どうせデメリットなんて物語が進めば消失する

 数10分後、WC社長室。


 勇助ゆうすけ乃々のの佐々木仁ささきじんについての報告、そして添削てんさくして手に入れた2つの文字石もじいしを社長に届けに来ていた。


「うむ、ご苦労」


「それと、すみません。佐々木仁ささきじんには逃げられてしまいました」


 申し訳ない顔で乃々ののは社長に報告する。このことに関して、かんは何も言わなかった。


「……?」


「どうしたの勇助ゆうすけ?」


 何かが気になる顔をしている勇助ゆうすけを、心配そうに見つめる乃々のの


「いやなんかさ、身体がいつもより軽い気がして」


 その場でピョンピョン跳んでみる勇助ゆうすけ。彼は自分の身体に違和感を覚えていた。身体がまるで羽毛のように軽いのだ。


「おそらく『流』のデメリットによるものだ」


「デメリットって何だよ」


江角勇助えすみゆうすけ、君は『流』の力で流体に、水になったのだ。身体の1部だけではない、全体が水になった。そして水は乾いた物質に吸収される性質がある。君の身体を構成する物質の1部が、足の裏から地面へ吸収されたのだ。君の身体が軽くなったのはそのためだ」


 彼とじんが戦った場所の地面は石タイルだった。だから吸収される量も少なく済んだ。


 だがもしあの場所が土だったら、カッサカサに乾いた土の上だったら、勇助ゆうすけの身体全てが地面に吸収されてしまっていただろう。


 勇助ゆうすけは理解する、十文字じゅうもんじが言っていた10パーセントの意味を。人間に戻れなくなるという言葉の意味を。


 地面に吸収される勇助ゆうすけを想像して、ゾッとする乃々のの


「なんでそんな危険な石を勇助ゆうすけに渡したんですか!」


「私の判断ではない。たいらの独断だ」


 部下の失態は社長であるあなたの責任でしょう、と怒鳴る乃々のの。まあまあ、と彼女を宥める勇助ゆうすけ


「そう言うなって乃々のの。この石があったからじんを撃退できたわけだし」


「それは、そうだけど……」


 確かに勇助ゆうすけの言う通りだが、どこか納得のいかない乃々のの


 その時、社長室の扉がコンコンコンと叩かれた。


「社長。十文字じゅうもんじ様をお連れしました」


「分かった。江角勇助えすみゆうすけ佐倉乃々さくらのの、話はこれで終わりだ。今日は帰りたまえ。江角勇助えすみゆうすけ、とにかくそのブレスレットは強力な分、危険な面を持つ。使う場面を見誤らないように」


 はい、と返事をして社長室を出る勇助ゆうすけ乃々のの


 2人と入れ違いに、草垣天音くさがきあまね十文字平じゅうもんじたいらが入室した。


「やあ、話って何かな、一了かずあき?」


 笑いながら社長に話しかける開発部チーフ。笑う十文字じゅうもんじに対し、漢は静かに、だか確実に怒っていた。


「何故、『流』を江角勇助えすみゆうすけに渡した。あれは危険だと判断したはずだ」


 さきほどかんが言っていた、『流』を渡したのは十文字じゅうもんじの独断、だと。かん社長はそれを咎めるために十文字じゅうもんじを招集したのだ。


「仕方ないだろう。あのままでは我々は佐々木仁ささきじんくんに負けていた。『流』を渡したのは独断ではなく、英断と言って欲しいな」


 確かに十文字じゅうもんじ勇助ゆうすけに『流』の石を渡さなければ、WCのモジシャン達は『止』を持つ佐々木仁ささきじんに倒されていた。それは間違いない。


 だがそれでもかんの怒りは収まらなかった。


江角勇助えすみゆうすけに渡すにせよ、私に判断を仰ぐのが筋というものだろう。それにたいら、お前は『流』の性質を正確に伝えたのか?」


「危険があることは伝えたさ。もっとも私が細かく説明する前に、江角えすみくんは、ネット版のディエンドのごとく、盗んだバイクで走り出しだがね」


「貴様……」


「いいじゃないか。シミュレーションどおり、江角えすみくんは『流』を使いこなすことができた。結果的に良かったじゃないか。さあ、この話はこれで終わりだ。私は忙しいのでね。これで失礼させてもらうよ」


 一方的に会話を終わらせ、十文字じゅうもんじは社長室から出て行ってしまった。


 部屋には社長のかんと秘書の草垣くさがきのみが残される。


草垣くさがきくん」


「はい社長」


「最近のたいらの行動は目に余るものがある。やつの行動を極秘に調べろ」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 登場人物情報が更新されました


佐倉乃々さくらのの

 19歳。女性

 ミスコンで銅賞を貰えるほどの容姿を持つ。

 彼氏持ち。

 赤いモジシャンに変身する。

 文字石もじいしは『乃』


 仁に襲われるが、勇助に助けられる。


 好きなライダーは、仮面ライダー電王(超クライマックスフォーム)



江角勇助えすみゆうすけ

 19歳。男性

 乃々ののの彼氏。

 青もしくはオーシャンブルーのモジシャンに変身する。

 文字石もじいしは『幾』と『流』

  

 『流』のデメリットにより、体重が減った。


 好きなライダーは、仮面ライダーディケイド(通常形態)。



漢一了かんかずあき

 40代。男性

 ワードカンパニー社長。


 十文字じゅうもんじを怪しむ。


 好きな仮面ライダーは、仮面ライダー2号。



草垣天音くさがきあまね

 18歳。女性

 ワードカンパニーの秘書。


 社長の命により、十文字じゅうもんじを調べることに。


 好きな仮面ライダーは、仮面ライダーレーザー(バイクゲーマーLv.2)



十文字平じゅうもんじたいら

 40代。男性

 文字もじるドライバーの開発者。

 

 勇助に『流』を渡したのは、彼の独断だった。


 好きな仮面ライダーは、仮面ライダーデューク(レモンエナジーアームズ)


 

佐々木仁ささきじん

 29歳。男性。

 黒もしくは灰色のモジシャンに変身する。

 文字石もじいしは『伊』と『止』



佐々木奈央ささきなお

 享年20歳。女性

 佐々木仁ささきじんの妹。


 プロト文字もじるドライバーの欠陥により、死亡

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