おれは"カワイイ"

@muuko

第1話 おれの名は


 外が真っ暗な内に、おれは密かに目を覚ます。


 いつどんな危険がせまってくるかわからない。おれは常に気を張っているんだ。怪しい奴がナワバリを荒らしに来るかもしれないからな。

 ナワバリを守るのは男の仕事だ。


 耳を澄ませる。鼻を湿らせて高く上げてニオイを嗅ぐ。起きたら必ずこれをやるんだ。るーてぃーんって言うやつだ。よし、今日も異常なし。



 朝はいつも唐突にやってくる。


 おれの寝ぐらの目の前を二本の足が通り過ぎる。


 パチッ


 と音がすると目の前が明るくなる。


 朝だ。


 朝が来ると、おれは寝ぐらの入り口に座る。あいつがくるからな。


「おはよう、シロ」


 白くて細い指が寝ぐらの扉を開ける。

 いつも出迎え悪いな、ねぇちゃん。

 おれはシロって呼ばれてるけど、ねぇちゃんはなんて呼ばれてるかは知らない。誰もあいつを呼ばないからな。

 でも知ってる。

 あいつはニンゲンだ。

 小さい頃聞いたことがある。


 おれたちよりも大きく、

 後ろ足二本で歩いて、

 頭以外はつるつるで毛が生えてない、

 そしておれたちにやたら話しかけたり撫でてくる奴がいたら、それはニンゲンって言う生き物なんだって。


 おれと違う種類の生き物だけど、ねぇちゃんはいい女だ。


 なんで女ってわかるのかって?

 おれの本能が言ってる。甘くていいニオイがするのが女だ。

 おれの鼻に間違いはない。


 話の続きだ。


 扉が開いたらおれは外に出て、ねぇちゃんに挨拶する。

 おれの体をねぇちゃんに寄せると、ねぇちゃんが顔を近づけてくる。

 そしたら、おれの鼻をねぇちゃんの鼻にくっつけるんだ。

 これがおれたちの挨拶だ。これをするとねぇちゃんが喜んでくれるからな、ねぇちゃん嬉しくて前足でおれの全身撫でまわすんだ。だから毎日やるんだ。

 元気で何よりだ。

 これも、るーてぃーんってやつだな。



 そうそう、おれにはもう1つ呼び名があるんだ。


「シローー、今日もかわいい!」


 カワイイ!


 なんのことかはわからないが、これまでの経験から察するにおれは、


 "カワイイ"って生き物だ。

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