、目が覚めてから初めて発した自分の声に違和感を覚えた。
(これ俺の声か? 喉を痛めたのか、やけに高く感じるぞ)
しかし、司はその違和感に気をかける事が出来なかった。司の注意は自身の声ではなく、目の前の少年へと向けられていた。
少年が目を見開き、驚いた様な顔で司を見ていたからだ。
さらに少年は… 固まっていた…
微動だにしない…
(え? なに、俺なんかまずい事言っちゃった!?)
まるで、自分が生命を停止させる呪いの言葉を発したのではないかと思うほどに少年は固まっている。
司は焦った。
(え、え、何? 一体急にどうしちゃったの?)
司は、恐る恐る固まった少年に右手を伸ばし、触れようとする。
すると、
ガシッ!
(うお!)
先程まで微動だにしなかった少年は、まるで水を得た魚の様に急に動き出し、伸ばした司の右手を逆に少年が左手でつかみ返した。
そして今度は、司の目をしっかりと見つめ力強く問いかける。
「君、僕が見えるの!?」
(僕が見える? はて? おかしな事を言う少年ですな)
「まあ、視力は良いからね」
おかしな事を言う少年に視力を自慢する司。
「違うよ! そうじゃなくて!」
少年は慌てだした、手をバタバタさせている。
表情に至っては、泣いているのか笑っているのかさえ分からない程に取り乱している。
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