やっぱり最後はライダーキック

「見つけたわ、あのでかぶつを倒す方法」


「なんだ? ファイナルフォームライドでもするのか? 俺、名前はクウガと同じ『ゆうすけ』だけど、ゴウラムにはなれないぞ?」


「違うわよ」


 的外れな勇助ゆうすけ乃々ののはため息をつく。


「他の私。言わなくても、私の考え分かるよね?」


「もちろん」

「同じ乃々ののだもんね」


「それじゃあ、作戦開始よ! 勇助ゆうすけ十文字じゅうもんじの注意をひきつけて。あ、でもJじぇいは倒されないようにね。その隙に私達は十文字じゅうもんじに近づくから」


 そう言い残し、乃々のの達は拡散した。


「あ、お、おい……行っちまった。まだどんな作戦か聞いてないのに。ったく、しょーがねーな。行くぞ、モジシャンもじしゃんJじぇい


 勇助ゆうすけJじぇいを操作し、再び巨大黄金モジシャンもじしゃんに立ち向かった。




 乃々のの達3人はそれぞれ分かれて、3方向からの接近を試みた。

 

 気配・殺気・足音、その他諸々をなるべく抑えながら近づく。


 3人が十文字じゅうもんじの足元にたどり着いたのは、ほぼ同時だった。


 1人は右足のつま先、1人は右かかと、1人は左足の側面にそれぞれ立つ。


「(ここまでは順調……)」

「(でも問題はここから)」

「(あの場所にたどり着くには、文字通り、十文字じゅうもんじに接触しないと……)」


 例えば、蟻が人間の身体をよじ登ったら、その人間はどんな反応をするだろうか。


 おそらく、くすぐったい感触や痒みを感じるだろう。


 そして人間は蟻を振り払う。


 だがこれは、蟻が人間の皮膚に直接触れた場合の反応。


 もし人間が衣服を着ていたら、蟻が服の上を歩いていたら……人間は蟻の存在に気付くだろうか?


 答えは、分からない、だ。


 気付く人間もいれば、気付かない人間もいる。

 服の生地が極薄でも気付かないかもしれないし、極厚でも気付く人間もいるだろう。


 さて、ここで重要な問題。


 Q.モジシャンもじしゃんの装甲を纏った十文字じゅうもんじは、どちら側の人間か?


「(……迷っていても、仕方ない)」

「(Jじぇいだって、いつまでももたない)」

「(だったら、ここは……)」


「「「(速攻で決める!)」」」


 3人の乃々ののは一気に、巨大な脚を駆け上がる。


 モジシャンの走行スピードは4輪車並み。


 仮に時速60キロとするならば、秒速16.6メートル。


 重力の邪魔を無視して計算すると、およそ1.3秒で腰元にたどり着くことができる。


 そう。乃々のの達が目指していたのは、巨人の腰。



 そしてそこにあるのは……。



「(次世代じせだい文字るもじるドライバーどらいばー……そうか、乃々ののの狙いはそれか!!)」


 心の中で叫ぶ勇助ゆうすけ十文字じゅうもんじに悟られないように平静を装いながら、Jじぇいを操作する。


「(文字るもじるドライバーどらいばーは、モジシャンもじしゃんの要。それを破壊すれば……)」


 十文字じゅうもんじの変身は解かれる、と考える勇助ゆうすけ


 変身が解ければ、十文字じゅうもんじも元のサイズに戻るかは不明だが。それでも生身の人間なら、Jじぇいで簡単に対処できる。


 勇助ゆうすけはそう考えた。


 そして彼はJじぇいを通じて、十文字じゅうもんじにクリンチ(相手の身体に組みつく、挌闘技の一つ)を仕掛ける。


「(今だ乃々のの!)」


 勇助ゆうすけJじぇいのおかげで、十文字じゅうもんじに隙ができた。


 乃々ののたちは一斉に攻撃に転じる。


 刀で、杖で、銃で。それぞれ攻撃する。


「(必殺技じゃない……? いや、その方が良いか。必殺技を使おうとすれば、ドライバーどらいばーから音が流れる。音を聞いた十文字じゅうもんじが咄嗟に回避する可能性がある。通常攻撃の方が良い)」


