第41話 マラソン
少し前からぱんぱんに膨らんでいた蕾たちが、今が盛りと花開く季節がやってきた。
日々地面は温もりを増し柔らかく、適度に湿り気を帯びた空気は空に登り、いつもの景色に少しだけ靄をかける。空は青く、明るく、靄も輝いて立ち並ぶビルの輪郭を和らげる。
うららか。
春という季節を、人間は面白い表現で上手いことまとめたもんである。なんつって。
おれは花よりおやつ派です。
今日もいつもの散歩、の、はず。
「最近……体がなまってるから……マラソンするぞ」
さっきからふんふんしながらしゃがんだり、立ったりを繰り返してるねえちゃん。いつもと服装も違う。
びょーんと伸びをして、よしっとおれのヒモを握りしめてこちらを見つめるねえちゃんの目は、なにやら並々ならまだ決意を感じさせる。
「いくぞシロ!」
一声の後、ねえちゃんが走り出した。走る。どうやら散歩じゃない。今日は走るんだ!
おれは歩くより走る方が好きだ。うれしいうれしい。
「シロもやる気だね! 頑張って走るよー」
走りならおれにまかせろ! ついてこいよねえちゃん!
あっ! ハトだぞねえちゃん! ダッシュだ!
「うおっとぉ早いよシロ!」
次ぃ! 葉っぱだ! ダッシュ!!
「おいシロちょっと待てぃ!」
向こうにお姉さんとカワイイがいるぞ! ダッシュダッシュ!!
……ん? どうしたねえちゃん。まだまだこれからが本番だぞっ!
「はぁはぁ……ちょっと……このペースは……キツイ……」
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