第56話 このニオイは


久しぶりの家は不思議な感じ。



ねえちゃんは部屋から出てこない。ばあちゃんはいる。

そしてねぇちゃんのそばにいつもいるあいつ。


「ああー! ああー!」


小さくて、いつも寝てて、たまに泣いたりするあいつだ。おちび。また泣いてる。



でもおれあいつ嫌いじゃないんだよね。



なぜかって?



そう、それはおれが動物病院にお泊まりする頃––––––。




「赤ちゃんに慣れるために、赤ちゃんのニオイがついたものをシロに嗅がしておきたいんです」

にいちゃんがそんなことを言って、先生に何か渡してた。

「わかりました。こちらでやっておきますね!」



……なんてことがあったんだ。おれにはよくわからないが。




それから毎日、


「ほーらシロ! これが赤ちゃんのニオイだよー」


えっ? なんだなんだこの布は。おもちゃか? くんくん。


「おっ! シロえらい! くんくんできたね! はいおやつ」


まさかの! おやつ! この布を嗅ぐと! おやつもらえる! つまりこれはおやつの布ってことだな!


「……シロ。おやつじゃなくて赤ちゃんのニオイに興味もとう?」


おやつ! おやつ!! おやつ!!!





……なんて事があってな。


つまりおれとしては、おちびのニオイはおやつのニオイなのであって。



おやつのニオイがするヤツに悪いやつはいねぇ! 



だからあいつはいいヤツ!!



そういうことだろ?

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