 3人の攻撃が巨大な文字るもじるドライバーどらいばーに命中した。






 しかし。





 次世代じせだいドライバーどらいばーは壊れなかった。


 それどころか傷すらついていない。


「残念。その程度の攻撃では、壊れない」


 十文字じゅうもんじはその巨大な視線を腰元に、乃々のの達に向ける。


 実は十文字じゅうもんじは気づいていた。

 乃々のの達が自分に接近していることに、乃々のの達の狙いが自身のドライバーどらいばーであることに。


次世代じせだいドライバーどらいばーの出力はもちろんだが、ドライバーどらいばーそのものの耐久性も格別だ。簡単には壊れない」


 気づいてた上で、あえて乃々のの達を泳がせていたのだ。


 彼らに絶望を与えるために。

 彼らに、その作戦が無駄だと分からせるために。


「それにしても乃々ののくん、君……いや君達は実に愚かだね。必殺技ならともかく、ただの攻撃だけで、ドライバーどらいばーを破壊できるわけがなかろう」


「(くっ! 音声を気にして通常攻撃にしたのはマズかったか!!)」


 万事休す、そう勇助ゆうすけは思った。


 もうなす術がない、そう彼は思った。






「「「何を勘違いしているの?」」」


 3人がほぼ同時に、クールに言う。


「私達の目的は、ドライバーどらいばーを破壊することじゃない」

「本当の目的はドライバーに衝撃を与えること」

「よく見なさい十文字じゅうもんじ。私達の今の攻撃が、どこに命中したのか」


 乃々のの達の攻撃が当たった箇所。


 それは文字るもじるドライバーどらいばー本体でも、ベルト紐でもない。


 命中したのは……。




 ――ピリオド、ストライク!!――




 文字るもじるドライバーどらいばーの青いボタン、必殺技を発動するためのボタン。


 ベルトの軽快な音声が流れる。


「なんのつもりかね? そんなことをしても……」


「音撃打・火炎連打の型!」


 ――ピリオド、ストライク!!――


「音撃打・一気火勢の型!」


 ――ピリオド、ストライク!!――


「音撃打・猛火怒涛の型!」


 ――ピリオド、ストライク!!――


 刀、杖、銃、それぞれの武器でボタンを叩く乃々のの達。


 それこそまるで音ゲーをするかのように、まるで仮面ライダー響鬼のように。


 ――ピリオド、ストライク!!――

 ――ピリオド、ストライク!!――

 ――ピリオド、ストライク!!――


 何度も何度も叩く乃々のの達。

 何度も何度も声を発する次世代じせだいドライバーどらいばー


 すると、そのドライバーどらいばーから、プシュっプシュっと不穏な音が音声に混じって発せられる。



 ――青いボタンを押せば、必殺エネルギーが溜まるが、空振りになると暴発する――


 これは乃々ののの初陣で十文字じゅうもんじが言った言葉。


 ――2連続チャージは爆発的な力を生み出す――


 これも先ほどの戦闘で十文字じゅうもんじが言ったセリフ。


 そう、これが乃々のの達の本当の狙い。

 

 次世代じせだいドライバーどらいばーに極限までエネルギーを貯めさせ、暴発させる。


 それが彼女達の狙い。


 ――ピリオド、ストライク!!――

 ――ピリオド、ストライク!!――

 ――ピリオド、ストライク!!――


「やめろぉぉ!」


「させるか! Jじぇい!」


 エネルギーを逃がそうとする十文字じゅうもんじを、Jじぇいが、勇助ゆうすけが阻止する。


 やっと勇助ゆうすけ乃々ののの作戦を理解した。


 そして、自分を役割を、今自分が何をすべきかを理解した。


 勇助ゆうすけJじぇい十文字じゅうもんじを羽交い締めにし、動きを封じる。


「邪魔をするなぁ!!」


 十文字じゅうもんじは勢いよく前屈をし、Jじぇいを振り払う。


 十文字じゅうもんじの拘束が解かれる。


「甘く見るなよ! 暴発する前に、溜まったエネルギーで、3人とも握りつぶしてやる!」


 怒りが頂点に達した十文字じゅうもんじ

 その矛先は、3人の乃々ののへと向けられる。


 巨大な右手の平が乃々のの達に迫る。


「「「(くっ! あともう少しなのに……!)」」」


 十文字じゅうもんじの手が乃々のの達を捕らえようとする。



 その時だった。



 巨大な右手と3人が接触する寸でのところで、十文字じゅうもんじの動きが止まった。


「な、馬鹿な……」


 十文字じゅうもんじが戸惑っている。

 どうやら、動きが止まったのは、彼の意思ではないもよう。




「確か、その金ピカ状態でも、1分25秒は動けない、だったな?」




 そう言いながら、勇助ゆうすけの後方から現れる1人の男。


佐々木ささきっ!」

「「「じんさん!」」」


 そう、4人の先輩、佐々木ささきじんだ。


 そして彼は『止』フォームに変身した状態。


『止』の呪いを十文字じゅうもんじにかけて、動きを封じたのだ。


「馬鹿な! 貴様のプロトぷろとドライバーどらいばーは破壊したはず!!」


「……忘れたのか、十文字じゅうもんじプロトぷろとドライバーどらいばーで変身するモジシャンもじしゃんは俺だけじゃない」


 そう言いながら、腰に装着したプロトぷろとドライバーどらいばーを撫でるじん


「……! そうか、あれは奈央なおさんの……!」


 1人の乃々ののが叫ぶ。


 その通り。

 今、じんが使っているのは、亡き妹の形見であるドライバーどらいばー


 病室で、十文字じゅうもんじの巨大化を知ったじんは、大切に保管していたプロトぷろとドライバーどらいばーを持って、この戦場に来てくれたのだ。


「おい、佐倉さくら。ぼさっとしてないで、さっさとやれ」


「だから名前で呼んでくださいってば!」

「でもありがとうございますじんさん!」

「いくよ私達!!」


 ――ピリオド、ストライク!!――

 ――ピリオド、ストライク!!――

 ――ピリオド、ストライク!!――

 ――ピリオド、ストライク!!――

 ――ピリオド、ストライク!!――

 ――ピリオド、ストライク!!――

 ――ピリオド、ストライク!!――


「「「太鼓の達人クリティカルストライク!!」」」


 何度も何度も、巨大な青ボタンを連打する乃々のの達。


 彼女らが叩く度に、次世代じせだい文字るもじるドライバーどらいばーが、巨大十文字じゅうもんじが、真っ赤に光る。発熱する。


 数十秒ほど経ったところで、『止』の呪いが解けて、十文字じゅうもんじが動きだす。


 だがもう遅い。

 もう奴に、膨らみきったエネルギーを逃がす暇は無い。


「予定より早いな。やっぱり体積がデカいと拘束時間も短くなるのか? ……まあいい。33.3秒。それがお前の絶望までのタイムだ」


 じんがそう言い終わると同時に、十文字じゅうもんじの巨大な身体が大爆発する。


 爆音と十文字じゅうもんじの叫びが響き渡る。


 乃々のの達は爆発に巻き込まれないように、タイミングを見計らって、勇助ゆうすけじんに合流していた。


勇助ゆうすけじんさん! 今よ!」


 ――テンサク、フィニッシュ!!――


「トドメは5人で!」


 ――テンサク、フィニッシュ!!――


「やっぱり最後は、ライダーキックでしょ!」


 ――テンサク、フィニッシュ!!――


「いいねぇ、乗った!!」


 ――テンサク、フィニッシュ!!――


「……」


 ――DESTROY ERASER――


 必殺技発動ボタンを押す5人のモジシャンもじしゃん


 エネルギーをそれぞれの利き足に溜める。


 そしてエネルギーが溜まったタイミングで、5人はジャンプ。

 空中でひるがえり、飛び蹴りの態勢になりながら、十文字じゅうもんじに突撃する。


「「「オールモジシャンキック!!」」」


 5人のキックが十文字じゅうもんじの腹部に炸裂する。


 巨大黄金モジシャンもじしゃんは、次世代じせだいドライバーどらいばー、2つの文字石もじいしとともに爆発し、やがて消滅した。


 3人の女モジシャンもじしゃんによる勝利の叫びが、こだました。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 登場人物情報が更新されました


佐倉さくら乃々のの

 19歳。女性

 ミスコンで銅賞を貰えるほどの容姿を持つ。

 彼氏持ち。

 3人に分裂。

 赤いモジシャンもじしゃんに変身する。

 文字石もじいしは『く』『ノ』『一』


 彼女達の作戦により、十文字じゅうもんじを撃破


 好きなライダーは、仮面ライダー電王(超クライマックスフォーム)



江角えすみ勇助ゆうすけ

 19歳。男性

 乃々ののの彼氏。

 青もしくはオーシャンブルーのモジシャンもじしゃんに変身する。

 文字石もじいしは『幾』と『流』


 乃々ののじんと共に、十文字じゅうもんじを倒す。


 好きなライダーは、仮面ライダーディケイド(通常形態)。



かん一了かずあき

 40代。男性

 ワードカンパニーわーどかんぱにー社長。

 白のモジシャンもじしゃんに変身できる。

 文字石もじいしは『散』


 好きな仮面ライダーは、仮面ライダー2号。



草垣くさがき天音あまね

 18歳。女性

 ワードカンパニーわーどかんぱにーの秘書。


 好きな仮面ライダーは、仮面ライダーレーザー(バイクゲーマーLv.2)



十文字じゅうもんじたいら

 40代。男性

 文字るもじるドライバーどらいばーの開発者。

 黄金のモジシャンもじしゃんに変身する。

 文字石もじいしは『創』と『壊』


 5人の必殺キックにより、完全に倒される。

 

 好きな仮面ライダーは、仮面ライダーデューク(レモンエナジーアームズ)


 

佐々木ささきじん

 29歳。男性。

 黒もしくは灰色のモジシャンもじしゃんに変身する。

 文字石もじいしは『伊』と『止』


 妹の形見のドライバーどらいばーで変身。


 好きな仮面ライダーは、仮面ライダーナイト



佐々木ささき奈央なお

 享年20歳。女性

 佐々木ささきじんの妹。

 マゼンダ色のモジシャンもじしゃんに変身した。


 プロトぷろと文字るもじるドライバーどらいばーの欠陥により、死亡

 あの世から皆を見守っている。


 好きな仮面ライダーは、仮面ライダーオーズ(ガタキリバコンボ)

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